play2 旧友
「えー。ねえねえ、竜也っていつもあんな感じ?」
するといきなり隣の席から身を乗り出して、鶴木が俺の顔を覗きこんできた。
こちらも唐沢並みに馴れ馴れし・・いや、コミュニュケーション力に長けているようだ。
「まあ・・いつもだったら誰彼かまわずベタベタしてきますね」
とくに遠慮することなく、そうそっけなく答えてやる。
対する鶴木は、俺の言葉を聞くとおかしそうにケタケタと笑った。
「何それウケる。俺嫌われてんのかな?」
どこがウケるのか全くわからないが、とりあえず「はあ」と適当に相槌をうつ。
隣では呑気に、弥栄たちが最近ハマっているらしいゲームの話で盛り上がっていた。
・・仮にも好きな奴の元彼と、なんでマンツーマンで話さなきゃならないのか俺自身、甚だ疑問である。
「てか君らの組み合わせって、あんまない感じで面白いよね。何繋がり?」
まあたしかに、これはわりかしよく言われることだった。
唐沢は見た目ヤンキーというか半ギャル男というか・・まあ今風の高校生って感じで、
弥栄は誰が見ても勝気な小動物系で、熊田は金髪で自称ポッチャリで元ヤンで。
そして俺は坊主頭のバリバリ高校球児だ。
今更過ぎるが、どう考えてもデコボコすぎるメンバーだ。
その意見には悔しいが同調してやろう。
「同じクラスなんで」
「っあ、ごめん!ちょい電話」
俺が答えたのとほぼ同時くらいに、テーブルの上にあった鶴木の携帯が鳴った。
電話に出ながら、席を立ってドアの方へと向かっていく。
「大和、竜也の友達と何話してたん?」
その後ろ姿をなんとなく眺めていると、隣の弥栄が興味深げに探ってきた。
「大したことじゃない。つか、俺だって別に話したくて話してたわけじゃ・・」
そう弁解していると、店のドアが再び開いた。
「え、もしかしてあれって楓(かえで)じゃね!?」
新しい客人を見た弥栄が、それは驚いた声を上げた。
見知った名前と共に。
「楓って、」
つられてドアの方へと目を配る。
そこには先ほど席を立った鶴木と、―――数年ぶりに会う、俺にとってのもう一人の幼馴染がいた。
なんで鶴木と一緒なのかとか、たしか小学生の時に遠くに引っ越したよなとかいろいろな考えを巡らせているうちに、
二人は隣の席についた。
「なあなあ、俺弥栄加珠なんだけど、楓だよな?覚えてない?」
そして、気づいた時には弥栄がなんとも嬉しそうな顔で隣のテーブルに話しかけていた。
おいおい弥栄君、仕事早すぎだろ?
もちろんいきなりのことに相手も驚いていたが、すぐに状況を理解したようで揚々と答え始めた。
「え、カズ!?うわっ、なつい!よう分かったな」
久しぶりに聞いた声は声変わりしていたし、イントネーションが違っていた。
そうか、たしか関西に引っ越したんだった。
冷静にそんなことを思い出していると、話の矛先はすぐに俺に向けられた。
「お前、ワタルやない?わー、坊主なんや。ええね、似合うとるよ」
ニカニカと人懐っこい笑い方は昔とそのままで、少し懐かしかった。
小学生の時、こいつ――楓と弥栄と俺はとにかく仲が良かった。
明るい性格の弥栄と楓はすぐに仲良くなり、もともと弥栄と幼馴染だった俺もいつの間にか楓とは親しくなっていた。
小学5年くらいの時、親の転勤がきっかけで楓は転校してしまい、会うのはそれ以来だった。
「久しぶりだな。いつこっち戻ってきたんだ」
注意。感情表現に乏しい俺だが、こう見えても一応喜んでる。
「ついこないだ。こっちいるばーちゃんが具合悪いいうてさ。面倒見れる奴もおらんし、心配やから」
そう言って少し肩を落とす楓の向かいから、今まで俺達のやりとりを黙って見ていた鶴木が口を開いた。
「そ。だから、俺と楓は戻ってきました」
鶴木の物言いに、一同は首をかしげた。
なんで楓と鶴木が・・一緒って。――――そういや楓の苗字って。
「あれ?会うたことなかったんやっけ。忍、俺の兄貴なんよ」
なるほど。これで辻褄があった。
しかし、これってちょっと複雑じゃないか。
俺と弥栄の幼馴染の兄貴が、唐沢の元彼。
・・・・どんな偶然だよ。こんな偶然は、できれば避けていただきたかった。
「なーに楽しそーに話してんだよ?」
トレーにいくつかの料理をのせて、唐沢が現れた。
なんてタイミングの悪い奴なんだ。
「なーなー、竜也!すっげー驚きなの!鶴木さんの弟が俺と大和の幼馴染だったんだよっ」
出会った時の興奮そのままに、全く悪気がない――というか事情もわかってない――弥栄がそう唐沢に伝えた。
対する唐沢はワケがわからなかったようで、柄にもなくポカンとしている。
「カズとワタルの友達なん?わー茶髪カッコエエ。向こうの兄ちゃんも金髪やし」
そういって熊田を見る楓。
ほんと底抜けの明るさは変わってない、というかむしろ拍車がかかったような気もする。
そして褒められたとデレデレするな、熊田。
「俺、カズとワタルの幼馴染で鶴木楓いいます。よろしゅう」
そして楓の簡単な自己紹介で、我に返ったらしい唐沢がようやくピンときたようだった。
「っえ、っと忍の弟で弥栄たちの幼馴染・・?よくわかんねーけど、ヨロシク」
へらっと笑ってるが、その口元は思いっきり引きつっていたように見える。
それはもちろん、楓が鶴木の弟っていうポジションに意味があるんだろう。
「ばーちゃん落ち着くまでしかおれんけど、それまではこっちおるから。またよろしゅーな」
楓と久しぶりに会えたのは、ほんとに嬉しい。
けど、おそらくその兄であるこの鶴木という男が唐沢にとっては毒なのだ。
ただでさえ俺にとって不安定な今の状態にプラスされたその要素は、
今後どんな動きを見せるか・・今は考えたくもなかった。