34.「苦肉」の計


『自分を苦しめてまで相手を欺け』
 ことわざでも有名な「苦肉の計」です。現在のことわざは、「苦し紛れの作戦」という使い方をしていますが、計略の場合は少し意味あいが違います。「自身を苦しめてでも勝利を得る」という計略で「ある犠牲を払い、その結果として勝利を得る」というものです。数ある計略の中でも非常にストイックな計略であるといえます。「肉を斬らせて骨を断つ」ということです。

赤壁の戦いの黄蓋

 赤壁の戦いで呉の武将 黄蓋は周瑜と相談して偽装投降を計画する。そこで周瑜と黄蓋は、仲間割れを見せるために敵のスパイの前で仲が悪い演技をするわけだが、疑り深い曹操を騙すのは並大抵の演技では騙せない、そこで黄蓋は周瑜と喧嘩してムチ打ちの刑をくらい、殺されかけるという芝居をうって曹操を信じ込ませたのである。さすがの曹操もこれを信じ、黄蓋の投降を偽装だとは思わなくなったのである。その後、偽装投降した黄蓋が曹操軍に火を放ち赤壁の逆転劇を演じたのは有名な話である。


 勝利のために自身の体を傷つけるリスクを負うことは、ストイックな格闘技の世界ではよくあることですね。黄蓋の場合は呉の国に対する忠誠が、苦しみを乗り越えさせたということができます。均衡する戦況を打開するためには、時にこうした計略も必要であるということです。これより後の時代にも、呉の周魴が自身の髪を斬って曹休に偽装投降して勝利した逸話があります。中には敵に偽装投降を信じこませるために自身の片腕を切り落とした人物もいて、これなど文字通りの「苦肉の計」といえましょう。勝利に対する執着が強くなくてはできない計略であることは確かです。