第4章 その他の仮説                                                                      次頁  総合案内



2節 免疫(腸内免疫)


 

 この章は、既出の有力仮説以外を紹介するものですが、実はすでに統合失調症に似た症状を引き起こす疾患が解明されています。2007年にシナプス分子のNMDA受容体に対する自己抗体が脳炎患者さんから発見され、この脳炎は「抗NMDA受容体抗体脳炎」と名付けられ、日本でも「8年越しの花嫁」の映画で取り上げられました。この病気は感冒症状後に急速に統合失調症様の精神症状が出現するものです。 前駆症状がなく、ある日突然発症することに異質性がありますが、統合失調症様の精神症状から、この病気に罹患した患者の一定数が統合失調症と診断されていたようです。


 脳内炎症と統合失調症をむすびつける間接的証拠が多く報告されています。

1 統合失調症患者では,血清サイトカイン濃度上昇・酸化ストレスマーカーの異常などの報告
  から
その病態には酸化ストレス・神経免疫系の関与が示唆され 、最新の動物実験でも酸化
  ストレスとの関連が示唆されている

2 統合失調症患者の死後脳ではサイトカインの発現異常が存在することからサイトカインの
  シグナル伝達異常が統合失調症の病態に関与しているとする統合失調症のサイトカイン仮説が
  提唱されている

3 ヒトへのサイトカイン投与によって種々の精神症状が惹起されることがありC 型肝炎などの
  ため
IFNαinterferonα)により治療されている 患者にうつ状態が認められたり、高用量
  の
IL― 2inerleukin― 2)により治療されたがん患者で妄想や認知障害が誘発されたとの報告も
  ある。



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 これらの事実は統合失調症と免疫との密接な関連性を伺わせるものです。

紙幅の関係でこれ以上紹介できませんので、最近話題の腸脳相関に関する領域(腸内免疫)にフォーカスし、その中から興味深い事例を紹介します。


下にいくつかのトピックスを箇条書きします。


※1 男性の統合失調症患者では、結腸直腸がんの罹患率が有意に高く、女性の統合失調症患者
  では乳がん罹患率が高い

※2 毒素産生型フラジリス菌(ETBF菌)は炎症性の下痢を始めとし、様々な炎症性の腸疾患への
  関与が疑われている。加えて近年では、動物実験でこの菌が大腸がんを引き起こすこ
とや、
  結腸がん患者は健常者に比べこの菌の保有率が高いことが報告されており、ヒトの大腸がんの
  リスク因子となっていると考えられてい
る。 

※3 米国ジョンズ・ホプキンス大学は2116日、悪玉菌の1つで、毒素を分泌するETBF菌をマウ
  スの腸または乳管に移入すると、乳がん細胞の増殖と転移が促進されることを発見したと発表し
  た。これまで微生物は消化管、鼻腔、皮膚などに存在し、乳房組織は無菌であると考えられてき
  たが( 中略 )乳がん経験者および健常者の乳頭分泌液の微生物組成データについてメタ解析
  をした。その結果、すべての乳房組織サンプルおよび乳がん経験者の乳頭分泌液から、
ETBF菌が
  検出された。

※4 ビフィズス菌BB536含有ヨーグルトまたは牛乳を8週間摂取してもらい、糞便中のETBF菌を測定
  した。すると、摂取前には糞便
1gあたり平均1,000万程度の毒素産生型フラジリス菌(ETBF菌)
  が検出されたが、
BB536含有ヨーグルト摂取群では100万程度まで菌数が減少した。

※5 ビフィズス菌属の効果に関して、BB536菌が統合失調症の陽性症状に有効であるこが知られてい
  る。


 以上ですが、これらの内容から次のようなことを想像できませんか? 

ETBF菌は炎症作用により、ある種のがんや統合失調症の原因になる。 BB536含有ヨーグルト(森永ビヒダス)にはETBF菌抑制作用があり、これを継続的に取り入れるが統合失調症の予防になるかもしれない」


1 CareNet  統合失調症はがんになりにくいといわれていたが

2 森永乳業 ビフィズス菌研究所 大腸がん予防作用

3 医療NEWS Qlife Pro

4 大腸がん予防作用 森永乳業ビフィズス菌研究所

※ 5 森永乳業特許 知財ポータルサイト Ip Frrce



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  さらにもう一件付け加えます。

米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のRobert Yolken氏らは、生まれてから12年間における猫や犬などの家庭用ペットとの生活と、その後の統合失調症または双極性障害の診断との関連について調査を行った。PLOS ONE2019122日号の報告。 主な結果は以下のとおり。

・家庭内での犬との生活は、その後の統合失調症診断リスクの有意な低下と関連が認められた
 (ハザード比:
0.75p0.002)。
・さらに、出生時および出生から最初の数年間での犬との生活において、統合失調症の相対リスクの
   有意な低下が認められた。

・家庭内での猫との生活は、その後の統合失調症または双極性障害の診断リスクと有意な関連は認
   められなかったが、両疾患ともにリスクの増加傾向が認められた。


   研究を率いたジョンズ・ホプキンズ大学のRobert H. Yolken教授は、「犬が統合失調症に影響を及ぼ
  すメカニズムはまだわかっていません」と述べつつも、人間の腸内細菌などの要素が統合失調症の
 リスクに影響を与えることを指摘。犬を飼っていたことにより、人間の腸内細菌や保持する微生物の
  種類が変動して、統合失調症になるリスクを下げている可能性があると述べました。



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