love2 友達
俺と劉は同じクラスということで、学内での生活の面では少し不安も減った。
あ、それと。
いろいろ劉と話した結果、俺が記憶をなくしているということは周りに話さないということにした。
原因もわからないし、へたにそんな噂が広まったら、それを悪用する奴も出てくるかもしれない。
今のところ、けんめいな判断だと思う。
「ちょいトイレ行ってくる」
休み時間。そういい、席を離れようとすると、劉が俺の袖口を引っ張って耳打ちの姿勢をとった。
耳元にわずかにかかる息が少しくすぐったい。
「場所わかる?」
いきなりの至近距離に若干緊張しながら、俺は「今朝、廊下歩いてるとき見たから大丈夫だと思う」と答え、教室を出た。
兄貴ってわかってるつもりなのに、劉がきれいなせいか時々ドキドキしてしまう。
双子の兄貴にこんなのおかしいかもしれないけど、慣れるまでにはまだ少し時間がかかりそうだ。
廊下を歩いている途中も、見ず知らずの男女に何度も声をかけられた。
どうやら俺は、そこそこ人気者の位置を獲得していたらしい。
「おはよーさん」
とつぜんにそこそこの力で後ろから肩を叩かれ、挨拶される。
またかと思いつつ、後ろを振り返った。
「ん?朝からなーに辛気臭い顔しとんねん。いつものバカがつくほどの元気さはどないしたん」
目の前のデカい男は、そう悠長な大阪弁でニカニカと笑っていた。
こんだけデカい図体だと、先輩なのか同級生なのか、果てや後輩なのかまるで区別がつかない。
どう返したらいいのかわからず、とりあえずつられ笑いをしておく。
たぶん、おそらく絶対に不自然な俺。
そうわかってはいたけど、予想を大きく上回った関西人の反応に俺はまた頭が痛くなるハメになる。
「わ、わいがバカ言うてんのに稜が怒らん!?なんやなんや今日は雪降るんやないか!?どないしよーハルキイィ」
情熱的に誰かの名前を叫んだあと、俺は肩をつかまれ、そのまま遠慮なく手前、奥へとガンガン揺さぶられる。
ここ怒るとこだったのかよ!?関西のボケツッコミのテンポはいまいちよくわからん・・。
まあ、どっちみち今の俺にはボケツッコミとかそんな余裕はないわけだが。
とりあえず、このままこの関西人のペースに巻き込まれたらいつバレるかわかんねー。
俺はこの場をなんとか切り抜けることに決めた。
「わりー、トイレ行きてーからまたな」
「ちょ、待ちぃや!そんなチビりそうなん?ちゅーか今日の稜、なんか冷たない?他人行儀っちゅーか・・。
なんや変なモンでも食うたんやないやろーな?そういう時は・・って、おい!逃げんなやー!」
腕をつかまれそうになったがなんとか振り切って、俺はそのままトイレがある方向へとダッシュした。
これ以上話したら、絶対に怪しまれる。
てか、おそらくすでに怪しまれてる。
今はなんとか逃げきれたけど、こんなごまかしがいつまでも通じるとは到底思えない。
だからって無駄に学校休むわけにもいかねーし、俺が記憶喪失を暴露するのが先か、
記憶が回復するのが先か…まったく見ものだぜ。
劉の力添えもあってなんとか過ごしつつ、早いものであっという間に放課後になった。
そして、今日一日学校で過ごして、わかったことがある。
記憶を失くす前の俺はムードメーカー的存在で、わりと誰からも好かれるような性格だったらしい。
その証拠にクラスではなにかとネタにされながらも仲良さげにみんな声をかけてくるし、
廊下を歩いていればさきほどのようにひっきりなしに話しかけられる。
以前の俺がどんな性格かわからなかったのでなんとなく手探りで生活していたが、
どうやらそんなに気を使う必要もなさそうだった。
帰る準備をしていると、劉からまた以前の俺の情報が入る。
「稜はサッカー部だったんだ。無理しなくてもいいと思うけど、休むなら部員の人に一応伝えたほうがいいかも」
どうやら俺はサッカー部に、劉はバスケ部に所属しているらしい。
劉がそばにいないのはなんとなく不安だったが、現に劉の助けを借りながらも放課後までどうにかなってるし、
一応部活に顔を出してみようという気にもなった。
最悪ごまかしがきかなくなったら、具合が悪いふりをして帰宅すればいい。
俺はとりあえず部活に行ってみることにした。
劉に教えてもらったサッカー部の部室を目指し廊下を歩いていると、
前から嫌でも目に入るキンパツ頭の学生が気だるげに歩いてくるのがみえた。
ハーフというわけではなさそうだし、制服の着こなし方からいっても俗にいうヤンキーというやつだな。
絡まれるのもめんどくさいし、目そらしとこ・・。
「あれ、」
すれ違い様にそう呟いたヤンキー。
な、なんで反応されちゃってんの俺!?ちゃんと目そらしてたのに!
「稜さん?」
あからさまに通り過ぎようとすると、その腕をがしっと掴まれる。
そして、なぜか俺の名前を呼んできやがる。
もしかして俺、ヤンキーとも友だちだったのか?それとも裏番…!?
どっちにしろ人脈広すぎんだろ!過去の俺!
「今、シカトしました?ヒドいなー」
もっとDQNっぽい喋り方かと思いきや、くだけながらもわりかし丁寧な口調で驚く。
いやいや、これは嫌味にそんな喋り方をしてるだけで、実はすげーキレてんのかもしれない。
「す、すんません。全然気づかなかったっす」
へらっと笑いながらヤンキー(仮)にペコペコすると、ヤンキーはわりかし整った顔を驚きで塗り替えた。
「な、なんですか、その喋り方。新手の嫌がらせ?それとも罰ゲームかなんかですか。
なんにしろ、とりあえずキモいんでやめてください」
…よくわからんが、なんかムカつくヤンキーだな。
しかし俺はこいつに敬語で話され、どうやら俺はかつてタメ口を聞いていたらしい。
なんの繋がりかは知らんが、おそらく後輩かなんかなんだろう。そう信じておきたい・・。
「あ、すいません。オレ、これから部活なんで」
「お、おう。じゃーな…」
そうそっけなく言い去っていくヤンキーの後ろ姿をなんとなく見送ったあと、
俺は本来の目的を思い出し、あわてて部室への道を急いだ。