love5 距離
‥‥‥頭が痛い。
‥あれ。なんか、フカフカしてる?
僕は、ベッドに寝ているらしい。
‥一体、どうしたんだっけ。
「‥おい、」
誰かが、呼んでいる。
頭がボンヤリする。
‥‥‥稜、だろうか。
「‥ん、」
上から振ってくる声ごと、グッと引き寄せる。
「……まだ酔っ払ってんのかよ、」
引き寄せた口から、発される声が心地良い。
つい、その唇に吸い寄せられるように口づけをしてしまった。
その冷たい唇は、熱くなった僕の唇に程よい温度をくれた。
「‥‥好き…、」
そのお返しに、普段言わない言葉を届けてやる。
きっと稜は、泣きそうになりながら喜ぶに違いない。
「‥‥‥‥、」
…どうしたんだろう。
なにも言わずに、閉口している。
‥‥‥ダメだ。まだ頭が痛い。クラクラしてる。
「っあ‥」
離れていた筈の唇が、また帰ってきた。
優しい口先で、キスをしてくる。
まるで、キスで「好きだ」と言われてるみたいだ。
「ん‥、」
覆い被さる広い背中に、腕をまわす。
‥身体が熱を帯びていく。
「‥そんなんじゃ足らない。もっとして、」
僕の言葉につられるように、その唇は貪るように僕を欲した。
僕もまた、必死にそれに答える。
「ッん…ぁ、‥‥稜っ」
こぼれた吐息と呟きが、彼の何かを掻っ攫ってしまったらしい。
心地良かった唇は、ゆっくりと僕から離れていった。
‥待って、
そんな思いで手を伸ばしたら、それを優しく握り締めてくれた大きな手。
その手の温もりに安堵した僕は、また眠りについていた―――・・。
「‥‥‥‥あ、」
「‥起きたか、」
目を開ければ、すぐ傍から黒神さんの声。
声のするほうに目線を逸らせば、目が合う。
「・・・って、なんで裸なんですか!?」
だんだん視界が開けてきた僕の目に映ったのは、黒神さんの何も着ていない上半身。
鍛えているのか、良い具合いについた筋肉はオトナの色気だなと思った。
「風呂入ってきたんだよ。つーか、いつまでも見てんじゃねえ。‥それとも、見惚れてんのか?」
「だ、だって男らしい身体してるから‥」
「へえ・・・・?」
思ったままを口にして、いつの日かのようにまた墓穴を掘る。
それを後悔しつつも、だんだん脳の回転が元通りになってきた。
冷静になり、辺りを見回す。
・・・・ここは、どこだ?
「黒神さん、」
「なんだ」
「‥ここ、どこですか?」
「ホテル」
くわえていた煙草の灰を、電話の横にあった灰皿の中に落とす。
黒神さんは何気なく答えたけど、ホテルってまさか・・・ラブホテル?
そう瞬間的に思いつき、思わず背筋が凍る。
「なんて顔してんだ。さっき食ったレストランの上のホテルだよ」
僕の反応に溜息をつきながら、彼はそう答えた。
・・・僕の咄嗟の判断に、黒神さんは気付いただろうか。
・・これじゃ、僕がバカみたいだ。
「・・・・・・、」
思わず赤面する僕に対する、黒神さんの刺すような視線が痛い。
どうせ、バカだとかガキだとか思ってるんでしょ。
どんなにクラスの子に「大人っぽい」って言われたって、「大人」のあなたに僕が勝てるわけがない。
・・・・不戦敗だ、こんなの。
「で、ですよね。すいませ・・・」
ドサリ、
なんの音かと思っていたら、いつの間にか煙草の匂いが空気を伝わって、僕に届いていた。
そして、僕に届いたものはそれだけではなかった。
「・・・・それとも・・他のホテルのがよかったのか、」
甘い囁きと、唇。
この感覚、どこかで感じたことがある気がした。
「黒神さ、」
「・・・・・悪ィが、もう限界だ。」
その次に僕の鼓膜に届いた声は、「限界」と言っているわりには落ち着いた・・・・オトナの声だった。
・・・・・・・・限界、って。
何がですか。
どうしてあなたは、僕を困らせることばかりするんですか。
子供の僕のこんな声は、あなたには届きませんか。