第4節 まとめ
グルタミン酸仮説の説明がようやく終わりましたが、かなり複雑な内容でした。
最後に、統合失調症グルタミン酸仮説の状況証拠を記します。
① NMDA受容体阻害作用のある麻酔薬フェンサイクリジン(PCP)が統合失調症と同様の症状
(陰性症状・陽性症状・認知機能障害)をもたらすこと。
② 統合失調症発病関連遺伝子が、グルタミン酸関連の神経生理基盤に有意に集積していること。
シナプス構造、細胞接着因子、Dセリン分解酵素、等々。
③ グルタミン酸関連因子(NMDA受容体 GABA など)を用いる高度認知システム(例えば高度
推論機能・論理の形式的操作など)は思春期以降に必要となる。つまり、こられの構成要素に
障害があっても思春期以前には顕在化しない。これは、統合失調症が思春期以降に発症すること
と附合する。
④ 中脳辺縁系ドパミン過剰(陽性症状)は、NMDA受容体阻害によるグルタミン酸過剰放出の帰結
(下流部分)として矛盾なく説明できる。
⑤ 認知機能障害は、γオシレーションの不調として説明できる。
⑥ 脳体積減少は、グルタミン酸過剰とCa2+による、神経細胞の自死(アポトーシス)として説明できる。
これだけ、状況証拠が揃うと、典型的な経過を伴う統合失調症の発症原因は「グルタミン酸システムの異常による可能性」が濃厚と思われます。
しかし、統合失調症は症候群であることから、サブタイプ疾患とそれに対応する発症原因もかなりありそうです。これについては、次説で「その他有力仮説」として紹介します。
重度の統合失調症と診断された女性の脳が自己免疫疾患で損傷していたことが判明、治療を受けて20年ぶりに家族と会話できるように 2023年06月02日ワシントン・ポスト
要点を記すと、20年前優秀な女子大生が重症な統合失調症と診断され、様々な治療を試みたがすべて無効だった。最近、研究チームが精密検査をおこない、全身性エリテマトーデスの、外部に症状が現れず脳にだけ影響する特殊なタイプである可能性があると推察し治療した。その結果、表記のとおりの回復をみた。
研究チームは他にも自己免疫疾患を持っている患者がいるのではないかと調査範囲を広げた。その結果、9歳の時に統合失調症だと診断された女性が、14歳の時に全身性エリテマトーデスであると診断されていたことが判明。ステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったところ、わずか2カ月後の10月には劇的に症状が改善した。