19.「釜の底より薪を抜く」の計
『どんな強敵にも弱点はある』
非常に希望的な計略です。「どんな強大な敵も必ず弱点は存在するから必ず勝機はある、それを探して勝利せよ」という考えです。燃えたぎる釜も、下の薪を抜いてしまえば鎮火してしまうように、強大な敵もその弱点をつけば、いとも簡単に倒すことができるのです。いわゆる逆転勝利を生む計略であるといえます。劣勢だからといって、あきらめてはいけないということをこの計略は教えています。三国志中、最も有名な逆転勝利、官渡の戦いにおける曹操の烏巣兵糧基地の襲撃を取り上げます。
烏巣襲撃
天下分け目の官渡の戦い。10倍の袁紹軍に無謀といえる戦を挑んだ曹操軍は何とか袁紹軍に逆転勝利する方法はないかと苦心する。ある日、曹操は袁紹軍の兵糧が一ヶ所に集まっていることを知る、しかもその烏巣兵糧基地はたいした軍備をしていないという噂である。大軍団の唯一の泣き所は、その大軍団を養っていく兵糧である。それを自軍の兵糧不足で誰よりも知る曹操は、このチャンスを逆転勝利の絶好のチャンスととらえた。「食べ物を失った兵士は恐るるに足らず」ということである。曹操は自ら兵糧基地を襲撃し、勝利した。兵糧を失った袁紹軍は音を立てて崩れていき、この結果、曹操は袁紹の大軍団を打ち破る奇跡を成し遂げたのである。
戦いにおいて、最も勝利するために簡単な方法は、敵の弱点を突くことであります。ましてや相手に正攻法で勝てないとわかっている以上は、このような計略でないと勝利は生み出せません。歴史上の有名な戦術家たちは、ほとんどがこの計略の精神に基づいて逆転勝利を勝ち取っています。この計略は「どんな強大な兵も兵器も、その供給原を断ってしまえば、死に体となってしまい、ものの数ではなくなる」ということで、物資や輸送の重要性を何よりも物語っています。天才といわれた沙漠の狐
ロンメルが補給線を奪われ敗退したいきさつや、点と線だけで補給線を重視しなかった第二次大戦の日本が敗退した事実は、この計略がやられるものにとって、いかに恐ろしいものかを物語っています。(かの豊臣秀吉は、兵糧攻めをする際、米を敵に渡らぬよう買い占めるという応用作戦を使っています。)優良な兵器がいくつあっても、それを動かす燃料がなければ何の意味もない、優秀な人材が揃っていても、それを養うだけの給料が払えなければ何の力も引き出せない、というように、この計略は何よりも物資の大切さを物語っています。「名将も、飢えてしまえばただの人」「名兵器燃料なければただの鉄クズ」ということでしょうか。