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play6 厄日



頭の中を真っ黒い渦がぐるぐるしてて、まさに俺の脳内ハリケーンに占拠されちゃってる状態。
走るのもそろそろ疲れたところで、俺は全速力からだんだんダウンしてってやがては歩き始めていた。

息が落ち着いてくると同時に、頭ン中もだんだん落ち着いてきた気がする。
俺がこんなアホみたいに走ってたってのも弥栄は知らないし、俺も知られたくない。
進展のしようがないこの状況にも慣れたつもりでいた。
ただそれが思い過ごしで、俺はまだまだ弥栄のことを諦めきれないしこのもやもや感はずっとついて回る。
それを直接実感してしまって、思った以上に辛かった。

と、今の自分の状況を軽く整理出来る程度にはどうにか持ち直しはした。
でも、今は一人になりたい。
誰かと話しても笑うことはできないだろうし、やっぱりどうにもダメだ。

結局委員会の仕事もほっぽってるし。あー、俺・・しょうもな。




こんな賑わってる文化祭の中、一人になれる場所なんかあるのかと適当にふらついていた。
いっそ帰ればいいのか。
うん、冴えてる。
そう思いつき、俺は人ごみの中をどうにかすり抜けて校門へと向かった。

当たり前だけど、みんな楽しそうだなおい。
俺だってほんとはお前らみたいにワイワイやるはずだったんだよ。
それがどうだ。自分でも笑っちゃうくらい惨めだぜ、今の俺。

どんまい青春。彼女持ちの友達を好きになった代償だな、こら。


そして、さらなる惨め感が俺を襲う。
そんなハメになる、とはまさか俺も思っちゃいなかった。

校門の前に、見目いい男女が二人。
一人は長身の坊主頭で、もう一人はツインテールの似合う美少女。

大和と、熊田の妹・・テディだ。


とりあえず俺は歩く足を止め、人ごみの中二人を見つめていた。

距離からして、もちろん声は聞こえない。
それでもあの時の弥栄たちみたいに、なんとなくその場の雰囲気は見て取れるものだ。

大和は相変わらずの仏頂面だけど、決して嫌な空気は出していない。
テディはなんとも可愛らしい笑顔を振りまいて、楽しそうにしていた。

いろいろあってすっかり忘れてたけど、たしか作戦上では大和は文化祭のときにテディをフるとか言ってたよな。

フった・・にしちゃ、どうも空気が穏やかすぎやしないか?
もしかして話をしてみたらいい子で、大和の気も変わった・・とか?
なにしろあんだけのカワイコちゃんだもんな。それも大いにありうる気もする。
まあ大和はドライなやつだからなんともわかんねーけど、フツーの健康男子だったらここは当然OKを出すところだろ。

あっちでイチャイチャ、こっちでイチャイチャ。
家に帰るにも大和たちがいるせいで、校門の前も抜けらんねー。

なんだ、今日の俺?
厄日?厄日なの?朝の占いでも見てくりゃよかった。

・・きっと、恋愛運最下位だぜ?






昼を過ぎた頃、俺はいろいろな用事を済ませてひとまず落ち着いていた。
サボった資料もどうにかカタがついたので、その報告も含めて唐沢にでも会うか。
普通でいったら、あいつも委員会の仕事をそろそろ終えている頃だろう。

そう思い、俺はケータイを鳴らした。


・・・・・・・・・。
しかしその電話は通じず、何回かかけ直してもお決まりのアナウンスがひたすらエンドレスに流れるだけだった。

まだ仕事が終わっていないのか?
そう思い唐沢が整備しているであろう駐車場に出向いてみたが、そこでは既に他の体育委員がせっせとまじめに仕事をしていた。

他に思い当たるところもないので、その女子に聞いてみると。

「それが唐沢先輩、当番の時間になってもこなくって・・。まあこないかもって思ってはいたんですけど」

おい、唐沢。お前、後輩に信用されてねーみたいだぞ。

とりあえず礼を言ってその場を立ち去り、またケータイを鳴らしてみる。
・・・・・・・出ない。

朝の段階では委員会に行くつもりだったようだし、今現在連絡もつかない。
まさかどっかで不良にでも絡まれてるんじゃないだろうな。

あらゆる可能性を考えながら、俺はもう何度目になるかわからない発信をした。


『・・・バーカ、しつけんだよ』

出た。


「バカはどっちだ。なんで当番行かなかったんだよ。後輩に呆れられてたぞ」

飛行機の音。
俺の頭上と、耳に当ててるケータイから。

外にいるのか。


「唐沢。お前、今どこにいんの」

キョロキョロとなんとなく辺りを見回してみるものを、当然この人ごみの中では見つからなかった。

『俺に会いたかったら探してみなさいよ、チェリーボーイクン』

誰がチェリーボーイだ。

そうツッコミを入れようとしたところで通話が切れたので、俺はポケットにケータイをつっこんでまた辺りを見渡した。

唐沢が行きそうな場所。しかも、外。
ガヤガヤした感じがしなかったってことは、屋台の位置からははずれた所ってことか。

そう絞り込んでいくと、あいつがいそうなところは一つしかなかった。



俺は自分の勘にかけ、目的地へと小走りで向かった。

電話口でのあいつの声、いつもとどこか違った。
明るく振舞ってるようで全然振舞えてない。

唐沢。お前ってさ、自分で思ってるよりもずっと不器用だって知ってるか。

もし俺がお前の居場所を一発で当てられたとしたら、もうちょっとお前は俺を信用して頼れよ。
もうひとりで抱え込んで、どっか行ったりするな。

あいつに言いたいことの山ほどを頭の中で唱えながら、いつの間にか俺は全速力で走っていた。










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