リヒャルト・フォン・フォルクマン=レアンダー (1830−1889)



童話集(2)こぶのある少女・こがねっこ


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         こぶのある少女

         フォルクマン=レアンダー 作

 むかし、ある女の人に、一人の小さな娘がいました。その少女はとても小さく、蒼い顔をしていて、それにちょっと、ほかの子供と違うところがありました。というのは、その女性が、娘をつれて外を出歩くと、人びとはしばしば立ちどまって、その少女のあとを見おくり、たがいに何ごとかをささやきました。そこで少女は、人びとがどうして自分を、そんなに変わった目でみつめるのかと、母親にたずねました。母親は、そのつど、こう答えました。「それはおまえが、とてもかわいらしい、新しい服を着ているからですよ」そこで、子供は安心しました。
 ところが、母と子が家にもどると、母親は娘を腕に抱きあげ、いくどもいくども接吻してから、言いました。「かわいい、いとしい、天使のようなおまえ。もしわたしが死んだら、おまえはどうなることだろう。おまえがどんなにかわいい子か、だれも知らないのだよ。おまえのお父さんさえもね」
 それからしばらくして、お母さんは突然病気になり、九日たって死にました。少女のお父さんは、絶望のあまり、亡くなった人のベッドに身を投げ、妻と一緒にほうむってほしいと言いました。友人たちは、ことばをつくして、彼をなぐさめました。そこで、彼はあきらめ、一年たってから、最初の妻よりも美しく、若く、お金持ちの女と、再婚しました。けれども、彼女は、最初の妻とくらべて、とても親切とは言えませんでした。
 そして、少女は、お母さんが亡くなってからというもの、日がな一日、部屋の中の窓辺に、座りつづけたままでした。というのは、少女と一緒に外出したいと思うものは、誰もいなかったからです。少女の顔色は、ますます蒼くなってゆきました。しかも、この一年間で、すこしも成長していませんでした。
 さて、新しい母親が家にやって来たとき、少女はこう考えました。――さあ、また郊外へ散歩に出られそうだわ。明るい日が射している、きれいな道を。道の両わきには、美しい木々が立ち並んでいて、花が咲いているんだわ。そして、たくさんの着飾った人たちが歩いているのよ。
 少女がそう期待したのは、彼女は、日のめったに差しこむことのない、小さな、狭い通りに住んでいたからです。窓枠のうえに腰かけると、ハンカチほどの青空が、ちょっぴり見えました。
 新しい母親も、毎日、午前と午後、外出しました。その際には、彼女は、前のお母さんが着ていたよりも、ずっときれいな、とても美しい色どりの衣服を身につけました。でも、少女をつれて出ることは、一度もありませんでした。
 そこで、少女はしまいに決心しました。ある日のこと、自分を外へつれっていってほしいと、新しい母親に懇願したのです。ところが、彼女は、その願いをそっけなく断って、こう言いました。「まったく、気のきかない子だこと。わたしがおまえと一緒にいるところを見られたら、人びとは一体どう思うでしょう。おまえにはこぶがあるのよ。こぶのある子供たちは、散歩なんかには出ません。いつも、ずっと家にいるのです」
 そう言われて、少女はだまりこんでしまいました。新しい母親が家をあけると、すぐさま少女は椅子のうえに立って、鏡に映った姿を見ました。すると、たしかに、少女にはこぶがありました。それも、とても大きなこぶが。そこで、少女はふたたびいつもの窓枠のうえに座って、通りを見おろしながら、彼女を毎日散歩につれていってくれた、前の優しい母親のことを思いました。それから、また自分のこぶのことを考えました。
 「中には、何が入っているのかしら」彼女はひとりごとを言いました。「こんなふうなこぶの中には、きっと何かが入っているにちがいないわ」
 そうして、夏が過ぎてゆきました。冬がやってくると、少女の顔色は、ますます蒼ざめてゆき、体も弱ってゆきましたので、もう窓枠に座っていることができなくなり、いつもベッドに横になっていなければなりませんでした。そして、ユキノハナが最初の緑の芽を、大地からのぞかせた頃のことです。ある晩、前の優しいお母さんが、少女のところへやってきました。そして、天国はどんなにこうごうしく、すてきな様子かを、語ってきかせました。
 次の日の朝、少女は亡くなっていました。
 「泣かないで、あなた」新しい母親は、夫に言いました。「このかわいそうな子にとって、これが一番なのですわ」夫はひとことも答えずに、ただ無言でうなずきました。
 さて、少女が埋葬されたとき、大きな、白鳥の翼をつけた一天使が、天国から下りてまいりました。そして墓のそばにおり立つと、それが扉ででもあるかのように、ノックしました。少女はすぐに、墓の外へ出てきました。すると、天使は、自分は、彼女を天国の母親のもとにつれていくために、やって来たのだと言いました。そこで、少女は、おずおずと尋ねました。
 「こぶのある子供たちも、天国に入れるのでしょうか。天国はとても美しく、とうといところなので、わたしにはとても考えられません」
 ところが、天使は答えました。
 「愛らしい、優しい娘(こ)よ。おまえには、もうこぶはないのだよ」
 そう言って、少女の背中を、彼の白い手でふれました。すると、古い、みにくいこぶが、大きな、うつろなからのように、落ちてとれました。そして、中には何が入っていたでしょうか。
 ふたつの、すばらしい、白い、天使の翼でした。少女は、これまでにも、いつでも飛ぶことができたかのように、その翼を広げました。そして、天使とともに、まばゆい日の光の中を、青空へと飛翔してゆきました。天のいただきには、彼女の前の優しい母親が座っていて、彼女を迎えるために、両腕を広げました。少女はその母親のふところへと、まっすぐに飛んでゆきました。*(原註)

*(原註)この童話の題材は、私が考え出したものではありません。すでに子供の頃から、よく知っている話です。しかし、この話の出どころについては知りません。


原題:Das kleine bucklige Maedchen
翻訳・入力:脩海
copyright:shuh kai 2013



     こがねっこ

     フォルクマン・レアンダー 作

 町の門の前に、ちょうど牧草地のはしに、一軒の家が建っていて、夫婦が住んでいました。夫婦には、ただ一人の子供、とても小さな娘がいました。彼らはその子を、こがねっこ、と名づけました。それは愛らしい、活発な子供で、イタチのように敏捷(びんしょう)でした。
 ある朝早く、母親はミルクをとりに、台所へゆきました。すると子供は、ベッドから起きだして、シャツのまま、家の扉口に立ちます。それは、ちょうど、とてもすてきな夏の朝のことでした。子供はそうやって家の扉口に立ちながら、こんなことを考えます。――もしかしたら、あしたは雨が降るかもしれない。そしたら、今日のうちに散歩しておかなくっちゃ。
 そう考えたとたんに、子供はもう出かけています。家の後ろにある草地に向かって走りだし、草地をとおってやぶをめざします。やぶのところまで来ると、ハシバミの木が、大まじめに枝を揺らして、呼びかけました。

 「シャツ姿の裸のカエルさん
 知らないところで、何するつもりかい
 クツもはかず、ズボンもはかずに
 片一方のくつ下だけかい
 きっとくつ下をなくしてしまうよ
 あんよが凍りついてしまうよ
 おうちへお帰りな
 さっさとおもどりな」

 でも、子供は聞きいれませんでした。そして、やぶの中へ走りいって、やぶをとおりぬけ、池のところまで来ました。池のほとりには、どれも卵の黄身のような、金色のヒナをたくさんつれた、アヒルが立っていました。そして、ひどい鳴き声をたて始めました。アヒルはこがねっこのほうに走りより、くちばしをひらいて、彼女を食べてしまおうとしているかのようなけんまくでした。でも、こがねっこは恐がりません。まっすぐにアヒルのほうへ歩いていって、言いました。

 「やかましやのアヒルさん
 くちばしとじて、すこしはおだまりな」

 「あら」とアヒルは言いました。「あんただったかい、こがねっこ。すっかり見まちがえちまったよ。悪く思わないでおくれ。あんたなら、わたしらに悪さをしないもの。元気でやってるかい。お父さま、お母さまはおたっしゃかい。あんたが、わたしらのところを訪ねてくれるのは、とてもありがたいよ。わたしらには、とっても光栄だしね。ずいぶんと早起きをしたようだね。それなら、わたしらの池を、いっぺんよく見てみるかい。とても美しい場所だよ。ちがうかい」
 アヒルがしゃべりおえると、こがねっこはたずねました。「教えて、アヒルさん。このたくさんの小さなカナリアを、どこで手に入れたの」
 「カナリアだって」アヒルはおうむ返しに言いました。「いやはや、みんなわたしの子供たちですわ」
 「だって、とてもいい声で鳴くし、羽がなくて、毛ばかりじゃない。あなたのカナリアたちは、いったい何を食べてるの」
 「きれいなお水を飲んで、細かな砂を食べてるのよ」
 「でも、そんなものでは、大きくなれないじゃないの」
 「いえ、いえ」とアヒルは言います。「神さまのおかげで、砂の中にも、時どきねっこがまじってたり、水の中にも、虫だの、かたつむりだのが、まじってますからね」
 「ところで、橋はないのかしら」こがねっこはさらにたずねました。
 「ありませんね」とアヒルは答えました。「残念だけれど、わたしらには、もちろん、橋はないのよ。でも、あんたが池をこえたいのなら、わたしが喜んでわたしてあげるよ」
 そう言って、アヒルは水の中に入り、大きな睡蓮の葉を折りとりました。そして、こがねっこをその上にのせると、長い茎をくちばしではさみ、向こう岸へとはこびました。小さなアヒルの子たちも、元気にそばを泳ぎました。
 「ありがとう、アヒルさん」向こう岸につくと、こがねっこは言いました。
 「どういたしまして」アヒルは答えました。「またわたしにご用のせつは、喜んでお役にたちますわ。あなたのご両親によろしくね。さようなら、アデュー」
 池の対岸には、また広大な緑の草地が広がっていました。そちらのほうへと、こがねっこは散歩をつづけます。ほどなくして、一羽のコウノトリが目に入りました。こがねっこは、まっすぐに走っていって、言いました。
 「おはよう、コウノトリさん。なにを食べてるの。緑の、まだら模様の、おまけにケロケロ言うものを」
 「バタバタサラダだよ」とコウノトリは答えました。「バタバタサラダさ、こがねっこ」
 「すこし、ちょうだいな。お腹がすいたの」
 「バタバタサラダは、おまえさんには向かないよ」
 そう言って、コウノトリは川辺にゆき、長いくちばしを水の底にもぐらせました。そして、まずミルクの入った金色のカップをとりだし、それから、細長いパンをとりだしました。それから、片方のつばさをもち上げて、砂糖の入った紙ぶくろを落としました。
 こがねっこは、一度言われるだけで十分でした。すぐさますわって、食べて、飲みました。お腹いっぱいになると、こう言いました。
 
 「どうも、ありがとう。
 おたっしゃで、長生きしてね」

 それから、こがねっこはどんどん走ってゆきました。ほどなくして、小さな青い蝶が、こちらへ飛んできました。
「ちっちゃな青さん」と、こがねっこは言いました。「ちょっとだけ、鬼ごっこをしてあそばない」――「いいとも」と、蝶は答えます。「でも、ぼくをつかんではだめだよ。もげてしまうからね」
 そこで、こがねっこと蝶は、草地のうえをぐるぐると、鬼ごっこをしてあそぶうちに、いつの間にか夕方になりました。暗くなり始めると、こがねっこはすわって、考えました。―−さて、たっぷり休まなくっちゃ。それから、おうちに帰るのよ。
 すわって見まわすと、草花もみな疲れたようすで、眠たげでした。ヒナギクは頭をこっくりさせて、眠りこむかとみると、また体を起こして、あたりをガラスのような眼で見まわします。そして、また頭をこっくりさせます。かたわらに、白いアスターが立っていました(たぶんお母さんだったでしょう)。こんなふうに言いました。

 「わたしのかわいらしい、ひなぎくよ。
 ちいさなくきから、おちないでね。
 お休みなさい、わたしの子よ。」

 すると、ヒナギクは身をかがめて、眠りこみました。白いちいさな帽子がずりさがって、レースが顔におおいかぶさります。それから、アスターもまた、眠りこみました。
 みんなが眠ってしまったのを見て、こがねっこもまた、まぶたがふさがってゆきました。そのまま、草のうえに横になって、眠りました。
 そのあいだにも、こがねっこの母親は、家じゅうを走りまわって、泣きながら、娘をさがしつづけていました。部屋という部屋に入り、すみというすみをさがし、すべてのベッドの下をのぞき、階段の下をのぞきました。それから、彼女は草地へ向かい、やぶのところまで来て、さらにやぶをぬけ、池のところまで来ました。娘が池をこえていったはずはないと考え、彼女はまた家にもどり、もう一度、あらゆるすみとかどをさがしつくし、ベッドというベッドの下をのぞき、階段の下をのぞきます。
 それをしつくしてしまうと、彼女はまた草地へ向かい、またやぶをぬけ、また池のところまでやってきます。そんなことを、彼女は一日じゅうくり返しました。そして、時間をかければかけるほど、彼女はますます泣きたてました。夫のほうは、そのあいだに、町じゅうを走りまわり、こがねっこを見たものはいないか、たずねてまわりました。
 すっかり暗闇になってしまったとき、十二天使のうちの一天使が、この緑の草地のうえをも、とおりかかりました。これらの天使は、毎晩、どこかで小さな子が迷子になっていないかどうかを、見てまわり、その子を母親のもとにとどけるために、世界じゅうを飛んでまわるつとめを、与えられていました。
 この天使が、こがねっこが草の上に横たわって、眠っているのを見て、起こさないように注意して、抱きあげました。そして、町の上まで飛んでくると、どの家にまだ灯りがついているかを、確かめました。こがねっこの両親の家に、まだ居間の灯がともっているのを見て、彼は言いました。――「あれが、たぶん、この子の住んでいる家らしいぞ」
 彼はこっそり、窓から中をのぞきました。父親と母親が、小さなテーブルに向かいあって、すわっていました。テーブルの下で手をにぎりあって、泣いていました。そこで天使は、そっと家の扉を開け、子供を階段の下へおいて、飛びさりました。
 両親は、やはりテーブルについたままでした。すると、妻が立ちあがってろうそくをともし、もう一度、すみというすみ、かどというかど、そしてベッドの下を照らしました。
 「妻よ」と夫は悲しげに言いました。「もう、なんどもなんども、すみというすみ、かどというかどをさがし、階段の下をさがして、むだだったではないか。寝るがいい。わたしらのこがねっこは、たぶん、池に落ちて、おぼれ死んでしまったのだろう」
 しかし、妻は聞きいれませんでした。さがしつづけて、階段の下を照らしたとき、そこに子供が横たわって、眠っていました。そこで、彼女は喜びのあまり、大声で叫びましたので、夫は急いで、階段をかけおりてきました。彼女は子供を腕にだいて、喜びに顔を輝かせながら、夫に歩みよりました。子供は、ぐっすり寝入っていました。走りまわって、すっかり疲れていたのですから。
 「いったい、どこにいたんだ。いったい、どこにいたんだ」夫は、くり返し叫びました。
 「階段の下よ。横になって、寝ていたの」妻は答えました。「今日、階段の下を、なんども、なんどもさがしたというのに」
 そこで、夫はかぶりをふって、言いました。
 「ふつうの出来事ではないよ、お母さん。わたしらのこがねっこをとりもどせたことを、神さまに感謝しよう」

原題:Goldtoechterchen
翻訳:脩海
copyright:shuh kai 2013

Up :2013.4,18