第3節 瞬き
(瞬きの機能)
教科書的にチック症は、6歳前後に瞬き回数の多さから始まるとされます。瞬きは反射や涙で目を潤すという機能がありますが、その必要回数を大幅に超える瞬きが認められます。 そのため、瞬きの多さをもってチックの症状と捉えられますが、発生割合が10%もあり、その大部分が自然に消失していくことから、私は「この時期瞬きの回数が増えるのは発達段階に即した生理反応であり、ほぼ100%の児童で起こっているものと」と考えます。
※「まばたきの意外な役割」NHK 解説委員室(大阪大学 准教授 中野 珠実) から抜粋します。
「これまでの実験から、私たちは無意識に環境の中から情報のまとまりを見つけ、その切れ目でまばたきをしていることがわかった。まばたきの役割とは、見ているものから一旦注意を解除することによって情報のまとまりをつくることではないのだろうか」
つまり心理ネットワークを転換するということです。脳内の代表的神経ネットワークにCEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)とDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)があります。CENは何か物事に熱中(または思考)しているとき、DMNは反対に「ボー」としている状態です。そして、瞬きはCENとCENの切り替え、もしくは、CENとDMNの切り替えに利用されるというわけです。これは文章の中の句読点で該当すると考えると分かりやすいです。
(瞬きはチックの症状か)
さて、チック症で問題となるのは、CENからDMNの切り替えに関する部分です。先ほどDMNは「ボー」としている状況と記載しましたが、実は脳はこの「ボー」としている状況下で情報の整理(セルアセンブリの生成)や内部モデルの生成を行っているとされています。そのため、新しいアイデアは一生懸命に物を考えている時の他にも、散歩中や寝る前にも浮かんできます。
それでは、内部モデルの生成と瞬きの関係はどうでしょうか。おそらく6歳前後、つまり幼児から児童へと新たなフェイズへ進む時期(これは自己中心性から脱自己中心性へと進む、おそらく普遍的な時期)に、「行動・情動・論理の内部モデル」を大脳に植え付けるトリガーとして瞬きを利用するのでしょう。つまり、瞬き→DMN→内部モデル→CEN→瞬き→DMN→内部モデル。 このループが続き、瞬き回数の増加につながっていきます。
そのため瞬きはこの年齢の時期に多くなるが、殆どのケースでその多さに気づかず発達段階をクリアーしてしまうでしょう。
しかし、ごく一部のケースで必要な内部化が完成せず、その影響でチック症に繋がるものと予想します。