32.「空城」の計
『無防備を装い逆に警戒させろ』
敵に自分のフトコロを見せることは戦術においてタブーとされています。しかし時に、相手によってはこのタブーが逆に計略になる場合があるのです。それがこの「空城の計」です。相手に弱点をさらけ出すことで、相手に何かあるのではないかと警戒させるのが計略の目的です。相手が深読みする人物であればあるほどその成功率はあがります。
孔明の空城の計
蜀の孔明が北伐で敗れ退却する時、魏の司馬懿が追撃してきた。この時、孔明には戦うだけの兵力は残されておらず、もはや捕らえられるしかないと思われた。しかし孔明はここで「空城の計」を使った。ワザと城の城門を空け、自身は敵の見える所で琴を弾いて、何かあると敵に見せつけたのである。実際は城の中はもぬけの空で何もなく、兵など城には存在していなかった。しかし疑り深い司馬懿は、これを孔明の計略と警戒し、攻めこまずに退却したのである。これにより孔明は蜀の都に無事退却できたのであった。
この例は、敵が司馬懿という知将だったから成功したのであって、もし敵の中に司馬懿がいなかったら、猛将タイプの大将だったら、孔明のこの計略は失敗していたでしょう。「空城の計」は、それほどリスクを伴うスリリングな計略なのです。別の戦いで蜀の趙雲はわざと城の前に単騎で現れ無防備を装い、迫ってきた敵を伏兵で倒しています。これが正攻法のこの計略の使い方であるといえましょう。孔明の場合は、危険度の高い使い方であり、緊急避難的な使い方であるといえます。万引き犯が万引きしようとお店に入ったら、店員がおらず、店がまったく無防備であったら万引き犯は何かあると警戒するでしょう、それがこの計略の心理なのです。もっとも警戒心のない猪突猛進人間には通じませんが・・・相手を選んで使いたいものです。