星見好きの、星見を楽しむための、自分の望遠鏡のレポート         Part1
NGT-12
レポーター 仮面ライダー11号さんのご紹介

当HP掲示板に頻繁に書き込み頂いている方です。天文関係で私の手薄な部分の知識をお持ちで、いつも助けて頂いています。いつもありがとうございます。(^^)

仕様 口径32cmF4.5のニュートン式反射+2軸モーター付きのホースシュー式赤道儀です。8×50ファインダー、両軸エンコーダー、スーパーナビゲーター、暗視野照明つき極軸望遠鏡、電動フォーカス、トラスカバーが付属しています。
写真1 写真2
米GMI社製で、国際光器が輸入代理店になっています。現在の価格は、79万円です。僕が注文したのは95年で、手元に届いたのは2年後!の97年でした。当時の購入価格は、円が一番強かった頃だったので、57万円でした。国際光器の説明によると、「日本向け仕様に、写真撮影向けに架台を強化して、そのための改良時間がかかった」とのことなんだけど、その改造とは、極軸とホースシューの間に、左右1本づつのステーをかましただけです。(写真2下部の、水平に伸びている黒いステー)たしかに、これで強度はステーなしと比べてUPすると思うんだけど、この程度の改造なら、日本のメーカーがやれば、1週間程度で終ると思うんだけどなぁ。

なお、口径が半分しかないタカハシMT−160の当時の価格が、53万円でしたから、NGTはかなりお買い得だったと思います。

ちなみに現在の、米国でのNGT−12の販売価格は、5000ドルです。(←どなたか、個人輸入してみませんか?)

後にオプションのフードを18000円で購入しましたが、これは薄いアルミ板を丸めただけの、どう考えても製造原価数百円程度の代物です。(写真3)
だけど、かなりかさばる物なので、米国→国際光器→佐賀までの搬送費を考えれば、仕方の無い価格だと思います。

写真3

まずは架台から。

「ホースシュー式赤道儀」といわれても、見たことがない人はまずピンとこないと思います。直訳の通り、「馬の蹄」の形をした、パイプを円形に曲げたやつ(直径が60cm程度)が極軸の駆動軸になっています。(写真4)これは、パロマー山天文台の5メートル望遠鏡(写真で見たことはありますよね?)の巨大な駆動軸をもっとコンパクトにしたやつ、といえば理解していただけるでしょうか?このホースシューを、モータードライブからベルトを託してつながれたリムを回転させることによって、駆動しています。よく見かけるウォームホイール式ではないので、ピリオディックモーションがほとんど発生しません。

ただし、リムとホースシューに間にすべりが生じるので、極軸クランプをきつく締めても、完全に固定することはできません。

パロマー山天文台のホースシュウ赤道儀と主鏡口径508センチ大反射赤道儀の写真はここの下の方にあります。写真左側にホースシューがみえますね。
写真4

極軸望遠鏡も、付属しています。

ホースシュー式架台では、ドイツ式のように、極軸の中心に極望をつけることは不可能なので、ホースシューのすぐ外側に付いています。(写真2の上の方に、ファインダーみたいに写っているやつです)暗視野照明付きで、しかも、照明スイッチを一旦ONしてから、数分後に自動的に消灯するタイプです。これなら、だれしも必ずやるように、スイッチを消し忘れて、電池が無くなってしまう心配はありません。極軸合わせは、上下、左右共に、微動がついています。架台、鏡筒がでかくて重たいので、合わせるのは大変ですが…

写真5

モータードライブのコントローラーは、ロスマンディーと同じ物が使われています。(写真5)赤緯軸は、タンジェントスクリュー式です。もちろん、赤緯モーターもついています。クランプは、蝶ネジが付いていたのですが、これだと固定力が弱すぎて、すぐに鏡筒が「おじぎ」をしてしまうので、「取っ手付き」のネジに交換しました。これで、完全固定ができるようになりました。(写真6)なお、最近のモデルでは、赤緯クランプの固定力がUPされているそうです。固定は、よく国産ドイツ式に見られるような、ネジで直接軸を押さえるのではなく、スリワリで軸全周を締めるタイプなので、ハーフクランプが可能です。

写真7
写真8

鏡筒周りについて〜主鏡はNOBA社製で、32cmF4.5の、パラボアミラーです。厚みは50mm以上あり、よくドブソニアンで使われる「シン ミラー」ではありません。(写真7)光映舎の「ロンキー式ピントアダプター」をあてても、ロンキー像はまっすぐなので、優秀な精度だと思います。カウンターバランスを兼ねるため、主鏡まわりの鏡筒厚さは、10?もあり、かなりの重量です。主鏡、セル、鏡筒本体、ホースシューを合わせると、40kg近くあり、男が一人でなんとか持ち上げられるくらいの重量です。しかし、それでも接眼部側にカメラなどの重たいパーツを装着すると、赤緯軸のバランスが合わないので、鏡筒の主鏡側の裏側に、特注の鉄製カウンターバランスを付けました。(写真8)これで、この付近の重量は50kg近くになってしまい、もはや一人で上げられる限界重量に達してしまいました。(そのうち、腰を痛めるかも…)

写真9

斜鏡周りについて

斜鏡短径は約60mmで、遮蔽率は小さいですが、35ミリ判直焦でのイメージサークルは確保されています。スパイダーの厚さは、0.8mm程度の薄型で、惑星観測を意識した設計のようです。(写真9)スパイダーが薄いので、銀塩直焦点で長時間直焦撮影をすると、スパイダーのたわみが問題になりました。でも、デジカメで数分間程度の露出なら、おそらく問題ないと思います。トップリングは、筒先回転装置付きです。軽量化のためか、見た目が、きゃしゃな造りなので、精度に不安がありましたが、高倍率で筒先を回転しても、対象物のずれはほとんどありません。トラスパイプと、トップリングの装着は、3段階あり、これでピント位置をずらすことができて、バックフォーカスを調整することができます。(写真9)これにより、オフアクシスガイダーや双眼装置など、バックフォーカスが必要なパーツを使用することができます。

 

写真9
写真10
接眼部2インチ&31.7ミリスリーブです。合焦は、クレイフォード式です。電動フォーカス付属です。(写真10)ベアリングでドロチューブを支持しているので、よく見かけるラックピニオン式と違い、ガタがほとんどありません。ただし、摩擦係数が低いので、電動フォーカスのクラッチを切って、カメラなどの重たいパーツを付けると、勝手にピントがずれてしまいます。ピントを合わせたら、すぐにストッパーを締める必要があります。
写真12

高倍率

ビクセンのオルソを装着してみましたが、Fが小さいせいでしょうか、球面収差が発生しているらしく、ピントが甘いです。そこで、笠井の「2インチ1.5×バロー」をかまして、合成Rを大きくすると、良像が得られました。「バロー内蔵型アイピース」のLVやナグラーでは、初めから良像を得ることができました。

もっとも、日本国内では、口径32cmの分解能を完全に発揮するようなシーイングの良い日は、いまだにお目にかかったことがありません。倍率は、300倍程度までしか試したことがないのですが、最低でもこのくらいの倍率には耐えられる光学系の精度を持っています。(組み立てのたびに、光軸修正が必要で大変だけど…)

観え味ですが、純ニュートン&遮蔽率の小さい斜鏡なので、近い口径のシュミカセより、はるかに上だ、と申し上げます。

C−11(28cmシュミカセ)と比べましたが、NGT−12の方が、はるかに分解能やコントラストが良いです。ただし、移動式大口径の宿命で、組み立ててから、主鏡が外気温に馴れるまで、最低でも2時間はかかります。それまでの間は、低倍率専用での観望しかできません。

低倍率 普通の広視野低倍率アイピースを装着すると、周辺像が「コマ収差の教科書」みたいに、きれいに流れてしまいます。セレストロンのコマコレクターをかますと、かなり改善されます。ただし、それでも周辺像は△です。バローレンズをかますと、周辺像まで改善されます。

特筆すべきは、ライカの「プラノキュラー30mm」をつけた時です。(写真12)

このアイピースは以前、笠井から限定販売されていたもので、Fの小さなニュートンに使用したときに、コマ収差などを緩和するように専用設計されたものです。

NGT−12に装着すると、倍率は有効最低倍率ぎりぎりの48倍、見かけ視野88度、実視野1.8度の超広視野の周辺像まで、本当にピンポイント!なんです。

望遠鏡の知識がある人が覗くと、大抵はぶったまげます。

空の条件の良い場所でM42を観ると、大口径の集光力+超広視野の威力で、それこそ写真以上のド迫力なんです。

M42を写真で、周辺の淡い部分まで写そうと長時間露出をすると、中心部が白くとんでしまいますが、人間の目は、フィルムやCCDよりラチチュードが広いので、中心から周辺部まで、本当に「鳥が翼を広げた」ように見えます。

写真13

私の使用方法

一番多いのは、空の条件が良い場所に遠征して、低倍率で2軸をハーフクランプ状態にして、ドブソニアンのように、自由きままな方向に向けて、DEEP SKYを堪能することですね。

または、スーパーナビゲーターを使って、半自動導入をすることでしょうか。

目的の天体導入ができたら、鏡筒から手を離せば即、クランプの操作などしなくても、後はそのままモータードライブが追尾してくれます。

この便利さは、ハーフクランプができない国産赤導儀や、観測中にも常に手で星を追わなければならないドブソニアンでは体験できませんねぇ。

収納する時は、トップリングを主鏡の上に乗っけられるので、半畳程度のスペースに収まります。(写真13)

ちなみに、かつて富士山でついたニックネームは「50万円のハイテク鍋」でした。

なるほど、トラスパイプを外せば、「鍋」そっくりです。

小型乗用車で、搬送可能です。

コストパフォーマンス

マニアックな人に「NGT−12は、自動導入付きの30cmシュミカセ経緯台(70万円)より高いからよくない」と言われることがあります。

しかし、NGTは純ニュートンなので、高倍率でも低倍率でも、観え味はこちらの方がはるかに上です。F4.5なので、低倍率広視野も出せます。

自動導入こそついていませんが、スーパーナビゲーターで半自動導入が可能なので、導入速度では大差はありません。赤導儀付きなので、観望だけなら面倒な初期設定をする必要もありません。オフアクシスガイダーを使えば、直焦点撮影も可能です。

そして何よりも、類似スペックの国産鏡筒+国産ドイツ式大型赤導儀を購入すると、200万円を超えてしまいます。これらのことを考えると、NGT−12は、とんでもないコストパフォーマンスだと思います。「一人で組み立てられる、ニュートン赤道儀の中で、最大口径」であることも考えに入れると、もっと売れて欲しい機種ですね。

 

 

大沼様への要望

大沼様は、掲示板等で「低倍率で観る、DEEP SKYはすばらしい」旨の発言をされていますね。

ならば

「予算に余裕がある方は、低倍率用アイピースだけでも、(高価な)広視野アイピースを使って欲しい」

と伝えていただきたいです。

広視野で観る、星雲星団は、通常視野の物と比べて、迫力がまるで違います!

何よりも、対象天体の導入が楽です。

こういうことも、天文に興味を持ち始めた方々に知って欲しく思います。

 

以上、よろしくお願いします。