第1章 基礎                                                   次頁    総合案内


 
第8節 
統合失調症


 

(症状 診断)

 統合失調症の症状のカテゴリーは下の3種類です。ただし症状の出方は個人により強弱があります。 これは統合失調症が原因の違う疾病の集合体(症候群)であるからと言われています。

 診断基準は極めてシンプルで、画像検査も血液検査もありません。ただ単に、陰性症状もしくは陽性症状が、
一定期間以上続けば統合失調症と診断されます。そんな簡単な診断基準でいいのかと思いますが、この診断に即して治療を進めることで多くの人に症状の改善がみられるので、妥当性があるといわれています。といっても当然のことながら誤診もあります。 陰性症状中心の診断だと鬱病との誤診が多いとのことです。


          various symptoms

統合失調症の疫学

 統合失調症の疫学(「謎の統合失調症を解く」 丹羽真一教授 最終講義 YUTUBE  参照 )

・年間発生率は地域によりいくらか異なり、ただし工業国の都市地域に生まれた人に多く発生する

・生涯有病率は、統一した診断基準を用いれば、国・文化・時代を超えてほぼ一定。 約1%  

・生涯有病率に男女差はないが、女性は男性に比して発病時期が遅く、入院回数が少なく、社会生活機能
 予後が良い


(その他、やや特殊な内容の統計)  著者が個別に調べたデータ

・左利きの人は統合失調症にややなりやすい

・逆に盲目の人はは統合失調症になりづらい

・冬や春に生まれた人は、発症リスクが上がる

・幼児期に犬を飼っていた家庭の子どもは統合失調症発症リスクが下がる。猫では関係ない


(仮説)
 原因(仮説)としては、ドパミン仮説、グルタミン酸仮説、サイトカイン炎症仮説、ミクログリア
仮説など種々ありますが、これらは神経生理学上の単一の物質的基盤を基に原因を探ろうとするもの
です。

 この他に、遺伝的素因と出生後の環境の影響を加味した、神経発達障害仮説が提唱されています。
内容は、
統合失調症では出生前後からヒトの神経系の発達に何らかの障害(遺伝子変異)があり、
病気のなりやすさ(発症脆弱性といいます)が形成されていて、このように脆弱性を持った子供が、
思春期以降、外界からのさまざまな心理的社会的なストレスを受けると統合失調症がはじめて発症するとするものです。

 著者はこの仮説は当然なものと思う反面、多少ひっかかるものがあります。というのは神経発達
障害仮説は、遺伝子異常(マイナス)と環境(マイナス)のマイナス因子の相加相乗作用による一側面しか考慮していないからです。当然のことながら、マイナスの因子がいくらあっても発病しない人はいます。 例えば、ヘビースモーカーでも肺がんにならない人はいくらでもいます。つまり、マイナスの側面ばかりではなく、プラスの側面(生得的な防御遺伝子や望ましい環境)も考慮すべきで、統合失調症になるか否かは両者の相対的な力学関係によって決まると思うのです。


(経過)

 統合失調症の顕在発症(急性期)以降の経過は下左図のように描かれることが多いようです。つまり陽性症状によって発症とされ、薬の投与によって陽性症状は消失し、その後、陰性症状が顕在化してきて、一定期間(休息期)の後、回復期へと向かう。ところが実態は、下右図であると思います。要は、陽性症状の陰に陰性症状が隠れていることです。これは陽性症状のインパクトがあまりに強烈だからでしょう。そのため、非定型精神病によって急性症状が改善すると、代わって陰性症状や認知機能障害が顕在化してきます。 
 分類ですが、下図(最下)のように分類されます。1・2の予後良好群は計57%あり、昔と
比べてこの比率が高まって(軽症化)いるそうです。


progressprogress



              Progress classification

発症後の経過(予後)を決定する因子について、下表のようにまとめられています。

MSDマニュアル プロフェッショナル版)

予後良好因子としては以下のものがある:

病前機能が良好であること(例,優秀な学生,しっかりした職業歴)

発病が遅いか突然であること

統合失調症以外の気分障害の家族歴があること

認知障害がごく軽微であること

陰性症状がほとんどないこと

精神病未治療期間がより短いこと


予後不良因子としては以下のものがある:

発症年齢が低いこと

病前機能が不良であること

統合失調症の家族歴があること

陰性症状が多くみられること

精神病未治療期間がより長いこと

男性は女性より転帰が不良であり,女性の方が抗精神病薬による治療への反応が良好である。


   精神医学に関するトピックで最近話題になっているのは、「統合失調症の軽症化」ですが、これに関係すると思われるのは、従来緊張型統合失調症と呼ばれる類型(急に発症して、著しい興奮状態
と混迷状態を併発する病態
の減少です。

 この緊張型は田園地帯(田舎)に多く、都市化の流れの中でその数を減らしています。

      急な発症の背景(病因)に感染症要因があるとすると、田園地帯の都市化による栄養状態・
      医療水準
の向上が間接的に緊張型統合失調症を減らしていることに納得できます。

  さらには、

2 冬季出生の子供は、統合失調症リスクが増加するといわれていて 

      ビタミンD欠乏症や子宮内でのウイルス曝露などの統合失調症の潜在的な病因リスク因子に関する
      仮説
が考えられています。

 精神分裂病小史 放送大学研究年報 石丸 昌彦   

2 生まれた季節と統合失調症リスク~メタ解析 ケアネット