(神経伝達物質GABA)
GABAは、グルタミン酸・NMDA受容体とともに統合失調症グルタミン酸仮説を成す中心物質であり、GABAとNMDA受容体の共同作業の破綻が統合失調症を引き起こすとされています。
まず、GABAは抑制性の神経伝達物質であり、脳内の情報伝達において過分極(電位活動の制御)の働きをします。前シナプスからGABAが放出されると、後シナプスにあるGABAA受容体に結合してチャネルが開き、クロールイオン(Cl−)が流入します。これによって後シナプス内の電位が下がり脱分極(発火)を防ぎます。 これにより、後シナプス以降に電気が流れなくなり情報伝達が途切れます。
これだけ聞くとネガティブなイメージになるかと思いますが、興奮を鎮める働きと捉えるとどうでしょうか。人は限りなく走り続けることも、考え続けることもできないのです。どこかで、意思(欲求)にストップをかける必要があります。
その他、覚醒,睡眠,概日リズム,学習,運動,感覚情報処理など脳の機能を構築する上で中心的役割を果たしているとされていますが、これは、GABAがどの神経細胞を抑制するかに関わっています。
(GABA受容体)
GABA受容体は2種類あります。イオンチャネル型の受容体はGABAA受容体と呼ばれ、一方のGタンパク質共役受容体はのGABAB受容体と呼ばれています。
また同じ抑制性神経伝達物質グリシンのグリシン受容体は、主に脊髄や脳幹においてGABAAと共発現しています。
(GABA神経細胞)
GABA ニューロンは化学的には少なくとも 4つのグループが存在していますが、ここでは対象を絞り、(1) パルブアルブ ミン細胞(PVニューロン) (2) ソマトスタチン細胞(SSTニューロン)について、グルタミン酸ニューロン(PYR)との位置関係と役割について紹介します。
PVは錐体ニューロン(グルタミン酸神経細胞)の細胞体周辺に発現します。PVとPYRはループ構造をとっていて、これがγオシレーション形成の重要な発生装置となります。
※ γオシレーションについては認知機能障害の章で紹介します
SSTは錐体ニューロンの樹状突起の末端部に発現します。PYRの情報を他の神経細胞に伝えるときの興奮・抑制の調整役として働くのが第一の役割ですが、錐体ニューロン末端部には他領域からの軸索が集まっていて、SSTはそれを抑制作用によって選別します。注目はSSTとPVが連結していることです。これは、GABAニューロン(PV)上にgaba受容体があるということを意味します。
※ 他領域の情報→SST→PVから、脳内の情報を一元的に集め脳内の神経回路の司令塔(交通整理)をしているのが
PVでそれの橋渡しがSSTだろうと予測します。
(γオシレーション)
さてここからが本題です。以下述べることが統合失調症グルタミン酸仮説の核心中の核心部分です。 まず下図を見てくさだい。ここから分かることは、
・ グルタミン酸ニューロン(錐体ニューロン)の近隣にGABAニューロン(PVニューロン)が配置されて
いる
・ 錐体ニューロン上にGABA受容体(緑色)がある。 同様にPVニューロンにNMDA受容体
(赤色)がある。
・ 錐体ニューロンとPVニューロンはループ構造を作っている
その上で、このループ構造は次の反応を時系列的に行います。
① PVニューロンは抑制性伝達物質gabaを錐体ニューロンに放射する。これ(gaba)が錐体ニュ
ーロン上のGABA受容体に結合すると過分極により、グルタミン酸ニューロンからの他神経細胞
への電流がストップする。
② PVニューロン→錐体ニューロンへのgaba放射が止まると、抑制がはずれ脱分極し、錐体
ニューロンから次の神経ニューロンへと電流が流れる。
③ 錐体ニューロン→他神経ニューロンへ電流が流れるが、その内の一部がループ構造にあるPVニ
ューロンへ流れる
④ PVニューロンは抑制性伝達物質gabaを錐体ニューロンに放射する。
①~④で一回転です。この一回転で1回電気的信号が発生します。これが一秒間で何回あるかを
何ヘルツで表します。ここでγ帯域(30~100
Hz)の周波数をもつ神経活動をγオシレーション
といい、注意,知覚認知,記憶,運動などの大脳皮質における情報処理に重要な役割をもつとさ
れています。

上述の①~④の記述の内、赤文字(止まると)に注目して下さい。著者はこの(止まると)の作用は、SST→PVによるGABA放射による脱抑制作用と推察しています。仮に真実とすれば、かなり複雑なシステムです。それではこれは何を意味するのか。
さらには、NMDA受容体が働くための条件(グリシンとDセリンの結合)も、この複雑なシステムの中で働きを持っているのではないのか? 続けたいところですが、読む方はかなり疲れると思います。そこで、統合失調症の陽性症状(原因)を挟んで、その次にこの謎解きに進みたいと思います。
この節は下記の文献を参考にしました
※統合失調症と大脳皮質 GABA神経伝達異常 精神神経学雑誌 第 112巻 第 5号(2010) 439-452頁
※大脳皮質パルブアルブミン陽性ニューロンと統合失調症の
認知機能障害 Japanese Journal of Biological Psychiatry
Vol.28, No.1, 2017

gabaは不思議な神経伝達物質です。幼弱期は興奮性神経伝達物質で、それが思春期以降は興奮性の神経伝達物質
に作用性が逆転します。
これを反映するのでしょうか。『PLOS Biology』(2021年7月22日付)に掲載された研究によると、数学の能力は、子供の場合、GABAが多くグルタミン酸が少ないほど数学が得意であるが、時とともにその比率が逆転して、大人の場合はGABAが少なくグルタミン酸が多い方が数学的能力が高いことがわかったということです。
(調査部位は「左頭頂間溝」という後頭部の一区画。 視覚関係に重要な箇所とされています)