12.「順手牽羊」の計


『取りたいものは取れるうちに取れ』
 「羊を手で引くように、物事が流れにのり、チャンス到来となったなら、とことんそのチャンスに乗じ勝利をつかむことが大事である。」という概念の計略です。戦争でもスポーツでも「流れに乗る」という言葉がよく使われるように、勝負の世界ではこれがとても重要なものであるといえましょう。勝てる時に勝たないと、チャンスは二度とやってこないかもしれません。時には自分でその流れをつくることも大切です。

南郡争奪戦

 赤壁の戦いで曹操が荊州から撤退した時は、呉と劉備軍にとってはまたとない領土拡大のチャンスであった。しかし劉備軍は領土は取りたいが弱小であり、なすすべもない。そこで劉備軍は呉の周瑜に先に攻めさせ、流れを呉に作らせておいてから、動き出す作戦をとった。運のいいことに呉は苦戦続きで荊州をなかなかとることが出来ない。要領のいい劉備は戦前、呉との約束で「呉が荊州をとれなかった場合は、自分たちが取る」との誓約を立てていた。劉備はその約束をうまく利用し、苦戦する呉のスキをついて、荊州の城を次々に奪ってしまったのである。混乱している最中の荊州の城は取りやすく、劉備はまたたく間に荊州を切り取ってしまったのであった。周瑜は悔しがったがどうにもならず、この後、病を重くして死んでしまうのである。


 「羊が手に入るならば、取れるだけ取ってしまえ。」なんともがめつい計略ですが、勝負の世界では時に必要であるかもしれません。ドイツの電撃戦、武田信玄の風林火山から新鋭企業の急躍進まで、あらゆる戦法の基礎であるといえるでしょう。「スピード」と「的確な読み」両方が試される計略であるかもしれません。相手が手強いとこの計略は成功せず、周瑜のようになってしまうかもしれませんね。シビアです。また、太平洋戦争の日本のようにこの計略は成功し、取るものはしこたま取ったがそれを守る力が備わっていなかった、などという失敗は愚の骨頂であります。