love3 告白
放課後。
俺と兄者は、カラオケボックスにいた。
いよいよ、決戦の時。
とうとう、今までの我慢していた気持ちを打ち明ける時がきたんだ。
たかが占いやら何やらで、告るって決めて、今までずっと好きだッて我慢してきたのはなんだったんだよって感じはする。
けど、俺はこの一回に賭けてるんだ。
実の双子の兄に告ったりなんかして、その先どうなるかなんて知れた事じゃねぇ。
俺はいい加減我慢しきれなくなったこの気持ちを、ただ兄者に打ち明かすまでよ。
「・・な、兄者。」
「んー?」
ペラペラと曲名の載った雑誌を見ながら、兄者は適当に相槌を打っていた。
「ちょっと、これ読んで。」
俺は、封筒に入った一式の手紙を兄者に手渡した。
今日一日、必死に考えた策。
おバカな俺が、告白の言葉なんてズラズラ綺麗事並べたってうまくいきっこない。
だから俺は、ロマンチストを装って、手紙で想いを伝えることに決めてみた。
・・・これこそ、綺麗事ぶってる気もするし、カラオケ来てんなら歌で告れよ、とかいろいろな心境はあった。
でも、俺は人の作った歌に頼りたくなかった訳で。
自分の言葉で、自分の気持ちを伝えたかった訳で。
とにかく自分の力で必死に、兄者に「好き」って気持ちをわかってほしかった。
「えー、何?」
全くわからないといった感じに、兄者は苦笑する。
「いーから開けろよ。」
「ハイハイ。」
兄者は封筒の端をピリピリと破いて、中に入っていた手紙を取り出した。
そして、開く。
好きだ。
一枚のB5程度の紙には、お世辞にもうまいとは言えない汚い字で、そう一言だけ書いてある。
我ながら、知能のカケラもない、恥ずかしい手紙だと思った。
「…稜、」
隣に座っている俺の顔をじっと見返し、兄者はポツリと俺の名前を呟いた。
「いきなりゴメンな?・・つか、男同士なのにとか、家族なのにとか、いろいろ突っ込むトコがあるのは分かってんだけどさ。とりあえず、これが・・・俺の素直な気持ち、です。」
兄者からの反応には、全く予想も何もつかない。
すごく軽蔑されるかもしれないし、絶交とか言われるかも。
やっぱり、あまりいい方向には俺の想像力は働いてくれなかった。
「・・・いつから、なの。」
兄者から言葉が返ってくる。
「ずーと前から。・・正直俺も、最初は自分の気持ちに焦った。でも、どうしても兄者には言っておきたかったんだよ。」
自分の気持ちに、嘘だけはつきたくなかった。
たとえそれが、許されない恋だったとしても。
打ち明けた所で、幸せにはなれないと分かっていても。
「相手が、男でいいの・・?」
「男とか女とか、関係ねーよ。・・俺は、兄者が好きだ。」
不意打ち。
まさか、こんな質問をされるとは予想していなかった。
「そ、か・・。」
俺の回答を聞いた兄者は、ふいに脱力したように溜息をついた。
静まり返る部屋が、俺にはやけに冷たくて痛かった。
隣の部屋から聞こえる、歌声とか。
部屋の外で流れてる音楽とか。
雑音は俺達の周りにいっぱいあったはずなのに、この部屋の空間だけがやけに静かだった。
だからだろうか。
やけに心臓の音だけが、うるさく感じるのは。
これは、俺の?
・・・それとも、
「「あのさ。」」
重なる声に、重なる視線。
それと、・・・高鳴る胸の音。
こんなに緊張をしたのは、小学校の卒業式以来。
・・・いや、それ以上だ。
そんなものとは、比べものにならないくらい、・・・緊張してる。
「・・先言えよ。」
俺は、譲った。
どうせ俺のは、その場を繕うためだけの「あのさ、」だったし。
「・・・・・この、〈好き〉ってのは、・・兄弟だから、とかじゃない・・・?」
俺の渡した手紙をじっと見つめながら、言いにくそうに兄者は問うた。
・・当然の反応なんだろうけど、俺はやっぱり傷ついていた。
わかってる。兄者を責めちゃいけない。
「・・ん。兄者は、嫌かもしんねーけど。」
頑張って、笑った。
精一杯、笑った。
けど、そんな俺を見て、ただただ兄者は哀しそうな瞳で俺を食い入るように見ていた。
「・・嫌…じゃない。」
そんな事をそんな目でいうから、俺は無謀にも期待する。
まだ、俺にも勝機は残ってんじゃねーか、とか。
俺は、このまま兄者を好きでいていーんじゃねーか、とか。
つくづく、俺ってバカな男だなーと実感してしまったり。
「・・バーカ。ンな冗談言ったって、俺は笑ってやんねーよ。」
膝の上で硬く握り締めている拳が、爪に食い込んで痛い。
俺は、必死で我慢していた。
ここで、壊れちゃいけない。
・・・我慢すんだよ。
「・・冗談なんかじゃない。・・・僕だって、ずっと我慢してきたのに。こんな事されたら、・・困る・・・。」
やめろよ。やめてくれよ。
そんなの、俺だって困るよ。
俺は、どうすりゃいーの?
・・両想いだって、思っちゃっていーの・・?
「・・これ以上言ったら、・・止まんねーかんな。」
これが、俺の最終告知。
ホントに俺は、止まれないよ。
止まる気も、たぶんねぇ。
あんなに悩んでて、ずっと好きだった相手にいとも簡単に受け入られてしまって、正直俺は戸惑ってる。
思春期青春期な俺は、あんたの事を考えるだけで、おかしなくらいに心臓が反応しちまうんだ。
・・もう、それくらいに好きでたまんねーんだよ。
「・・僕も、ずっと稜が好きだったよ・・、」
薄暗い部屋の中で、俺は力いっぱい兄者を抱き寄せる。
俺の腕の中の体温が、たしかにそこに兄者がいることを伝えていた。
「・・好きだ・・・・・。」
これって、なんかのドラマのワンシーン・・?
・・これは俺と兄者の、世界にたった1つのラブストーリーよ。