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play3 帰路



って、・・俺がどう思ってるかもしらねーくせに、お気楽なもんだぜ。
・・・そんなこと言われたらさ。首を縦に振るしかねーだろうが。

「・・へいへい、わーったよ。禁煙する、禁煙します!だから、せめて決意+最後の一本、な?それ以降は、ぜってー吸わねーからっ」

とうとう折れた俺が、最後の最後に必死の手合わせをすると、弥栄はあきれ返った顔でため息をついた。

「ったく、こんなニコチンの塊のドコがいーんだか・・」

ほら、と一本だけ渡される弥栄曰くニコチンの塊。

「あざーすっv」

ありがたく、事現場用作業服の胸ポケットにその一本を入れた。

「早く行っちまえ」
「はいはーい、邪魔者は消えますよっと」

じゃーな、という言葉と共に、ひらっと片手を振って、俺は再びバイクを走らせた。

――――買ったばっかのタバコ取られた。
禁煙の約束まで、こじつけられた。
なのに、この浮遊感はなんだ?
俺は、なんでこんなに気分が高まっちゃってんだよ。
これも恋の力ってか。
さっきまで内藤絡みのコトで落胆してたってーのに、ずいぶん都合いいな、俺よ。
それでもさ。ギャーギャー文句言いながらも、ちゃんと俺のこと心配してくれちゃってる弥栄がラブすぎんだよ。
それも恋の力?・・なーんてね。




明日が文化祭本番ということもあり、学級委員の俺は前日の今日も、数えきれないほどの仕事に追われた。
クラスの出店のことやら、生徒会企画の手伝い、その他の委員会の役割の最終チェック・・・・その他モロモロ。
学級委員とかいって、もはや学級単位の仕事量じゃないだろこれは。

そして、今はようやくの下校時間。
立ち止まって、携帯のディスプレイを見ると、もう9時をまわっていた。
家に帰ったら、頼まれていた資料をまとめて・・・・・あー、めんどくせえ。

歩くことにすら嫌気が差していた俺は、ため息をつきながら、再び歩き始めた。

(そういや、明日は熊田の妹の件もあるんだったな・・)

忙しさにかまけて、すっかり忘れていたが、これもまあ・・ある意味重要なことだ。
・・・・ほんと、頭ん中破裂しそう。

「・・あ、」

靴紐がほどけてやがる。
そのまま気にせずに歩くのもいいが、こんな誰もいないような路地でコケた場合、どうにもやり場の無い羞恥に駆られそうなので、仕方なくなおすことにする。

荷物を地面に置き、しゃがみ込んで、靴紐をなおしていると、後ろからバイクのエンジンの音が聞こえてきた。
・・たく、こんな狭い路地をバイクが通んな。

頭の隅っこの方でそんな文句を垂れていると、バイクが俺のすぐ横を通り過ぎる。
若干の通り風と、環境破壊の促進的な二酸化炭素を放出した僅かな白煙が、俺の目の前を掠めていった。
・・と同時に、俺の荷物も姿を消していた。

「高校生の荷物ひったくって、どーすんだよ・・」

めんどくせーこと増やすなと思いつつ、前を低速度で走るバイクを追いかけると、意外にもそれはあっけなく速度を緩め、やがてとまった。
・・・・・何がしたいんだ、こいつは?

「おい、荷物返せ」

そいつの手からカバンをぶん取って、メット越しに睨みつける。
暗くてよく見えないが・・・・もしかして。

「そんな怒んなッて〜。・・大和クン?」

メットを外して露になった顔は、どこをどう見ても唐沢竜也。
そして、こんなアホみたいなことをする奴も、こいつくらいしか検討がつかなかった。

「・・・お前、何がしたいわけ?」

ため息をついてその表情を見やると、へらっと笑ったアホ面があった。

「ちょっとした、青少年の戯れだってのー」

無視して、歩き出す俺。

「おいおーい、もしやけっこーマジで怒ってる?なんでそんな機嫌ワルイんですかあー?」

バカっぽい声、つーかバカな声が俺を追ってくる。
そういうお前は、なんでそんなに上機嫌なんだよ。
また、弥栄絡みか?
―――そんな事をいちいち気にしている自分に・・・つかれる。

「生憎、暇人なお前の相手してやれるほど、体力残ってねーんだよ」

なんでこうも家までの道が遠いんだよ。
はやく帰って寝たい。あー、でもまだ寝れねえ。
俺には、まだ押し付けられた仕事が残ってる。
まったく、意地の悪い数学教師が出す宿題よりも、よほどタチが悪い。

すっかり不機嫌な俺を見た上機嫌野郎は、不満げに唇を尖らせた後。

「あー?錆びれたリーマンかッつーの。ま、お詫びと言ってはなんですが、俺の愛バイクちゃんに乗せてあげてもよくってよ」

そう言って、俺に向かってばちっとウィンクをとばしてきた。

控えめなのか偉そうなのかハッキリしろ、とツッコもうかと思ったが、そんな体力すら残っておらず、俺は黙ってメットを受け取り、バイクへと跨ったのだった。










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