田中栄二のママチャリ日記 第一弾



「決意」

 


詳しくはこちら(松田肇氏オフィシャルホームページ内の『週間!田中栄二 番外編』)を御覧になって頂きたいのだが、私は昨年、28回目の誕生日に、生まれて初めての「一人旅」をした。

大阪から東京まで鈍行に乗って帰ってこようと(結局名古屋で挫折)。
 
まあ、早い話、暇だった訳で。
 
安易な動機で行った旅ではあったのだが、そのあまりに刺激的な体験の連続に、私はすっかり『一人旅』の魅力にとりつかれたのであった。
 
嗚呼、素晴らしきかな一人旅。

それから、『旅好き』であることを自称し、ことあるごとに『一人旅』の素晴らしさを人に伝え、私も機会があれば又旅に出ようと常々思っていた。
 
しかし、結局機会に恵まれず、一年の歳月が流れ去ろうとしていた。 
 
いかん……このままでは単なる『自称旅好き』に終わってしまう……

そんな、危機感にも似た感情が私の中で芽生え始めていた。
 
そして、29回目の誕生日。
 
スケジュール表は空白である。
 

ついに来たか……
 

これは運命か……
 

そして、その空白のスケジュール表に私はそっと筆を下ろす。
 

2/1(金) 旅
 

こうして、『田中栄二生まれてニ回目の一人旅』は、またしても何の計画性もなく、私の中で静かに決定した。

 

さて、とりあえずどこへ向おうか。
前回の一人旅の時は、大阪での仕事の後の旅だった為、「東京に帰る」という明確な目的があり、その道中を楽めばよかったのだが、今回は家を出た瞬間から旅の始まりな訳で、とりあえずの目的地を定めないことには、いきなり路頭に迷うことになる。

色々悩んだ結果、何となく『名古屋』に照準を合わせた。
 
前回の旅が名古屋で終わっていた為、東海道線を完結させようという思いからである。
 
『とりあえず名古屋まで行って、鈍行で東京に戻ってくる』
 
この方針の元に、『旅計画』を立てることに。 

だがその旅計画は、いきなり重大な問題に直面することに。      

……そんなお金、ありません……


この時期は青春18きっぷも使えない(詳しくは前出のページ内参照)。いくら鈍行で行くとはいえ、まともにお金を払っていたのでは、なんだかんだで結構な額になる。加えて旅先の宿泊代や遊び代を考えると、現在の私の経済状況ではとても無理である。

そこで、色々考慮し、出た結論。

それが、『ママチャリで名古屋まで』。

 

よく人に問われる。

なぜそんな無謀なことを思い付いたのか……

なぜママチャリなのか……

それは、金をかけずに遠くまで行ける、というのが一番の理由なのだが、私にはもっと大事で、深刻な理由があった。

もし、計画通りママチャリで名古屋まで行ったならば……

私、間違い無く『伝説』を残せます。

 

しかし、自転車に関してはハッキリいって素人。一体何が必要なのか、どういう準備が必要なのか皆目検討がつかない。

そこで、私が所属するとあるバンドのベーシストH氏が、かなりの自転車好き(言い方に語弊があるかもしれませんが、とにかく凄く自転車に詳しいんです。レースとかにも出てます。自転車専門誌にも載るくらいでして)であることを思い出し、色々相談することに。

「いやあ、今度ママチャリで名古屋まで行こうかなって思ってるんですよ」

ベーシストとしては日本屈指の実力派であるH氏。私などおいそれと話しができる身分でも無いのだが、まあ、一応私もバンドメンバーであるし、思いきって気さくに相談。

すると、普段物静かなH氏ではあるが、目の奥がキラリと光る。

そして曰く「素人に名古屋は無理だ」

説得力200%

そこで、素人でも行けそうな所を訪ねると、伊豆あたりが距離的にも気候的にもいいんじゃ無いかと。いずれにしても、山越えは避けた方がいいらしい。

そして、結局私は『熱海』に照準をあわせることに。

距離的にもいいし、山越えも無い。そして、熱海には日本屈指のフュージョンドラマーN氏の自宅があるらしく、そこに泊めてもらおうと考えたからだ。

実のところ、N氏とは「会えば世間話をする」程度の間柄で、用も無く電話で話せるような関係では無い(というか電話番号すら知らない)。なにせ先方は有名人で、勿論自宅には行ったことも無いし、気楽に泊れるような関係では無い。

だが、私はその段階では宿泊先はN氏の自宅と決めていた。

だって、いきなりママチャリで熱海まで行って「泊めて下さい」って言ったら普通泊めてくれるだろうと。

そんな訳で、行き先は決定。

後はどういう用意が必要か。私は引き続きH氏に相談。

色々相談に乗って頂き、最後には「俺のチャリを貸してやるよ」とまで。

しかし、そのチャリ、かなり本格的なものらしく、操舵するにはそれ相応の技術が必要のようで。更にかなり重量があるらしく「油断してるとママチャリに抜かれる」らしい。更にH氏の自宅が所沢。

もし、貸して頂くとしても、電車で所沢までチャリを取りに行かなければならない。

 

それだけでも結構な旅じゃないですか……

 

私としては、どういう準備が必要なのかを聞きたかったのだが、それについてはあまり答えてはくれない。

なぜか暖かく笑っているだけである。

「いや、色々不安はあるんですよねえ……どんなトラブルがあるかわからないし」

「まあ、大丈夫だろ(笑顔)」

そのうち、同バンドのギタリストK氏までもが話に加わり始める。

「それいいねえ。行った方がいいよ(笑顔)」

そして、暖かく笑うH氏とK氏。

 

その笑顔はあたかも巣立って行く我が子を見守っているかのようである。

 

「いや、まだ行くって決めた訳じゃ……」

「いや、それは行くべきだよ(笑顔)」

「うんうん……(笑顔)」

 

実のところ、雨とか降ったらやめちゃおっかななんて考えていた私に、その先輩方の笑顔は雄弁と物語っていた。

 

 

行ってこい(笑顔)。


 

結局、『ママチャリで熱海まで』という計画はこの時点で決定した訳で。

 

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