28.「屋根に上げて梯子を外す」の計


『わざと弱点を作り出せ』
 「屋根」とは敵を殲滅させる、兵法でいうところの伏兵が潜む「死地」のことで、梯子を外すとはその「死地」に敵を誘い込み、退路を断ってしまうということです。敵に対して使えば伏兵殲滅の戦術となりますし、味方に使えば「背水の陣」と同じ効果を生みます。つまりは人を窮地に誘って精神的においつめ、勝利を得ようという計略です。

賈窒ニ曹操

 曹操が張繍を攻めた際、張繍の軍師 賈窒ヘこの計略で曹操を追い詰めた。門の一つが改修中で、そこを攻められたらひとたまりもないことを、賈窒ヘわざと曹操軍に漏れるように言いふらす。そこに曹操を誘い込んで殲滅しようという戦術である。果たして曹操はそこに攻めこみ賈窒フ伏兵に囲まれて大混乱、危うく命を落としかけたのであった。


 敵を誘い込み、退路を断って殲滅するのはあらゆる戦術の基本です。つまりこの計略は、戦争をする際の戦術として、必須のものであるということができます。我が国の戦国時代、この計略を使い大勝利を収めた戦いとして、有名な毛利元就の厳島合戦があります。毛利は陶 晴賢の大軍を破るために、大軍に不利な厳島に陶軍を誘い込みます。毛利は陶軍に「厳島に陣を構えたのは一生の不覚。あそこを今、敵に攻められたら我が軍は終わりだ」との情報を流しました。それに乗せられた陶軍は厳島の毛利の陣を襲おうと、厳島に軍を進めたのです。待ち伏せていた毛利軍が退路を断ち、騙された陶軍が壊滅したのはいうまでもありません。この他に同じ戦国時代で、薩摩の島津家の戦術として有名な「釣り野伏せ」戦法もこの計略の原理であるといえます。ステ駒部隊を偽装退却させ自軍の巣に誘いこみ、伏兵で退路を囲み殲滅するというこの戦法は、まさにこの計略の原理ですね。