第7節 脳体積減少
多くの統合失調症患者で、脳体積の減少が認められています。箇所としては、前頭葉、側頭葉、そして大脳辺縁系の海馬や、偏桃体の特に左側です。ただし、画像をみて即断できるほどの大きさではないようです。
体積の減少は神経細胞の数が減っているからではなくて、神経細胞の樹状突起やスパインが減少してというのが、多くの研究者の一致した見解のようです。 イメージすると冬の枯れ木です。
※1 減少した神経網 ※
では何故そうなるのかということですが、未だにこれだという原因は特定されていません。原因が特定されていないので、当然のことながら疾患との因果関係は不明です。つまり、脳体積の減少が疾患の「原因なのか結果なのか」という因果関係です。とはいえ、いくつかの原因が仮説として提唱されています。
※1 「謎の統合失調症を解く」 丹羽真一教授 最終講義

(グルタミン酸過剰)
(活性酸素)
これについても、細胞毒性の節で説明しました。精神的ストレスからも活性酸素が発生することや、活性酸素の除去作用があるNAC(市販されているサプリ)が一部で統合失調症に効果ありとのエビデンスがあることから、脳体積減少に活性酸素が関わっている可能性があります。
(ミクログリア)
ミクログリアは諸刃の剣と呼ばれています。様々な神経栄養因子,神経保護因子を産生する一方で、活性化にともない炎症性サイトカイン,一酸化窒素,活性酸素,興奮性アミノ酸,などの神経傷害因子を産生します。このようにミクログリアは全く異なる作用性をもつと言われています。真偽は分かりませんが、ミクログリアが暴走し正常神経組織を攻撃することによって神経変性をもたらす可能性が指摘されています。
(シナプス刈り込み)
シナプス刈り込みとは、不要なシナプスを消去することで、残ったシナプスを有効活用して、神経の伝達効率を強める現象のことです。シナプス刈り込みは脳の発生の段階において特に盛んです。
神経細胞は最初にとりあえず過剰にシナプスを形成しておき、必要なシナプスだけを生存させ、不要なシナプスを消去することで、機能的に成熟な神経回路を形成していきます。
ところで、統合失調症の 発症好発期も,グルタミン酸シナプスにおける神経回路の再編成が活発に行われる時期です。もしこの時期に、前頭前野シナプスの過剰な刈り込みが行われると、「必要な神経回路が形成されず認知機能などの統合失調症を発症する」とする仮説が提唱されています。
(エネルギー不足)
神経細胞は軸索を伸ばし、樹状突起にシナプスを形成して他の神経細胞と連絡し、この過程の総和によって神経回路が形成されます。そのためには大量のエネルギー(ATP)を消費しますが、細胞の活動に必要なエネルギーの多くはミトコンドリアで生産されます。ミトコンドリアはブドウ糖と酸素を水と二酸化炭素に変換する過程でATPエネルギーを産生します。
※1 樹状突起やシナプスは神経細胞の末端部分であり、この形成のためミトコンドリアは神経細胞末端部分まで移動し、さらには生成したATPを現場まで運搬システムが存在していることが最近の研究で判明しました。※
もし上記下線部分が何らかの理由で阻害されると、樹状突起とシナプスの形成がうまくいかず、脳体積減少の原因となるかもしれません。
※脳が発達する過程で神経細胞内のエネルギーを維持するメカニズムを解明 京都大学


この節は統合失調症と脳体積減少に関わる内容でした、他に興味深い内容がありますので下に記します。
① 脳体積減少で一番目立つのは海馬と偏桃体で、その減少メカニズムは上記内容とおそらく違うと思われ
る。
② 海馬と偏桃体の左側の体積は右側より小さい。逆に右側が左側より小さくなる組織もある。視床、被殻、 尾状核など。
③ 体積が増大する箇所もある。尾状核、被殻、淡蒼球など大脳基底核と呼ばれる旧脳に属する組織である。 この箇所は強迫性障害発症の原因とされるCSTC回路に属している。