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play8 真相



しばらく無言で頭を垂れていた俺にも、大和は何も言わずにただ連れ添っていてくれた。
いざとなって言葉にして吐きだすと、やっぱりつらかった。
それでもこれは誰が悪いっていうもんじゃないし、強いていうなら弥栄を好きになっちまった俺が悪い。
相手のこと思って、必死に自分の思い殺して。つらくないワケがねーんだ。

そんな俺には、いつまでもこうしていたいと思うほどにこの場の空気がすごく心地よくて、ありがたくって。
決して言葉の多いやつではないけど、それがコイツなりの優しさで、今の俺にはそれが気持ちいい。
こんな気持ちを、本当は素直にこいつ相手に詫びておくべきなんだろうな。
頭ン中じゃわかってはいるものを、なかなか面と向かっては恥じるものがあった。

そんな素直になりきれない自分を内心疎ましく思いながら、俺は目を閉じた。




ようやく気持ちが落ち着いてきた頃、俺は顔を上げて大和を見た。
なにをするわけでもなく、大和はぼうっと空を見ていた。

「なあ、」

俺の呼びかけに、横にいた目がチラリとこちらを向く。
なるべく普段通りに見えるように心がける。

「そいや、俺の質問の答え。まだ聞いてねーんだけど」

いきなり俺が声を上げたのと、その内容とで面食らったのか、大和はポカンとしていた。
最初は仏頂面なヤツだと思っていたが、よくよく付き合ってみるとその中にも僅かな差で変わる表情がコイツの中にはいくつもあった。
それを見つけるたびに、大和航という男を面白いと思った。

「・・ああ、熊田の妹のこと?」

言葉の検討がついたようで、なんてことのないように相槌を打つ。

「そ、フッたにしちゃー仲良さそうだったっつーか。っあ、また怒んなよ。イヤミとかじゃねーから」

先ほどの茶化しでコイツの怒りをかっていたので、慌ててフォローを入れる。
大和の怒りの沸点は、どうにも掴みづらい。

「フッた、っていうと語弊になる」

すると思いもよらなかった大和の言葉が、ボソリと空気に沈んでいった。
俺にはその言葉の意味も理解できなかったし、何よりも呆気にとられていた。
なんやかんや、コイツがフる以外の行動を起こすとは思っていなかったからだ。

「は・・?現国苦手な俺にもわかるよーに説明しろよ」

そう返すと、「だよなあ・・」と呟いて、大和はため息をついた。
なに一人で納得してんだ、こら。

「なあ、唐沢」
「あ?」

改まった呼びかけに、返答する。

「俺はモテるよな、」

なんだとかまえていれば、この言動。
本人はフザけるでもなくマジなんだから、よけいに腹がたつ。 俺はカチンときながらも、今度はイヤミたっぷりに答えてやった。

「あーあー、ソーデスネ。大和クンにとっては、毎日がバレンタインデーですもんねえー」

「茶化すなよ、」

はあ、とまた重い溜息を送られる。
たしかにコイツはモテるし、それにもまあそれなりの理由があるとは思う。
大和は決してモテることを自慢しないし、かたや喜ばしいとも思っていない。
健全な男子高校生としてはいかがなものかと思うわけだが、そういうところも女子には新鮮なんだろう。

それはともかくとして、今回の件にそれがなんの関係があるのかっていうのかを問いたいね、俺は。
もし今更そんなこと確認しただけっつんなら、・・・・腹パン確定。

「そのせいらしいぜ、今回の事の発端は」

もったいぶる大和の言い方にイライラしながら、今度は俺がため息を返す。
それに感づいたのか、普段無口気味な大和がまた口を開いた。

「俺に告ってきた女子がさ、俺がフッたのを妬んでたらしくて」

まあたまにあんだけど、と付け加える。
なるほど、モテる男もいいことばかりじゃないってことか。

「俺は気づいてなかったんだけど、ストーカー紛いなことされてたんだって」

「気づけよ!」

思わずツッコまずにはいられなかったわけだが、「でも」と大和が小さく反論した。

「今思えば、電車ん中で痴漢っぽいことされたなーとか。ほら、俺が振り返った時とかあったじゃん」

まったく覚えてないけど、まあそんなことがあったような気がしないでもない。
てか、痴漢ってか痴女・・ってマジでいんのか。

「そんで、そのストーカーが熊田の妹の友達だったらしくて」

世間は広いようで狭いな。
今回の件は広くあって欲しかったようなもんだが。

「熊田の妹も何度も「やめろ」って言ったけど聞かなかったらしい。
俺が熊田の友達ってことも知ってて、けっこう悩んでくれてたっぽい」

あんなに可愛くて性格までいいとなると、本格的に兄である熊田が妬ましくなってくるな・・。

「で、いろいろ考えた結果、俺に告ることにした・・と」

話が一ページ分くらいとんだ。確実にとんだ。
これは俺の読解力の問題じゃなくて、完全にコイツのおはなしスキルの問題だよな?
わけがわからん!

「ちょっとまて。なんでその流れで、テディがオマエに告ることになんだよ!」

反面、大和は俺の読解力にケチをつけたいようで、不機嫌そうに眉をひそめている。

「もしそれで俺が熊田の妹と付き合うことになったとして、自分がストーカーしてたことがチクられでもしたらやべーと思うからだろ」

たしかにチクられた場合、ストーカーをしていた自分は少なくとも大和にいい印象はもたれない。
フラレてもなおストーカーするってことは、まだ大和のことが好きだったんだろう。
少しだけだが、ストーカーの子には同情する。

「しかし、テディもすげーこと思いついたな」

俺だったら、そんな小難しい思考にはとうていたどり着かない自信がある。
・・・・しかし、待てよ。そうなると、この話はまだ決着がつかないんじゃねーか?

「でも、その作戦ってオマエがオッケーしねーと成功しないんじゃ」

大和の顔を見返すと、ふいに目をそらされた。
その先は答えたくない、そういった雰囲気が嫌でも伝わった。

「おい・・・・?」

口を開こうとしない大和に呼びかける。

観念したように、大和の薄い唇がゆっくりと動いた。


「だから、付き合うことにした」

大和の一言に、一度だけ心臓がドクンと揺れるのを感じた。
自分の知らないところでも、当然のように流れていく時間の変化をまざまざと感じた瞬間だった。










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