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令和6年7月
算数障害とパターン認知
要約:
出生前後の不安定事象により三位一体のDNAメチル化が生じることが学習障害の第一段階となる。三位一体とは人類がホモサピエンス時代に獲得した遺伝子発現パッケージ(生存スキーム)である。DNAメチル化によって、カルシウムの機能が亢進し、頭頂間溝と左右紡錘回が賦活する。これらの部位は文字や言語そして数の概念の獲得に必要な神経部位である。学習障害(算数障害)は、頭頂間溝の機能低下と関係していて、視覚のパターン認知に障害が発生する。これにより基数性と序数性の感覚が体得できず、これが数の概念生成を遅らせる。
人間の思考システムは旧脳型(運動野主体)から、新脳系(前頭前野主体)へと、主役交代するようなスタイルを持っている。算数障害は旧から新へと主軸が変動する時点(45歳)で始まるが、新脳系(前頭前野主体)の構造に影響を与えるわけでなく、思考能力の本質的機能は保たれる。
1.第一段階
算数障害の起源はホモ・サピエンスの時代に遡ります。ヨーロッパ大陸に渡ったホモ・サピエンスが寒さと飢えの中で生存戦略として取り入れたのが、(カルシウム・セロトニン・ミトコンドリア)を連携して効率化することです。そしてこれを、遺伝子としてではなく、個体に危機が迫ったときに、DNAメチル化(エピジェネティック)するという、ある意味賢い方法で後世に引き継ぎました。ここのところは、このHPの双極性障害の三位一体仮説として詳述しています。
ところで、当時の狩猟生活において、視覚情報の処理、なかでもパターン認知の向上は、彼らの生存に直結する能力であったはずです。獲物を遠距離からどうやって見分けるか、また現在位置を知り帰路への道順を理解するためにも、視覚情報から特徴あるパターンを抽出する能力が必要であったことは容易に想像できます。そのため、彼らは飢えから来る生存危機にあって、視覚情報においてパターン認知に特化する神経部位を作り、これをカルシウム機能の賦活化によって機能向上させる手段を獲得したのでしょう。
それから6万年が経過し、狩猟生活から高度な文明社会へと進化していきました。一方でこれに対応する形で、遺伝子機能もより複雑化していき、バグの発生確率も高くなります。また、人口密度も高くなり感染症の危険性も高まります。偏食からω3の摂取不足や、ストレス過剰になるとよる育児放棄やネグレクトも起こります。これらの事象は、母親の胎内、また出生後に子どもに重く圧し掛かります。そして、その結果が、DNAメチル化(エピジェネティック)の発生なのです。
といっても、このDNAメチル化(主としてカルシウム機能)には強度と影響を及ぼす神経部位の別があり、この差が罹患する神経疾患の別となって顕在化します。小脳のAMPA受容体と自閉症、一次運動野ベッツ神経細胞とADHD、そして頭頂間溝・左右紡錘回と学習障害です。機能的MRIやPETなどの脳機能画像検査によって、言語性発達障害では左紡錘状回の一部位、計算障害では両側頭頂間溝の機能障害が認められています。特に、読字障害(発達性ディスレクシア)では、左紡錘回の体積減少が確認されています。この体積減少は、カルシウム機能の亢進がカルシウム毒の発生をもたらし、神経細胞(シナプス)が自然死することによるものと考えられます。同じ理屈により、頭頂間溝の一部位も機能停止して、結果、視覚によるパターン認知が妨げられのでしょう
2.二つの思考主体
学習障害は、思考(認知)システムの応用障害です。そのため、学習障害の本質を知るためには、思考(認知)システムの大枠をまず捉える必要があります。これはあくまで仮説ですが、私は人間の思考(認知)システムは、おおよそ4歳前後で旧から新へと主軸移行する2段階システムと考えます。なぜそうなのかは以下示しますが、この2段階システム論によって、学習障害の発生についての整合性のとれた説明が可能となります。
上図を基に、2段階システム論の大枠を説明します。まず、出生後から5歳くらいまでは運動野が中央実行系の思考システムです。動物脳の時代ともいえます。運動野は感覚野からの情報により、周りの事物を認知・記憶し、課題解決法の初期段階を完成させます。一言でいうと、SVの時代です。S=subject(主語)で、V=verb(動詞)です。 犬(ワンワン)やネコ(ニャンニャン)の存在(S)を認知し、彼らが走ったり(V)、ジャンプ(V)したりすることを知ります。そしてこれらの情報は、彼の脳内に長期記憶として保たれます。
2歳~5歳 新旧両システムが混在する時代で、一言でいえば形容詞の時代です。ドパミン機能やヤコブレフ回路、パペッツ回路の完成によって、美しいや悲しいなどの感情(形容詞)が芽生えてきます。また、それまでの遊びを通じて量の概念も芽生えます。すなわち、重い、高い、多い・少ない、などです。 この量の概念はおそらく人間特有なものではないでしょうか。幼児はブロック遊びを繰り返すことによって、高い低いや、ブロック量が多い少ないなどの感覚を経験則的に感得します、その感覚に前頭前野を中心とした前脳が集合論的な概念を付与することによって、量の概念の萌芽が生じるのでしょう。このことから、形容詞の概念が生じる2歳から5歳は新旧両システムが並立している可能性が高いです。
そして、幼児も小学校に入るころになると新脳中心の思考システムが始まります。この思考システムは一言では形容できない広さと深さを持ちます。それでも一言でいえば代名詞の時代でしょうか。作文にHEやSHE、そしてITが入ってきます。そして課題解決策を脳内の(ITまたはX)を操作するだけで完結することができるようになります。
3.運動野が中央実行系のシステム 0歳~5歳
二つの思考システムの大枠を説明しましたので、ここからは旧脳型の思考システムのやや詳細な内容紹介をして、その上で学習障害の発生仮説を提示します。
赤ちゃんは出生後、眼・耳・鼻・舌・皮膚から外界の情報を集めはじめます。最初は舌でペロペロ舐めていますが、やがて眼と耳から情報、つまり視覚情報と聴覚情報を集め、その感覚情報を統合させることで外界を認識します。これは極めて重要なことで、統合された感覚情報は、認知と行動選択の原点になります。
感覚統合は、複数の感覚刺激に応答できる多感覚ニューロンに、複数(例えば、聴覚刺激と視覚刺激)の感覚刺激が同時にそして同程度の強度で入力された時に、起こります。例えば、ワンワン吠えている(聴覚)まさにその時に、4つ足(視覚)の動物を見るケースです。感覚統合が起こる場所は、上丘が中心と考えられていましたが、各感覚野の境目の領域でも発生することが最近分かってきました。
さて、ワンワン吠える四つ足の動物を見ていると、母親がワンワンと教えてくれます。これにより、赤ちゃんは今見ている動物を「ワンワン」だと記憶します。ここで記憶について簡単にふれると、「ワンワン」と記憶したのは短期記憶で数秒で消えてしまいます。実はこの時に、短期記憶は長期記憶を担当する神経ニューロンに送付されています。犬はいつもどこかにいるので、「ワンワン」と何回も聞きます。つまり短期記憶が何回も発生すると、長期記憶ニューロンのスパインが大きくなって「ワンワン」がスパイン上に保存されます。これが長期記憶です。ついでながら、短期記憶も長期記憶も何らかの課題解決の材料になれば、それは作業記憶です。
さて、乳幼児は経験を通じて「ワンワン」を認知しました。これを同様な4つ足で吠える動物に応用します。チワワや秋田犬、さらにはネコや熊にも応用します。これが「般化」です。ですからネコもタヌキも「ワンワン」となります。ところが、時間を置かずネコが「ニャンニャン」と鳴いていることに気づき、母親から「ニャンニャン」と教えられます。そこで乳幼児はネコを「ワンワン」と区別して「ニャンニャン」だと認知できるようになります。これが弁別です。
このようにして、乳幼児は感覚統合と般化・弁別を通じて、外界世界の認知対象を加速度的に獲得していきます。
人間の思考や課題解決策の基本的スキームはフィードバックとフィードフォワードです。これを上左図を基に説明します。Kは思考(認知)対象です。 (0~X)は(認知)対象の状態を示し、0はワーキングメモリーです。
フィードバックは試行錯誤的に確認を頻繁に交えて目標に到達する問題解決方法で、フィードフォワードは目標(到達点)から解決策を予め予想して、フィードバックを交えながら目標に到達する問題解決方法です。
具定例を提示します。
K1→K0
K1
三輪車をA地点からB地点へ動かす。 B地点にある三輪車をイメージ(K0)して、フィードフォワー
ドとフィードバッ クを利用する
K12→K3 複数のブロックを積み上げて塔を作る これは思考錯誤的なのでフィードバックである
K0→K0 K1 ワンワンと言われて画用紙にワンワンの絵を描く ワンワンの言葉を短期記憶し、それをイメージ
(長期記憶から引き出す)して、フィードバックに絵を描く
以上、認知と課題解決法について、説明しましたが、上図はそれを表していて、文章構造で表現するとSVOです。
Sは「私」で、その中央実行系は主として旧脳型ですが、23歳から自己認識が始まると前頭前野の新脳系も関わりが生じます。Oはobjectで「何を」ということです、感覚統合され長期保存された認知対象事物(ワンワン・ブーブー)です。Vは課題を実行するための手段で、積む・投げる・転がす・描く・・等々。
このように、旧脳系の特徴は、物を認知してそれに対する働きかけをすることが主題となります。その意味で、動物脳的ともいえます。
4.中央実行系が併存する時代 3歳~5歳
時のたつのは早いもので幼児は3歳になり、新たな認知思考主役が加わります。 旧脳システムと新脳システムはリレーのバトンタッチをするような二分法でなく、両システム混在の時代です。最大の特徴は形容詞の概念が身につくことです。美しい、悲しいなどの感情系に加えて、量の概念が身についてきます。重い・軽い・高い・速い・長い・短い・・・。
そしてその形容詞概念を表象するかのように、下に示すような言葉が出てきます。
この本は重い。新幹線は速い。犬のシッポは長い、など。 すなわち、S+be動詞+adjective(形容詞)の形となって表れます
5.算数障害の前段階
英語で「ミカンがたくさんある」は “There are a lot of mandarins” ですが、5個あるとは言っていません。
あくまで「たくさん」あるです。幼児はこの頃になると、より高いとか、より重いなどの比較感覚を経験(遊び)を通じ体得します。ですから、「たくさん」という概念も当然生じているでしょうし、他の果物(リンゴやバナナ)にも同様な感覚を持つはずです。
さて、数の概念の獲得には、基数性と序数性の概念獲得が必要であることが分かっています。基数性とは量の集合論的認知です。ミカンやリンゴ、または積み木など認知対象は違っても、同じ個数の集合があると認知できること、これが基数性の概念です。序数性とは、基数性で認知した「量の集合」を数的に順位づけることです。つまり、1個、2個、3個と順を追って増えていくことを理解することです。そして、この説明から分かる通りに数の概念は、基数性を理解し、続いて序数性を理解することで初めて形成されます。
上図は、基数性と序数性の概念を示しています。ここで左図(基数性)に赤字でパターン認知と記していますが、基数性の獲得にはパターン認知が必要です。動物は、パイナップルやバナナを認知し弁別することはできますが、カキとリンゴが個数2個の集合で共通しているとの認識はありません。一方で幼児はこれ(基数性)を理解できるようになります。それは、果物の集まりの中に、カキとリンゴに共通点(パターン)があると理解できるようになるからです。このように、パターン認知は基数性の概念獲得の必須条件です。
ここで、冒頭部分で述べた「学習障害と関係すると神経部位」を振り返ります。各種画像解析から、言語性発達障害では左紡錘状回の一部位、計算障害では両側頭頂間溝の機能障害が認められています。頭頂間溝の一部位は視空間認知やパターン認知を扱う神経部位であり、この機能障害は三位一体のDNAメチル化によって生じてきます。このことから、DNAメチル化が生じると、パターン認知に困難が生じ、連鎖的に基数性の概念獲得と序数性の獲得が困難になることが分かります。
数の概念は、基数性と序数性の概念獲得を前提としているので、一たび数の概念を獲得できれば、足し算や引き算は数の概念の技術的応用にすぎないです。
一方で数の概念なくして、数をただ単に数字と読みだけ(123をイチニサン)の感覚統合の延長で教えられても、それは単に、「あいうえお」の表音文字を教えられ記憶するのと全く同じことです。ですから、算数障害のある子にとって、2+3の答えを求めるのは、「あ+う」は何になりますかと問うことと同一なのです。
そして、まさにこの点が、算数障害原因の本質論となります。
6.新思考システムと算数障害
数の概念は、旧脳システムの経験の蓄積による量の概念に、新脳システムのパターン認知、基数性、序数性の集合論的認知が加わって完成します。年齢的にいえば、小学1年生の辺りです。そして、この年齢を境目に思考システム(中央実行系)は前頭前野を中心とした新システムに移行します。
旧から新への変更点としては、下記の①~③が顕在化してきます。
① 上図左の私を、彼や彼女にして、俯瞰的に第三者の思考過程を類推できるようになること。
② K0は作業記憶ですが、左右ともK0、つまり実物の視覚認知なくして、頭の中で認知対象を操作し完結すること。
③ K(0~X)に数字や軽量単位、時間単位、記号などが入ってくること
ところで、算数障害は、新システムの操作対象であるK(0~X)が、K(?)とならざるを得ないことであり、システムそのものに全くマイナスの影響がありません。これが、算数障害の特徴、「認知思考システムに遅れはなく算数障害が目立つだけ」の神経生理学的な背景です。
算数障害によって確かに生きずらい側面もあろうかと思いますが、中央実行系の認知思考システムが顕在なので、アイデア次第で算数障害のマイナス点を補うことはある程度可能です。また、本稿の仮説が正しければ、パターン認知力を鍛えることで数の概念を獲得することができそうです。「ゆっくり急げ」が算数障害克服の最良の方法になるかもしれません。
参考文献
* 全編を通じて bing copilot を利用していますが、提示された記事にて内容は確認しています