22.「門を閉ざして族を捕らえる」の計


『勝利が確信したら妥協するな』
 「窮鼠、猫を噛む」という言葉があります。弱い敵も逃げ道をなくして追い詰めすぎると、逆にこちらが負ける危険があるという意味の言葉ですが、この計略は、その言葉の逆の意味をもっています。それは「窮鼠はとことん追い詰めろ」というような意味です。「叩くと決めた以上は徹底的に叩け!」勝利のためには時にそうした非情さも必要だということを、この計略は物語っています。

公孫淵討伐

 魏の司馬懿が公孫淵の反乱を討伐した時のこと、司馬懿は公孫淵軍を取り囲み、まったく投降を許す気配を見せず、公孫淵軍を完全包囲し皆殺しする姿勢をみせた。兵法にも「城を囲む時は、完全に囲むと敵は窮鼠となるから、どこか逃げ道をつくっておくべき」というルールがあったので、司馬懿軍の武将たちは、この司馬懿の戦い方に首をかしげたのである。しかし司馬懿は妥協せず、公孫淵軍に逃げ道を与えずに皆殺しにしたのであった。司馬懿は二度と公孫淵のようなつまらぬ反乱を企むものがでないように、見せしめのためにこのような行動をとったのである。こうしたセオリーを破った戦い方を司馬懿がしえたのは、それだけ司馬懿には自分の軍への自信があったからである。かくして司馬懿の名声はますます高まったのである。


 「捕らえる者を決めた以上は逃げ道などという甘いものをつくらず、徹底的に追い詰めろ」というなんとも非情な計略ではあります。司馬懿や曹操といった冷徹なイメージの人物が似合う計略ですね。ただ、この計略はあまりの非情さに、人気を落とす危険性をもっています。曹操も徐州で非情の包囲網を敷き、世間の悪評を買いました。かの信長も一向一揆という宗教勢力に対し、この計略をつかい追い詰めるだけ追い詰め、「非情」の烙印を押されてしまいました。動物の狩りの世界では当然の戦い方ですが、人間となると、ちょっと扱いずらい計略であるかもしれません。しかし、格闘技などでも、ロープ際に非情に追い詰める作戦があるように、勝利のためには必要なものであることは確かです。