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play3 運命



※この話には、暴力的なシーンが含まれます。
 苦手な方はお気をつけください。(この話を読み飛ばしても問題ありません。)
 承知頂けましたら、レッツスクロール!























運命の女神サマってヤツは、おそろしくドSの女王様だと思う。

二度と会いたくないと思っていた。
思い出したくもなかった。
なのに、再び出会ってしまった。

俺、あいつらの前でちゃんと笑えてたかな。
ぶっちゃけ、うまく笑顔を作れていた自信がない。
…忍が隣にいて、俺を見ていて、同じ空気を吸っていて。
正直、正気を保つので精一杯だったと思う。

……ほんとに、運命の女神サマ。
どんないい女でも、今回ばかりは恨むぜ。




弥栄達の幼なじみ兼忍の弟であるという楓は、忍とはまた違ったタイプのように見えた。
愛嬌がいいところは、少し似ている。
あと、笑った顔。

深い話をしたわけではないし、楓が実際どんなヤツなのかはわからない。
けど、裏表のような影はないように見えた。
弥栄達幼なじみを、ほんとに大事に思っているようなそんな笑顔をしていたように思う。

イロイロ経験したおかげで、人を見る目だけはちょっと自信あンだよね。
それもまあ、よくいえば忍のオカゲサマってヤツなのかもしれない。
もう間違えないために…俺は俺自身を守るために、俺なりに自分の見る目を養ってきたワケ。
意外と学習能力あるのヨ?




「店長、お先デース」

私服に着替え、店長に挨拶をし、店を出る。
ケータイのディスプレイを見ると、もう21時を回っていた。
時間のわりに、どうも明るいなと空を見上げると、ボールみたいにまんまるな月が浮いていた。
今日は、満月か。

柄にもなくそんなことを考えながら歩いていると、建物の脇から人影が飛び出してきた。
思わず、無言で息を飲む。

「遅くまでおつかれ、竜也」

耳を塞ぎたくなる、聞きたくもない声。

「大体、こんくらいの時間に終わるかなーって、フラフラしながら待ってたんだけど、この辺なんもないね」

貼り付けたような笑顔を浮かべながら、その男は俺の指先に触れる。

「触んなよ!」

無意識に払った指先が、男―――もとい、鶴木忍の顔を掠めた。

ドクン、と心臓が嫌な音をたてる。
俺は、咄嗟に目の前の顔を見た。

「やっぱ変わったね、竜也。前は俺にどんなことされても逆らったりしなかったのにね」

目の前の顔は、笑っていなかった。

「俺のそばを離れたりするから、そんな悪い子になっちゃったんじゃないの」

脳みそに響くほどの強い力で前頭部を掴まれ、そのまま建物の壁に頭を打ち付けられる。

…ヤバイ。ヤバイだろ、コレ。
ふつーに脳震盪おこす。
頭、クラクラする。

「なあ、聞いてんの?」

おそらく膝で腹部を突かれたであろう俺は、頭部と腹部への痛みに耐えきれず、その場に崩れるように座り込んだ。

…ああ。なんだこれ、久しぶりだな。
懐かしくも思いたくねーけどよ。

「も、う…俺は、オマエのモンじゃねー、っつの」

植え付けられた恐怖心は、時が経っても消えることはなく、俺は目の前の男から目を逸らしていた。
痛みが止まない後頭部を抑えると、指先にドロっとしたモノがこびりつく。

「ナニソレ。じゃー何、お前誰かと付き合ってんの?」

座り込んだ俺に、忍は馬乗りになった。

「んじゃ、当てよっか」

胸ぐらを掴まれ、ワケもわからず頬を思いっきり殴られる。
今から思えば、コイツの行動でワケわかったことの方が少ねーな。

「お前の好み的には、あの小動物みたいな子かなって思うんだよねー」

まるで喋ることと同じように、俺の頬を殴り続ける。
昔の俺も、今の俺も…なんの抵抗もできなかった。

「それとも、ボウズ頭?まさかキンパツのデブはねーよなあ」

オイオイ。熊田のことデブって言ったヤツは、生きて帰ってこれねーっていう都市伝説があんの知らねーのかよ?

朦朧としていく意識の中で、そんなツッコミを入れている俺は、悲しくもこんな状況に慣れてしまっていた。
俺の脳が、コイツを拒むことも受けいれることも全てを拒否していた。
つまり、完全に考えることを放棄していた。

「俺さ。お前のこと、まだ好きだよ?」

舌先に、鉄の味を感じる。
身体の感覚がなくなる。
…目の前がだんだんと黒くなる。

好き、ってなんだよ。
俺、こんなにズタボロに殴られてんだけど?
やっぱ、相変わらずコイツの考えてること、1ミリもわかんねえ。

「俺…は、」

その先の言葉を紡ぐことなく、俺は意識を手放していた。










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