改め
サロン及び翻訳城
今月の言葉 <三度よい声で鳴いた 聞こえないくらい柔らかな音(ね)で ほかの鳥の声だったならばだ ほかの鳥はしかし あの広大なぶなの森の中で 五、六月に鳴いたことがない だれもその姿を見たものはいない 私だけに聞こえた みなは聞き耳をたてたものだが 四年前のことか、 五年前か、それ以来もどってこなかった その声を聞くとき たいてい私は一人でいた ほかのものには 一度たりと聞こえたことがない ラララ! とそれは鳴いた はるか遠くからのように あたかも おん鶏が世界の果てで鳴くかのように 鳥か それとも私が 夢のなかにいるかのように とはいえ 鳥は木々の間を飛び ときには そばまで来ていることは確かだった なぜか やはり 遠くで鳴いていたが 証拠といえば それを聞いたと 人に言うだけだ 人であれ 獣であれ 鳥であれ これほどの良い声を聞いたことはない 自然研究者にたずねてみたが いつまでも忘れられない あの音色に似たものを 聞いたことがないという 当時ありありとよみがえってきたし、今もそうだ 四年たっても、五年たっても、いっこうに変わらない かつても今も、あのラララ!は 姿はないが 甘美なままだ 心地よいよりも 寂しげと 言うべきか 寂しげではあれ また心地よげでもある それを味わうには あまりにも遠くはるかなのだが 今そう思っているように その鳥の鳴いていた日々が 本当に晴れた日ばかりであったのか はっきりわかるのは 鳴き声を聞いていた頃の私は ときに幸福で ときに不幸で からだもこころも重かった 今その鳴き声を思いだすと 私はたちまち あのはるか遠くをゆく 鳥のように 身も心も軽々としてくるのだ > ――不思議な鳥 エドワード・トマス(1878−1917) |
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