play6 就寝
夏休みでもないってのに、なぜか俺の家ではお泊り会が催されていた。
最初は、姉ちゃんと喧嘩して家とび出してきた反抗期弥栄がうちに転がり込んできて。
その次は、大和だ。
その理由を聞けば、奴は単純にこう答えた。
「お袋と喧嘩したから」
・・ったく、なんでこう・・・皆家族内穏やかじゃねーのかな。
俺の家はトクベツ仲良いってわけじゃないけど、特に喧嘩が起きたりはしない。
兄弟間も普通に仲イイし、夫婦間でも今のところ問題ないみたいだ。
だから、2人の家系事情はイマイチよくわからんかったりする。
「つか、君らね。家族間でのトラブルを、俺らの友情内にまで持ち込まないでくれる?そこんトコ、オッケー?」
そう軽い口調で言いながら、自分の衣服を全てベッドの上へと脱ぎ捨てる俺。
ちなみについ最近から、裸で寝るようになりました。
なんか、一度やるとやめらんないくらいクセになる感覚なワケよ。
「・・・・オッケーだけど、なんでそこで脱ぐ必要があるわけ?」
ハート柄のトランクスに指をかけたところで、大和にその手をつかまれる。
・・なんだよ、くそ。
「寝るときは、裸派なんだよ」
だから俺は、きっぱりと答えてやった。
「うわっ、なんか妙にしっくりくる展開がうぜえっ」
俺の言葉を聞いた弥栄が、軽く身震いする。
・・・・・・それ、どーゆイミよ?
「とりあえず、そこまでにしとけって」
大和に、そう諭される俺。
そこまでって、トランクスは許すのな?
「大和。俺、こいつの隣で寝んのぜってえやだ・・」
「なにいってんだよ、弥栄〜。俺らの仲だろv」
「あー。そういうのマジでどうでもいいから、早く寝てえ。つか、寝かせろ」
けっきょく俺は、トランクス状態でとこにつくことになり、弥栄は相変わらず俺とは寝たくないと言い張って、大和は最後まで眠い眠いと文句をたれていた。
・・で。
「とりあえず、お前ら床で寝ろ。以上〜」
ベッドに入り、寝の体勢に入る俺。
今日は、疲れた。
もちろんさっきまでの弥栄との件もあったけど、・・その前に、俺ってば危うく大和に喰われかけたんだよね。
けっきょく、あの交換条件は未遂に終わった・・けど。
どうするつもりなんだろ、大和の奴。
・・ま。俺からいう気は、さらさらねーけどさ。
「はあ!?マジお客様に優しくねー家ッ!布団くらいよこせよっ」
小動物の如く、騒ぎ立てる弥栄。
・・ったく、かわいーっつーの。
「つーか、俺。ベッドじゃなきゃ寝れねえんだけど」
とかなんとか言って、坊ちゃまの大和君も文句を零す。
・・・・・・あー。どいつもこいつも、うっぜーえ・・。
「生憎、唐沢家にはお客様専用御布団なんてものはフィクションなんだよ」
「フィクションってなんだよーっ」
「実際には存在いたしません、ってことだろ」
まあ、たしかに無条件に床に寝させるってのも可哀想か。
・・つか、イコール弥栄と大和が隣で寝るってことになっちゃうし。
それは、絶対阻止せねば!
「じゃあ、ジャンケンして、勝った奴がベッド行きな?これなら、文句ねえだろ」
そう俺が提案すれば、2人は素直にイエスと頷いた。
先に言っておくが、俺はジャンケンで負けたことねえかんな。
・・て、待て待て。それじゃ弥栄と大和がー!;;
「言っとくけど、俺ジャンケン負けたことねーぞっ」
「俺もねえけど」
と、弥栄と大和が揃いにも揃ってそう高言した。
・・さてさて。
ジャンケンに負けたことのない3人がジャンケンをしたら、最終的には誰が勝つんでしょーね。
――そりゃあ、・・・あいこでしょのアンコール合戦っすよ・・。
「あー、くそー!全然、勝負つかねーじゃんかー!」
「ここはさ。誰かが勇気を出して負けりゃいいんだよ」
「じゃあ、大和。お前が負けろや」
こんなのがしばらく延々と続いて、さすがの俺たちもいい加減嫌気がさしてくる。
「・・もーさあ、雑魚寝でよくねえ?」
めんどくさくなった俺が、そう妥協策を提案してみる。
そしたら、弥栄とも近くで寝れるし・・弥栄と大和が隣で寝るのもちゃんと阻止できる。
・・て。なんで俺は大和相手に、こんな嫉妬心剥き出してんだか。
俺には、もっとビッグな天敵(かのじょと読む!)なんてのがいるってのに!
「仕方ねえーよな。じゃあ、その掛け布団とか床に敷いていい?」
「うわー。なんかすげえ可哀相な子達じゃん」
弥栄と大和もこんな感じの返事をするってことは、俺の案は承諾されたってわけだ。
それで俺たちは手分けして、なんとか3人で床に寝れるようにうまいことセッティングし終えた。
セッティングなんていっても、床に敷布団やら掛け布団を敷いて、枕代わりにクッションやらなにやらを頭の位置に置いただけだけど。
・・そして、俺たちはそこに横になってみて、初めてあることに気がつく。
(ちなみに配置は、もちろん俺が真ん中v)
「・・なあ。掛け布団なくねえ?」
若干、遠慮がちに弥栄がいう。
「唐沢、なんか他に代用できそうなモンねえのかよ」
眠いせいか、だいぶ不機嫌な口調で大和。
そんなん言われても、ないもんはないっつの。
「あ。コートとかかけるとか?俺、あったまよくね?」
「つーか、なんで竜也ン家布団ねえんだよー・・。それが、一番の謎・・・」
「そんなの今さらだろ。コートでもシーツでもいーから、早く」
「はいはいはい。ったく、お前らうるさスギ」
横になったカラダを嫌々動かして、クローゼットまでなんとかたどり着く。
ガチャッと開けて、適当にコートやらパーカーやらを奴らに投げつけた。
「それで今夜は、どーにかしのげ」
最後に自分用のコートを持って、特製布団のもとへと帰る。
俺だって、いーかげん疲れた。
「あー、やっと寝れんだー・・。マジで疲れた。ムダに疲れた」
弥栄が、先ほど俺が投げてよこしたパーカーになんとかくるまって、就寝準備段階に突入。
「誰も寝てないベッドが、なんだかむなしいっす」
はあ、とため息をつき俺。
まあ、こうやって弥栄と大和の間も阻んだし、俺的には満足?
「・・・・・・、」
「・・なによー。君ら、もうご就寝?どっかの漫画のメガネくんかっての」
やがて応答がなくなったところで、ちょっとぶつぶつ言いながらも、俺もだんだんまぶたが重くなってくる。
・・つか。
弥栄が近いです。とてつもなく、近いんです。
パーカーにくるまって、そっぽ向いてるけど、・・距離は手を伸ばせば、ヨユーに届くくらい。
好きな奴がこんな近くにいたら、寝たいもんも寝れなくなる。
弥栄の微かな息使いとか、俺とは違うシャンプーの匂いとか。
なんか、自分でも初々しい気持ちで恥ずかしいけど、こういう気持ちって、やっぱり改めて弥栄のこと好きなんだなあって分からされるトコもあったりして。
・・・・・キスしたら、バレっかな。
「・・・・、」
少しカラダを起こして、弥栄の方を覗き込んでみる。
顔は、やっぱりパーカーに包まれていて見えない。
キスは、ムリ・・と。
こんなことばっか考えてないで、いいかげん寝ないとな。
おやすみしましょ。
「・・おい、」
ドッキーン、とかその辺の擬音が、俺の心臓から飛び出した気がする。
それは、いきなり声をかけられたことによるもの。
でも、ちょっと冷静になって聞いてみたら、その声は弥栄のものではなかった。
「な、なんだよ。お前、起きてたの?」
裏を振り返って、大和を見る。
もちろんそこには、目を覚ました大和がいるに決まってる。
「このコートのせいで、眠れねえ」
相変わらずの不機嫌声で、大和は言う。
・・・てか、コートのせいで眠れねえってなに?
「どーゆーイミだよ?」
またカラダを横にして、大和の方へと向きを変える。
アイツの意味深な言葉に、興味があったからだ。
・・そして、大和は変わらずの口調でこうこぼした。
「お前の匂いがするから、」
・・なあ、大和。
それって、俺が弥栄に抱いちゃってる感情と同じってことなのかよ?