love6 真実
追われる理由が分からずに追われているあいつは、きっといつかパニックになる。
その理由の端っこでもいいから、手に入れたかった。
そうしたら、あいつは少しでも確信に近づけるのではないか。
「・・なんで、花螢なんだ」
真正面から、率直に問う。
そんな簡単に話すとは思っていなかったが、この男に下手に取り繕ったところでその事実は変わらないと思った。
「なんでワンコかって?教えてほしーの?・・どーしよっかなあ〜」
案の定、相変わらずの癇に障るニヤつき顔で、楢宮は俺の問いをはぐらかそうとした。
そして黙っている俺の顔を見て、一層口の端を歪ませる。
・・・・・なんだ?
「・・あんたがさァ。ヤらしてくれたら、教えたってもいーよ」
「ふざけるな」
楢宮の言葉に、考えるだけでも嫌気が差した。
そんな事を、黙って承諾するわけがない。
「即答かよ〜。まっ、べつに俺は教えてもいんだけどさァ」
俺が不機嫌に睨みつけると、楢宮は意外にもあっさりと教える事を承諾した。
何か魂胆があるのかと思いきや、そうでもないらしい。
一体、どういうつもりなのだろうか。
「殿にも、言うなとは言われてねえーしぃ?アンタ、イケメンだから教えてやんよ」
俺の顔をまるで舐めまわすかのような至近距離でじろじろと眺め、楢宮は言った。
こいつの態度自体は気に入らなかったが、今はそうも言っていられない。
俺は、そのまま楢宮の話を聞く事にした。
「殿ってーのは、お前ん所の頭か」
「ん〜、まあね。なんやかんや、俺らのこと養ってくれてるしぃ、そゆことになんのかなァ」
つまり、コイツらはそいつの下にいるということになる。
そして、その頭の指令で動いている・・・・のか?
いろいろ頭の中で試行錯誤を重ねていると、楢宮がその先をたんたんと話し始めた。
「で。ウチの殿の前世と、ワンコの前世はラブラブな仲だったんだってよ」
とりあえず、花螢とそいつの前世は結ばれた関係だったと。
そのせいで…追われてる?
俺に言わせれば、バカげすぎた事だ。
そんな事に踊らされている奴は、バカ以外の何者でもない。
「意味わかんねえんだよ。花螢とそいつの前世がどーだろうと、なんであいつを傷付ける必要がある?」
噛み合わない話に、次第にイライラし始める。
俺は、気の長い方じゃない。
それでも、楢宮はそんな俺の様子には全く目もくれずに、そのまま続けた。
「殿はネ、前世サマ至上主義でさァ。前世サマがやってきたように、自分も生きたいンだって。
だから、金持ちになるように努力したし、容姿も前世サマとそっくりにした。ま、あくまで予測のモノにしかすぎねんだけどっ」
楢宮が俺の前までツカツカ歩いてきて、説明口調で話してくる。
「だからトーゼン、殿にはワンコが必要なんだよ。あとは、…復讐のためにオニイチャンもネ」
にまっと笑った楢宮を、ひどく不気味に感じた。
…復讐、だと?
「オニイチャンの前世サマは、二人の恋路を引き裂いたんらってよ。だからあ、そうなる前に殿は、オニイチャンを始末してーってワケ」
殿という奴は正気でそんな事を言っているのかと疑いたくなるが、それは確かなのだろう。
現に従者のこいつらだって、無茶苦茶なのだ。
主が狂っていても、全く不思議はないような気さえした。
「でも、オニイチャンが誰なのかがわかんねんだよなア〜」
俺は、花螢の双子の兄を何度か見たことがあった。
容姿や行動、どれをとっても花螢には似ても似つかない様だ。
何か手がかりでもない限り、見た目だけで判断するのは難しいだろう。
「つーか、俺らがワンコいたぶってんのは、ただの趣味よ〜。コッチに、ちょっとでもキョーミ持ってほしんでェ〜自己アピールみたいな!」
楢宮の瞳が、ゴーグル越しに細まる。
俺の気分は、どん底まで落ちていた。
何人かの狂った男たちの狂った思想のせいで、あいつはこれからも苦しめられることになるのか。
真実を知った俺は…何をしてやれる?
「・・・・お前等、狂ってんじゃねーか」
俺の言葉に、楢宮は声を上げて笑い出す。
「俺らが狂ってるっ?ヒャハッ!そーかもねん!」
そして、俺に背を向けた。
同時に楢宮の腹が音を立てる。
「腹がヘっては戦はできぬ〜!つーワケで、バイバイね〜イケメンさん!」
無邪気に手を振ってくる。
当然、それに答える義務はない。
楢宮の後ろ姿が見えなくなり、俺はいつの間にか安堵の溜め息をついていた。
奴らが危険なことは、本能が警告していた。
気付いていながら、俺は更に深くへ足を踏み入れたのだ。
もう、後戻りはできない。
しようとも思わない。
俺は、第一段階として真実を手に入れた。
それを花螢に伝えるべく、俺はケータイを取り出し、奴に電話をかけるのだった。