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ADHD発症神経基盤は精神疾患共通か 2026年3月
要約:
ADHDの原点は、出生後に生じた自己認知(楔前部が担当)が健常者の最大公約数的パターンから逸脱
することにある。この逸脱した自己認知は、感覚過敏、行動過敏、情動過敏を包摂した内容であり、
心理モードDMNの中核概念となる。
乳幼児期から児童期・青春期にかけ、個人の知的能力は拡大し、前頭葉を中心とした高度な自己管理
システムを完成させ、CSTC回路がその中核的システムの一つとなる。
CSTC回路は行動選択のシステムであり、皮質(C)の始点はDLPFC(背外側前頭前野)であるが、
ADHDではDLPFCから発せられた行動経計画が線条体(S)とマッチングできない。そのため始点を
DLPFCから内側前頭前野(mPFC)へと切り替える。図式化すると、(DSTD→mSTm)となる。
m(内側前頭前野)は心理モードDMNの中核的神経部位であり、楔前部と機能を共有している。
そのため、mSTm回路は(健常者と違う自己認知をベースにした行動計画)を実行することになり、
これがADHDの特性となって顕在化する。
第1章 神経回路の発達
(発達の大まかな流れ)
胚発生期(妊娠初期)
前脳・中脳・後脳の区画化 → 大脳皮質・小脳・脳幹などの“場所”が決まる
胎児後期〜出生後数ヶ月
神経細胞は位置が決まると神経回路がつながり始める→軸索伸長・樹状突起形成・シナプス形成が進む。
※GABA が興奮性 → 抑制性へ転換
その後(乳児期〜)
運動・知的能力・言語力・社会性は、互いに影響し合いながら発達していく。
(運動 情動 自己認知を形成する3経路)

乳幼児は、(小脳虫部、視床)を経由する神経回路を用いて、運動(内部モデル)・情動(感覚)
・自己認知を獲得していく。各回路はそれぞれ独立しているが、得られた結果は共有される。例えば、
自己認知は(運動主体、情動主体)としての自己を認識することから始まる。
※ アトラクター(attractor)は、複雑なシステムが最終的に落ち着く「状態の集まり」や
「振る舞いのパターン」を指す概念で、神経科学・物理学・数理モデルなどで広く使われている。
※ 辺縁系アトラクターとは:脳の辺縁系に形成される、
感情・情動の安定した活動パターン
のことで、人の“感情のクセ”や“反応のパターン”を説明する概念である。
※ 楔前部
自己とは何か”という内的モデルを維持する中心領域
であり、始まりは乳児期において
「身体マップ(身体位置の内部表現)」や「視空間的位置の把握」から「自分が世界の
どこにいるか」を理解することで、それが自己の独立性の基盤になる

(ドパミン経済圏とCSTC回路)
乳幼児から児童期・青年期へと個人の能力は飛躍的に拡大していきますが、これは社会生活への参加と
軌を一にするものです。個人は(自己認知・環境・人間関係・社会倫理・未来時制)の多変数の中から
最適解を選び、行動(修正)し、結果をフィードバックします。この複雑なプロセスを遂行するために
中央管理システム(前頭前野の成熟)が必要となり、その遂行手段としてドパミン経済圏が作動してき
ます。 さらにドパミン経済圏の基礎的システムはCSTC回路に集約されます。
ADHDの特徴は「個人の内的特性」と「社会との関係性」の両方の中に見出されるので、ADHDの病態を
理解するためにはドパミン経済圏(CSTC回路)の理解が必須となります。
※ドパミン経済圏とは著者の造語で、貨幣経済の概念を転用したものです。
(CSTC回路の超要約)

働き 皮質(背外側前頭前野 DLPFC)で作成した複数の行動計画から最適な行動案を選択するシステム
です。
作用
1 DLPFCで作成した行動計画案は高周波(γ波)の同期した情報で線条体へ送られる。
また、行動計画案は複数作成される(A案 B案 C案・・・・)
2 DLPFCから偏桃体へ同じ行動計画案が送付される。
3 偏桃体は計画案の価値判断を海馬(記憶)や視床下部(体調)とすり合わせて行い、それを線条体の
周波数や強さ(波高)に反映させる
4 線条体の(Θ波)は低周波であり、皮質からのγ波(高周波)と位相同期(カップリング)が成功
(β波の間にγ波が収納される)すると、行動計画はΘΓカップリング体で線条体から視床へ運ばれる。
そこで再びγ波に変換され、皮質にもどっていく。
5 複数案でこの過程を繰り返し、最適解が行動計画として選択される。
意味するところ
脳神経システムにおいて、新皮質は旧脳(辺縁系)の管理者であるが、逆もまた真であり、旧脳は
新皮質を管理している。
DLPFCの機能が安定していれば、DLPFC(管理者)の作成した行動プランが採用されるが、ココロが
不安に覆われていると辺縁系(偏桃体)サイドの行動を選択せざるを得なくなる。CSTC回路はクロス
カップリング(異なる周波数帯の脳波の結合)を用いて、新脳と旧脳がともに協調できる行動計画を
選択するシステムといえる。
(心理モード)

1 心理モードとは「心のモード(心理状態を支える脳ネットワーク)」を指す言葉で、私たちの思考
・感情 ・注意の切り替えを支える重要な仕組みです。
2 出生後、最初に機能する心理モードは、
楔前部
・島皮質(辺縁系アトラクター)・運動野が担い、
その後、認知機能の充実や社会生活への参加を通じて、各心理モードは神経部位の段階的発展をみる。
3 SN(注意切り替えモード)の中心は島皮質で、神経伝達物質(ドパミン・ノルアドレナリン)を切り
替え手段として用 いる。ノルアドレナリンはドパミンから生成され、心理モードの切り替えを即時に行うことが
できる。
4 DMNの内向き思考(内部シュミレーション)は主として皮質3層が主体となり、CENは主として皮質
5層が担当する。これは背外側前頭前野がCSTC回路の始点になることを意味する。
※ 5層→6層→線条体となります
5 DMNの内側前頭前野もCSTC回路の始点になるが、イレギュラー処理といえる。ADHD当事者はこの
イレギュラー処理を行わざるを得ない背景があり、これがADHD当事者の独特な行動スタイルとなって
表れる。
第2章 原因
(遺伝子 )
最新の研究では、ADHDの遺伝率は 約74〜80% と報告されている。
関係する部位(機能)としては、従来から前頭前野の機能低下やドーパミン系の異常
が中心と考えられて
いたが、 近年は脳ネットワークの接続異常が重要視されている。特に注目されているのがDMN
(デフォルトモードネットワーク)です。
この見解は「ADHDと遺伝の関係」を必要最小限コンパクトにまとめたもので、おそれく他の媒体の
記述も同じです。とことで、そこにある矛盾が感じられます。
ADHD当事者は幼児期からその兆候が見られます。ところが、上記の遺伝子関連部位(機能)は全て
児童期以降の成熟を前程にしているので、時期的にずれが生じています。 これに回答する唯一の解釈
は、DMNの初期段階を担当する楔前部が自己認知を形成する過程、すなわち3経路(情動生成 運動
モデル生成 自己認知生成)の統合に至る過程で、関連する遺伝子群が少しずつ影響を及ぼして3経路
統合機能に障害を発生させ、楔前部に独特の認知スタイルが刷りこまれてしまうことです。
(環境要因)
ADHDに関連が示唆される環境要因
妊娠中・出産前後の要因 妊娠中のストレスや合併症 早産や低出生体重 妊娠中の感染症や
炎症反応
幼少期の環境 早期の心理社会的ストレス 家庭環境の困難さ(貧困、家庭内ストレスなど)
その他の要因 親の年齢(特に父親の高年齢)
(重要なポイントその1) ADHDは遺伝要因が非常に強い。 環境要因は「リスクを少し高める可能性
がある」程度で、単独で発症を決めるものではない。
(重要なポイントその2) ADHDの発症仮説に対してどの媒体も「遺伝と環境の相互作用」とほぼ確実
に記されるが、結局、何も語っていない。両者は土俵が違う。つまり、環境要因を遺伝子や神経伝達
物質の作用性に翻訳して、候補遺伝子との相乗作用が該当神経疾患の症状と整合するかを確認する必要
がある。
(重要なポイントその3) その2の観点から考える。関連遺伝子は乳幼児期のDCM(楔前部)の自己認知
の独特パターンの形成に関係する(仮定)。一方、環境要因が「カルシウムイオン過剰をもたらし神経
回路形成異常」をもたらすとすると、関連遺伝子の作用性とうまくマッチングできる。
(環境要因とCa²⁺濃度上昇)

1 Ca²⁺と神経回路
発達期の神経回路形成には 適度な Ca²⁺透過性 AMPA受容体(グルタミン酸受容体) や興奮性GABAが
必要です。もしこの条件が満たされないとシナプス形成、樹状突起の成長、
経験依存的可塑性 が阻害
され、発達障害の一因となってしまいます。
しかし、逆もまた真であり、Ca²⁺透過性が高すぎる場合は神経毒性が強く別の病態を引き起こします。
つまり、GABAの抑制性転換が早すぎると、初期に必要な活動依存的な可塑性・結線形成が不十分に
なり、回路が貧弱・低反応、あるいは適切に組み替えられない可能性が生じてしまいます
2 環境要因とCa²⁺の関係
・オキシトシンは脳(視床下部)で作られ下垂体から分泌されるホルモンで、不安を下げ、安心感を高め
る方向に働きます。しかし、脳内ストレスが続くと、オキシトシンの分泌過剰がおこり、付随的に
細胞内カルシウム濃度を上げてしまいます。
・出生後のストレス(母子分離、低栄養、炎症、環境刺激の過多など)は、神経細胞のミトコンドリアに
次のような反応を起こします。
エネルギー需要の急増→ 活性酸素(ROS)の増加→
ミトコンドリア膜電位の上昇→
Ca²⁺取り込みの
増加→Ca²⁺放出が増える
3 Ca²⁺濃度上昇が影響をあたえる先
・小脳内カルシウム濃度は、GABA受容体にあるKCC2の発現や機能を通じてGABA作用の転換時期に影響を
与える。高いCa²⁺シグナル → KCC2発現促進 → 抑制性への移行が早まる。
・ AMPA受容体の構成変化(Ca²⁺非透過型への転換)
4 結果何をもたらすか
出生後ストレス → ミトコンドリア過活動 → Ca²⁺過負荷 という流れは、小脳プルキンエ細胞にとっては
致命的で、連動して小脳虫部の機能に負の影響を与える。
小脳虫部は上述3経路(運動 情動 自己認知)を統括しているので、小脳虫部の機能に制限がかかると、 3経路の協調的統合に支障が生じる
辺縁系にあるAMPA受容体が抑制性に働くと、感覚情報が得にくくなり感覚過敏性につながる。そして
この感覚過敏性をベースにして、けつ前部(DMN)に独自な認知バイアスが生じてしまう。
第3章 病態論
1 最初の躓き
前章(遺伝子・環境・エピジェネティック)から、3経路(情動 運動 自己認知)に何らかの
障害が発生する.
1 小脳プルキンエ細胞はCaイオン過剰に脆弱でその影響が小脳虫部に連鎖し、小脳虫部の機能
(3経路の調整・統合機能)が障害される
2 AMPA受容体がグルタミン酸抑制型に変化することによって、辺縁系への感覚刺激が抑制される。
そのため辺縁系は補償的に感覚感度を高める。これが感覚に対する過剰反応バイアスとなって、
感覚/運動/情動主体の自己認知に影響を与える。結果、その人の行動傾向や認知スタイルが“独特
のパターン”として安定する。
3 12は環境・エピジェネティックによって説明できるが、あくまできっかけである。きっかけは
それ自体でADHDを起こさない。本質は遺伝子異常、それもDCM(心理モード変換)関係とされる。
つまり楔前部 が独特の認知スタイルをこの時期に獲得するシステム(多数の遺伝子が少しずつ影響
する)にこそADHDの根本原因であると推察される。
2 内部シュミレーション

1
社会性の獲得には、他者の意図
・感情 ・文脈 ・過去の経験・自分の行動の予測結果など、
多くの変数を扱う必要があるが、ADHD児は独自の認知スタイルを形成しているため、「外界の情報
を効率よく処理できない → 内部で補う必要が増える」 という状況が生じる。
このため、DMN(特に内側前頭前野 mPFC)は、「原因は何か」「どうすれば避けられるか」を延々と
シミュレーションすることになる。これは、社会性のための「内部シミュレーション過剰」である。
2
DMNとDLPFC(背外側前頭前野)は
機能的に“反相関” つまり、片方が上がるともう片方が下がる関係
にある。このため、内部シミュレーション過剰はDLPFC(背外側前頭前野)の機能低下をもたらす。
3
DMNの内部シュミレーションは、DLPFCのワーキングメモリ回路(特に第3層)に干渉する。結果、
ワーキングメモリの保持は著しく不安定になる。
また予定記憶に必要な、
a. 前向き記憶「後で○○しよう」という“未来の予定”を覚えておく能力
b. 内的時計 時間の流れをなんとなく把握する能力→「そろそろ○時かな」と自然に気づく
c. 注意の自己喚起→時間が近づくと、今の作業から注意を切り替えて予定を思い出す
これらも、DMN内部シュミレーションの干渉をうける。このため、うっかりミスや忘れ物が多くなる
3 ドパミン経済圏とノルアドレナリン経済圏

これから記述するのは、ADHD発症原理(推測)の最重要箇所です。そのため、取り扱う内容は多岐に
渡ります。
a 環境刺激へのセイリエンス・バイアス b
心理モード転換システム c 心理モード転換と
ドパミン(ノルアドレナリン)経済圏 d 二つのCSTC回路 e Θαーγクロス
カップリング
いずれも重要概念で内容は難しく、しかも超要約です。 そのため理解しずらいかもしれませんが、
これを理解しないとADHD発症原理(推測)があやふやになります。
1 外部環境から情報が後部島皮質経由で前部島皮質へ入ってくる。前部島皮質はその情報に価値
判断(対処すべきか否か)を行うが、ADHD当事者はセイリエンス・バイアス(→特定の情報に過度
に重みを置いてしまう認知バイアス)が生じているため、過度な反応を起こしやすい。
2 島皮質から前部帯状回へその情報が伝達される。前部帯状回は情報に対して心理モードを決定する。
選択肢はDMN(内向き注意モード)かSN(課題遂行モード)の2択である。一方が賦活化すると、
他方が沈静化するゼロサムである。
3 前部帯状回の役割はDMNかCENいずれかの電気コードのスウィッチを入れることであり、回路に流れ
るのはドパミンかノルアドレナリンである(比喩)。
CENを選択すると、背外側前頭前野で行動計画をたて、その計画案をCSTC回路へ流す。いずれも
ドパミンの果たす役割は大きい。背外側前頭前野はDLPFCと略されるので、回路名はDSTD回路とも
いえる。
4 CSTC回路(DSTD回路)はDLPFCで作成された複数の行動計画の選択回路である。しかし、この回路
では行動計画は選択されない。背外側前頭前野から送られるγ波の周波数と強さ(波高)が、
線条体のαΘ波の周波数と強さとの間で、クロスカップリングが成功しないからである。
※この内容は、前章で解説済です。
5 行動計画(DSTD回路)は選択されない。そのため、行動計画は前部帯状回へ差し戻される。
6 前部帯状回は電気コード(比喩)のスウィッチをDMN回路に入れる。すると、回路にノルアドレナ
リンが流れてDMNモードは賦活する。ドパミンとノルアドレナリンは“親子関係”にあり、生化学的
には、 ドパミン → ノルアドレナリン という順番で作られる。
7 情報は後部帯状回経由で内側前頭前野 (mPFC)へ流れる。ここで、mPFC経由のCSTC回路(mSTm) 回路が作成される。線条体は辺縁系アトラクター回路の一部であり、DMNと親和性があるので、こ
の回路の行動計画は選択される。そしてこの行動内容こそが、ADHDの症状が顕在化したものとなる。
第4章 各種精神疾患発症の神経基盤
ADHD発症原理の推定はかなりハードです。ここで記載している個々の事象は全てAIで確認していまし
たが、それを色々と組み合わせ、症状と整合できる一つの仮説に落としこむのには想定以上の時間が
かってしまいました。
ところで、ADHD発症仮説の推察にある程度のメドがたち内容を振り返ってみると、「ADHD発症に対応
する神経基盤」は他の精神疾患とかなり共通していることに気づきました。つまり、ADHD発症に関わる
神経部位(機能)の組み合わせにより、個々の精神疾患の発症原理を推定できるということです。
例えば、妄想性統失をみてみます。
NMDA受容体の機能低下→DLPFCの機能機能低下→CSTC回路の行動選択が不調→心理モードの変換→
DMNのmPFcをCSTC回路の始点とする→3層主体の内部シュミレーションの内容が5層に展開する→イレギュラー
な行動を行う→5層に入った3層主体の内部思考と、5層のココロを作る神経回路アトラクターとの間で、拡大神経
アトラクターが生成される→妄想の始まり→ある程度続くと妄想回路が固定される→妄想性統失が固定する
他の多くの精神疾患、チック症・確認系強迫症・うつ病・カナー型自閉症・アスペルガーも、同じく
今回示した神経基盤から演繹的手法で、各々の発症仮説を再定義できそうです。
今後、この手法で各種精神疾患の発症仮説を作成し検証してみます。
※ 重要概念→心理モード転換、皮質6層構造、CSTC回路を回路、(島皮質、前部帯状回、内側前頭前野、
背外前頭前野の連携)、αΘΓオシレーション、クロスカップリング、アトラクター)