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love5 寝室



わりかしフカフカ感のあるベッドに横になりながら、ケータイをいじる。

記憶をなくした一日目である今日は、ほんとにいろいろなことがあった。
もちろん記憶をなくしたこと然り、俺の双子の兄貴がアイドルも恥らうほどの美人で、
俺自身には榛名さんっていう文句のつけようがないイケメンな"彼氏"がいて。

いつ記憶が取り戻せるのか、それ以前に記憶が戻ることがあるのか…不安は尽きないけど、俺は現状を楽しむことに決めた。
戻るものは戻るし、戻らないものは戻らない。
くよくよしてたっていい方向になんか進むわけねーし、なにしろ面白くない。
今の俺にはたしかに前の記憶がないけど、助けてくれる優しい奴らが周りにいる。

だから俺はめんどくさいことをぐちぐち考えるよりも、そいつらとの"今"を楽しむことに決めた。


「…あ。榛名さんにおやすみメールとか送った方がいんかな」

ふつうの高校生カップルならそういうのがふつうなんだろうが、なにしろ相手が"男"っつーのは想定外だったからな。

「いちおー送っとくか…」

メールの作成画面を開いて、ちゃちゃっと思いのままの文章を指先で紡いでみた。


宛先:榛名央未
件名:おつかれさまです
本文:今日はいろいろありがとうございました!マジで助かりました
いろいろあって疲れたのでぼちぼち寝ます
おやすみなさい(^_−)−☆


……こんなんでいいんだろか。
未だに榛名さんとの距離感がいまいち掴めてなくて、すげー微妙な顔文字とか入れちゃったけど、まあいっか!送信!

勢いのままに送信ボタンを押し、そのままケータイを枕元に放り投げた。

疲れたのは事実だ。
自分の知らない人、土地、そして何より自分のことがわからない不安。
そんな状況で疲れを感じない強靭な心の持ち主がいるなら、ぜひ会ってみたいぜ。


コンコン、

そんなくだらないことを頭の隅で考えていると、ふとドアの外からノックする音が聞こえた。

ノックの主は、紛れもなく劉だろう。

「…稜、起きてる?」

遠慮がちな声が外から聞こえる。

「起きてる起きてる」

俺はベッドから身体を起こして、そのままドアへと向かい、ドアノブをまわした。

「わ…!ご、ごめんね。急に」

突然開いたドアに驚いたのか、後ずさりをしながら劉が微笑する。

「遠慮すんなって。俺ら兄弟じゃん」

今だに劉が遠慮気味なのは見て取れるので、俺は少しでも安心させたくて満面の笑みを向ける。
それでも俺の言葉を聞いた劉は、微妙な反応で相槌をうつだけだった。
言葉のチョイス、ミスったか…?
一瞬考えを巡らせてみるけど、思い当たる点は見当たらなかった。


「もし稜さえよかったら、ちょっと話したいかなって思って」

劉は俺を心配して様子を見にきてくれたようだった。
当然、そんな劉を無下になんてできないし、その気持ちはすげー嬉しかった。

「モチ!てか前俺らって一緒に寝てたんだよな?ドーデスカ、劉さえよければ」

劉の言葉を真似ながらそう提案すると、俺の言葉に一瞬驚いたような顔をしたけど、劉は今度こそ嬉しそうに笑ってくれた。

「じゃあ、枕持ってくるね」

どことなく足取りの軽い気がする劉の後ろ姿を見ながら、俺は記憶をなくして初めて劉に会ったとき、
同じベッドに寝ていたことをなんとなく思い出していた。



「…こんな狭いベッドだとなんか恥ずいな」

枕を持って戻ってきた劉とベッドに入ると、思っていたよりも密着度が高くてなんだか照れる。

「僕は慣れてるけど、今の稜からしたらそうだよね」

たしかに目の前にいる劉からは、照れも焦りも感じられない。
俺ばっかりキョドっててアホみたいだ。

「ほんと仲良かったんだな、俺たち。なんか前の俺に嫉妬する」

そう冗談めいて言うと、劉はおかしそうに笑った。

「なにいってんの。稜は稜でしょ?」
「だな」

そして、お互い笑い合う。

短い距離感のせいか、不思議とさっきまで俺たちの間にあった僅かな緊張感の糸が切れた気がする。
この空気はすごく居心地が良くて好きだと感じた。

「…あれ、ケータイ鳴ってる?」

俺の枕元に放置されたケータイのバイブに、劉が気づいた。

「え、あ。ほんとだ」

手を伸ばしてケータイを手に取って開くと、榛名さんからメールが届いていた。
メールを開いてみる。


差出人:榛名央未
題名:変な顔文字使うな
本文:おやすみ


あまりに榛名さんらしいぶっきらぼうなメールの内容に、思わず俺は吹き出した。

「り、稜?」

ケータイを見ていきなり吹き出した俺に、劉は驚いている。

「わ、わりー。部活の先輩のメールが逸材すぎて」

笑いを堪えながらそう答える。
部活の先輩、というワードにピンときたのか劉が「ああ」と頷いた。

「先輩って、榛名さん?」

劉の口からその名前が出るとは思っていなかったので、今度はこちらが驚かされる。

「お、そうそう。劉も知ってんだ?」

もしかして前の俺は、劉に榛名さんを彼氏として紹介済みだったりするのか?
いやいや、早とちりしてもし違ったら相当ヤバイ。
ここは様子を伺うに限る。

「稜は榛名さんと仲良かったから。たまに家にも連れてきてたし」

劉の話からも、俺と榛名さんが親しくしていたのはよくわかった。
それでも、どうやら劉には俺たちの関係を公表していなかったように見て取れた。
ここは余計なことを言わない方がいいのかな。


結局俺と榛名さんのことは劉には伏せ、そんなこんなでベッドの中に入ってから小一時間ほど。
その間、俺は劉から記憶があった頃の俺の話を聞いていた。

残念ながら記憶を思い出すきっかけにはならなかったけど、俺自身も劉の話を聞いているのは楽しかったし、
なにより楽しそうに俺のことを話す劉を見ているのは嬉しかったんだ。










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