田中栄二のママチャリ日記 第二弾



「蠢動」

 


こうして、『ママチャリで熱海まで』という計画は一応決定した訳だが、果たして実際可能な事なのか。

計画を立てるだけなら簡単だが、実行に移すとなると不安要素は盛り沢山である。

しかし、だからといって何も準備もせず計画を白紙に戻したのでは、本当に『有言不実行』の生きた見本となってしまう。

 

とりあえず私は、出発予定日を1月31日に定めてみた。

誕生日が2月1日なので、誕生日を熱海で過ごそうという思いからである。

そして、一応のルートを立ててみる事に。

私は、とにかく道に詳しいギタリスト(とにかく詳しいんです。初めて行った土地でも、あたかも地元住人かのようでして)M氏に今回の計画の事を話し、ルートについて相談。

 

だが、いつでも計画を白紙に戻せるように『いや、まだ決めた訳じゃないんですが』という一言をつける事は欠かせない

 

そして、M氏の協力の下、何となくのルートが決定する。

 

一日で熱海まで行くのはどうも難しそうなので、一日目は三浦半島在住のキーボーディストN氏の自宅に向う事に。多少遠回りにはなるが、位置的にはちょうどよく、なにより宿泊代がかからない。

そして二日目に、そこから熱海在住のドラマーN氏の自宅へ向う。

後は帰りの旅程であるが、来た道をただ帰るのでは芸がないので、町田とか平塚とかで一泊し、そこから国立経由で帰る事に。なんでも『道に詳しいギタリスト』M氏が国立の某カレー屋でライブをやるとかで、せっかくだからカレーでも食って帰ろうと(そこのカレー、本当に美味しいんです)。

 

町田あたりでの一泊を除けば、さして費用も掛からず、充分実行可能な計画。

 

行ける。これは行ける。

 

にわかに私の中で現実化して行く『旅計画』。

 

こうなれば実行あるのみ。とりあえず宿を確保するべく、熱海在住ドラマーN氏にアポを取る事に。

しかし、電話番号すら知らない間柄である。私は、ドラマーN氏と所縁があるキーボーディストM氏に今回の計画の事を話し、N氏との仲介を要請。

「……まあまだ決めた訳じゃないんだけど、ちょっとNさんに連絡とってみてくれないかなあ」

「うん、それは全然構わないんだけど、確かNさんその辺ツアーに出てて家にいないんじゃないかなあ

「えっ」

「とりあえずホームページとかで確認してみたら?」

 

はい、早速確認。

 

ホームページ情報によると、確かにツアー中である。

だが、私が行こうとしている日が名古屋でのコンサートのようで、M氏の話によると、ひょっとしたらその日のうちに自宅に帰る可能性もあるという。

 

しかし……

 

電話番号すら知らない大先輩に対して『その日チャリで泊まりに行くから帰ってこいよ』と、言える訳がない。

 

だが、一度軌道に乗りかけたこの計画、簡単に諦める訳には行かない。とりあえず、熱海での宿泊はうやむやにしておき、三浦半島在住キーボーディストN氏に連絡。

だが、キーボーディストN氏もまたその日は都内でライブのようで、四六時中家にいる訳ではないらしい。

 

ほんと、皆んさんお忙しいようで何よりです

 

しかし、キーボーディストN氏は私の計画に興味を示し、『ライブが終わり次第すぐ帰ってくる』という。

 

だが、どんなに飛ばしても深夜1時にならないと自宅には到着しないらしい。

 

深夜にもかかわらず、高速を飛ばしても都内から車で3時間かかるそのN氏の家。

 

一体ママチャリだとどれくらいかかるんだか不安を抱かずにいられません。

 

まあ、何はともあれ、『我が家〜三浦半島のN氏の自宅で一泊〜熱海で一泊〜町田か平塚あたりで一泊〜国立経由で帰宅』というおぼろげながらも『旅計画』は立案された訳で。

 

 

そして、出発予定の前日。

 

とりあえず初日のルートを地図上でシュミレート

まずは横浜を目指し、それから横須賀に行く。横須賀で三浦半島在住キーボーディストN氏との時間調整をして、頃合をみて待ち合わせ場所であるN氏が降りるインターチェンジ近くのファミレスに向う。後はN氏に道を聞けばよい。

 

具体的な道筋を確かめ、何となく気分は高まってきた。

 

もう行くしかない。

そう自分を鼓舞し、旅に必要な物資を手に入れる事に。

 

ある程度の防寒が必要と思われるので、ウィンドブレーカー上下と手袋を購入。

手ごろなリュックサックがなかったので、これも購入。

地図は、道に詳しいギタリストM氏よりすでに『首都圏ぬけみちマップ(でもちゃんと熱海まで載っているんです)』を借用済みである。

後は、ママチャリの手入れもしておきたいところであるが、どこをどう手入れしていいのか全くわからないので、とりあえず問題ないと言う事にする

 

不安要素は未だ数多くあったが、何とか行けそうだ。

備えは多分万全。後は天気が良くなる事を祈るだけである。

 

そしてもちろん……

 

雨が降ったら即中止する心の準備も万全である。

 

遠足の前日のような興奮の中、私は眠りにつく。

 

そして出発予定日。

 

天気、快晴。

 

田中栄二のママチャリ一人旅……東京〜熱海編』はこうして静かに幕をあけるのでした。

 

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