Duo Concert

Contrabass & Piano
デッドマー・クーリック 矢崎鞆音
               
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◆音楽雑誌から


音楽現代Vol.42/ 2012.10月号掲載 演奏会批評 茂木一衛

 珍しい二重奏のコンサートに行く。コントラバスは音色の輝かしさでチェロに一歩を譲るが、代わりに音の柔らかさ、奥深さによって聴き手に安らぎ、心地よさをもたらす・・・・コントラバスのデットマー・クーリックはまずH・エクルズのソナタ、R・シューマン≪詩人の恋≫抜粋でそれを示す佳演を聴かせる。ピアノの矢崎鞆音はコントラバスの主旋律部分では控えめな表現だがシューマン各曲の後奏部分などで豊かな音楽性が見え隠れする。物部一郎のコントラバス・ソナタ≪縄文≫、G・ボッテシーニのコンチェルト・ロ短調等では、難しい技巧を十分にクリアし、変化に富む作品の流れを見事なアンサンブルで実現する。後者と、S・ラフマニノフ≪ヴォカリーズ≫ではロマンティックな気分も豊かに描出し、アンコールも含め2曲のA・ピアソラではクラシックとポピュラーの境城を哀愁を帯びた音色で楽しませた。(8月18日、神奈川県民ホール小ホール)


音楽現代Vol.42/ 2012.8月号掲載 インタビュー
訊き手&構成&文 門田展弥
 大きなコントラバスをチェロのように自在に弾きこなすクーリック氏の演奏はまこと驚異的。今回のコンサートについて、ドイツ在住のクーリック・矢崎ご夫妻に訊いてみた。

-コントラバスとピアノのデュオはドイツでもめずらしいと思いますが、始められたきっかけなどお聞かせ下さい。
「初めは、コントラバスとピアノの曲があるから合わせてみようという簡単な遊び心からでした。実際に合わせてみると二人の音色が意外によく溶け合い、それならコンサートで演奏してみようということになりました。コントラバスとピアノのデュオなんて聞きに来る人いないのじゃない?と心配しましたが、コンサートは好評。多くの方が、コントラバスの隠された可能性に驚かれました。そういうわけで、その後も新しい可能性を追求しようということになり、今までやってきました。」

-今回のコンサートの聞きどころは?
「今回は先ず、物部一郎先生のコントラバス・ソナタ『縄文』を世界初演します。これは、第1作『平城』に続く第2作で、第1作と同様私たちのために書いて下さったものです。続いて、クラッシック、ジャズ、タンゴの雰囲気が混ざったピアソラの『キチョ』。コントラバスの超絶技巧によって皆さんをあっと驚かせる?ボッテシーニの『ロ短調コンチェルト』。そして、シューマンの歌曲集『詩人の恋』からいくつか抜粋して演奏します。コントラバスの深い感情表現を是非お聞き頂きたいと思います。」




音楽現代Vol.33/ 2003.1月号 掲載 インタビュー
訊き手&構成&文 長崎信吾
今年2月に日本で初リサイタルを予定しているピアノストの矢崎さん(デュッセルドルフ在住)にメールでインタビューした。

矢崎-矢崎さんこんにちは、はじめまして、矢崎さんは今年2月に、日本で初めてのリサイタルを予定されていらっしゃいますが、少しお話を聞かせてください。先ず、ドイツに留学しようと思われたきっかけは?
大学に入る前から、留学はしたいとなんとなく思っていました。いろいろなことが重なったのだと思いますが、一つは多くの人から「ドイツでは手指が速く動くとか、ミスタッチをしないとかいうよりももっと音楽の本当の大切なことを学ぶことができる」と聞いていたからだと思います。要するに指は動かないしミスも多かったのです。大学で教えていただいた教授がドイツから帰ってきたばかりだったということが、最後にドイツを私に近く感じさせたのではないかと思います。


-日本での勉強とドイツに行かれてからの勉強のやり方は変わりましたか?
初めは、ひとりの生活、ドイツ語、なにもかも新しく、環境に順応していくのが精一杯だったように思います。今になって思い出せば、日本にいた時とは練習の方法も奏法もずいぶん変わったと思います。


-具体的にどう変わりましたか?
留学して、ともかくフレーズということを、よく先生がおっしゃいました。
これはいろいろな意味があると思います。基礎的にどこからどこまでをひとフレーズとみなすのか、といったことから、フレーズ内の強弱、どのように体重をのせ、どのように手首を使いといったことなど…。先生は「重い、軽い」などとも表現していらっしゃいました。
昔は新しい曲をみるときに、まずともかく音を読んでから、という感じでしたが、初めから構成を読んでいくようになりました。結局このほうが早道だということもわかりました。それに伴って体や手首、腕の動きも自然についてくるからです。
あとは、暗譜がこわいという対策に、弾くだけでなく、楽譜を机の上で読むということもするようになりました。これはさらにコンサートの時の緊張まで少なくしてくれます。(もちろん時と場合によってですが…。まだまだ緊張します。)


-矢崎さんの幼少時の音楽環境はどんな風でしたか?
母が、大昔(笑)、歌を学んでいたこともあり、母の歌?!や母の聴くFMのクラシック音楽などを知らないうちに聴いていたようです。今になっても、オペラのアリアなどを自分では聴いたはずがないのに、「聴き覚えがあるなぁ」と思うことがあります。母が言うには、まだピアノを始める前、NHKの「みんなの歌」をよく歌っていたようです。「こいぬのプルー」は後々までのお気に入りでした。


-ドイツに行かれて、何を一番学びたいと思われましたか?
まず、私はドイツではリート伴奏科で学んだのですが、これはアリアなどではなく、主にドイツ歌曲(リート)の授業を歌の人と一緒にリート専門の先生から受けるというものです。リートではピアノパートがただの伴奏とみなされず、歌と一体となって一つの作品を作り上げているものです。そのため、二人で練習を重ね、いろいろお互いのパートとの関わりを解釈しながら曲を作り上げ、授業に向かう必要があります。そこから私はドイツ語から来る自然な音楽のリズムを体得したいと思いました。日本人はメトロノーム通りに演奏すると言われがちですが、それは日本語という母音と子音が必ず一緒になった「あいうえ」のような同じ長さの言語も原因しているのではないかと言う人もいます。それに比べますと、ドイツの単語はリズミカルです。ピアノソロ曲でも先生が音符に適当に文をつけて、喋らせながら弾くということが行われたりします。その次に、フレーズの作り方というものも身につけたいと思いました。
歌詞にはそれぞれの文に大切な単語があります。それがゲーテなどの詩であれば単語に託された意味が深くなってきます。それを解釈していくとリートはフレーズを作り上げることができます。歌は呼吸をしなければなりませんし、弦楽器は弓を使わなければならないので、ピアノよりもフレーズには敏感なように思えます。また、ピアノは鳴らした音は打鍵した瞬間から絶対に弱くなるという問題がありますが、歌や弦楽器は音を伸ばし続けることができます。リートの伴奏だけでなく私が、室内楽をやっていきたいと思うのは、一緒に演奏することがピアノでは疎かになりがちなことに注意を向け、補えられればと思うからなのです。


-矢崎さんにとって、音楽の存在、ピアノとの出会いとは何ですか?
大袈裟ですが、生きていく目的のようなものです。ここまで付き合ったら離れられないですから…。今まで費やした時間は何だったのだということになってしまいますし。
子供の頃は遊べないから、などの理由でピアノを習っていることを何度も呪ったことはありますが、今は続けていてよかったと本当に思います。


-矢崎さんは今、コントラバスとの「デュオ」と云う事でドイツ各地に於いてコンサート活動をされているわけですが、デュオを組もうと思われたきっかけは何ですか?
コントラバスのクーリックさんと初めて会ったのが、ユースオケの合宿でした。彼は講師として、私はピアノパートの助っ人で来ていました。空き時間に遊びで合わせてみて、音楽的にうまがあうなぁとお互い思ったのがきっかけです。リート科で何人もの歌手と組みましたが、息の合う人というのはなかなか出会わないものです。


-こういった「デュオ」は、日本では考えられない取り合わせだと思いますが(コントラバスのリサイタルにピアノ伴奏が付く事はありますが)、ドイツやヨーロッパではよくある事ですか?
やはり珍しいです。コントラバスという楽器が、弦の音と音の間隔が広く、バイオリンなどと比べると弓の長さの割合が短いので、ソロ曲を弾くのが難しく、そういったことをする人が基本的に少ないのだと思います。 また、コントラバスとピアノのためのオリジナル曲はあまりなというころもあります、そのため、私たちはチェロの曲やオペラのアリアなどさまざまな可能性を探り、コトラバスとピアノのためにアレンジして演奏しています。


-今回は矢崎さんにとって、日本での初リサイタルになるわけですが、このデュオの聴きどころをお聞かせください。
珍しい組み合わせと、大曲を含むロマンティックなものを主としたプログラム構成、そのやわらかい、豊かな音楽空間といったところでしょうか。また、大きなコントラバスを操る、手に汗を握る(?!)アクロバット的な演奏です。コントラバスを学んでいる学生のみなさんにもぜひ聴きに来ていただきたいと思います。


-最後に、パートナー「デットマー・クーリック」さんについて少しご紹介いただけますか?
コントラバスを始めたのは比較的遅く、初めはエレキバスに凝っていました。演奏法の複雑なコントラバスに魅せられて独学で始め、フランクフルトやベルリン音大で勉強を重ねました。在学中からさまざまなオーケストラで演奏、6年間ボーフム交響楽団で首席コントラバシストを勤め、その後、2001年からフライデルブルク・バーデンバーデン放送交響楽団で演奏しています。ポルトガルのコンクールで2位と特賞も貰っています。また、コントラバス奏法の技術を開拓することに闘志を燃やし、新しいことをどんどん取り入れていきます。その技術を学びに、学生が彼が講師をする(2006年現在は教授)アーヘン音大に多く集まります。



-ありがとうございました。日本でのコンサートを楽しみにしております。
こちらこそありがとうございました。みなさんの楽しめる音楽会になるよう張り切って練習に励みたいと思います。