間質性膀胱炎

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1.間質性膀胱炎とは。
間質性膀胱炎とは、間質(上皮と筋肉の間)の慢性炎症です。普通の膀胱炎は細菌による尿路感染が原因で通常抗生物質がよく効きます。間質性膀胱炎はこれと異なり、まったく効果がありません。しかし精神の病気でもないし、ストレスによって起こされるものでもなく、現在のところ原因は不明です。年齢や人種、性別を問わず発病しますが、女性は特に中高年に多く見られます。

2.間質性膀胱炎の病態
何らかの免疫反応、防御因子、成長因子などがかかわっているといわれているが、推論の段階で確定的な病態はよくわかっていない。

3.間質性膀胱炎の症状
(1)頻尿・・・・日中、夜間を問わず頻尿です。症状が早い時期や穏やかな時は頻尿だけが唯一の症状となる。重症例では1日60回もの頻尿になります。直ちに尿を出さなければならないというしぶり感は痛みや緊張感痙攣をともないます。

(2)痛み・・・・尿がたまってくると増強し、排尿により軽快する。痛みの程度は1日のうちでもまた日によって波があります。痛みは「尿道が燃えるようだ。生傷に唐辛子をすりこんだようだ。」といった表現をする場合があります。部位は会陰部、鼠経部、大腿部。男性の場合は陰嚢部にも放散します。更に腰部や側腹部にも見られる。

(3)その他・・・・残尿感、下腹部の不快感、排尿困難を訴える人もいます。

(4)他の疾患・・・・アレルギー疾患、扁桃痛、繊維筋痛症候群、過敏性大腸炎、婦人科疾患等と合併することがあります。


4.診断
症状、病歴から間質性膀胱炎を疑います。
○病歴に数ヵ所の医療機関をまわっている。
○通常の泌尿器科的検査をして類似する疾患を除外する。
○最終診断
・麻酔をして膀胱粘膜からこの病気に特徴的な地割れの様な出血を確認する。
・組織検査をおこない、膀胱腫瘍を否定すること、この病気の原因といわれている肥満細胞の数をみる。
1.検査とその所見
(1)身体所見
膀胱部や骨盤底に圧痛があることがある。その他特徴的所見はない。
(2)尿検査
細菌感染のないわずかな血膿尿が典型所見である。肉眼的血尿をしめすこともあるが一般的に血膿尿の程度はそれほど高度ではない。まったく異常のないことも多い。尿培養、尿細胞診を合わせて検査するのが安全である。
(3)膀胱鏡
膀胱癌のような除外すべき疾患の検出にも有用である。早期の症例では所見は曖昧である。逆にある程度進行した例では麻酔なしで行うと疼痛などで十分観察できないことがある。その時は治療として水圧拡張を兼ねて行うという意味からむも麻酔下でおこなう。所見として膀胱容量の低下(150mm以下)、粘膜所見としてはハンナー潰瘍(赤いピロート状の病変、周囲には血管の増生が著しい)が高い頻度でみられる。しかしこれなくしては間質性膀胱炎と診断してはならないということではない。より軽症でも高い頻度で見られる所見としては点状出血がある。もっとも変化の少ない患者でも注意深く観察すると一部の粘膜に強い発赤や粘膜下の蛇行した血管が見られることがある。診断が曖昧なときは、下記の水圧拡張を行い点状出血を確認することが薦められる。
(4)水圧拡張
検査のみならず治療としても有用なものである。麻酔下に20cm水柱ぐらいから最大100cm水柱ぐらいの圧力で膀胱内に生食を注入して拡張する、拡張中や直後に観察すると粘膜の断裂、点状出血がみられる。
(5)膀胱生検
水圧拡張の前に行うべきではない。拡張したときに膀胱が破裂したり水が周囲に漏れる危険があるからである。拡張後に変化が明らかになることがあるので、そこを生検する方が所見のある検体を得やすい。病理的には上皮過形成を示さずしばしば脱落し、間質には非特異的な炎症が見られる。ただし間質の炎症や特定の細胞が存在しないと間質性膀胱炎ではないというわけではなく、明らかな所見を認めないこともある。つまり生検はこの疾患の確定診断にはならないので必須の検査とはいえない。また生検それ自体が炎症や膀胱の繊維化の誘因になるのでいたずらに繰り返すべきではない。ただし病理組織学的な検討はこの疾患の病態を明確にするためにもきわめて重要な手段であり、今後のさらなる検討が待たれる。生検はそれを行う目的を自覚して適切な部位から適切な方法で行うべきである。
(6)カリウム感受性検査
正常の膀胱粘膜は尿に対して透過性を持たない。したがってカリウムを含む溶液を膀胱内に注入しても知覚過敏はおこらない。しかしカリウムが膀胱内壁に透過すれば知覚神経終末もしくは排尿筋を刺激し、結果的に知覚過敏を引き起こす。間質性膀胱炎は膀胱粘膜の透過性の亢進が重要な病態と想定されている。したがってカリウム溶液の注入により知覚過敏が出現したら間質性膀胱炎を疑う所見であろう。確かにこの検査は感度の高い検査であり、また膀胱鏡をおこなわなくても診断できるという意味で有用ではあるが、あくまで早期のスクリーニング検査であって確定診断を行う方法ではない。
(7)膀胱内圧検査
水をもちいる。所見としては容量の低下(150ml以下)が主なものである。この程度の所見は膀胱鏡でも十分できるので、あえて行う必要があるか吟味すべきである。
(8)レントゲン検査    あまり有用とはいえない。
(9)アレルギー検査
他のアレルギー性疾患、自己免疫疾患の合併がしばしば見られる。特定の食物に対するアレルギーが原因となったような場合、感作検査で陽性を呈することがある。しかし多くの場合にはアレルゲンの特定はできない。

2.診断の目安
疑診項目
・頻尿(例 昼間10回以上)
・尿意亢進、尿意切迫感
・最大1回排尿量(例 200ml以下)
診断項目
・膀胱鏡で点状出血もしくはハンナー潰瘍
・膀胱部の痛み
鑑別・除外疾患、状態
婦人科・・・膀胱炎、月経困難、子宮内膜症、膣炎
泌尿器科・・・慢性膀胱炎、反復性膀胱炎、前立腺炎、慢性前立腺炎、前立腺肥大症、膀胱頚部硬化症、刺激膀胱、神経頻尿、
        不安定膀胱、過活動膀胱、神経因性膀胱
その他・・・・結核性またはBCG性膀胱炎、サイクロフォスファミドを含む薬剤性膀胱炎、放射線膀胱炎、膀胱癌、子宮・膣・尿道の癌

3.重症度判定
(1)軽症・・・・頻尿、尿意亢進だけがある。膀胱痛はあまりはっきりしない。
       頻尿も1日10〜15回、膀胱鏡でも典型的所見はない。
       水圧拡張を行うと典型的所見が現れたり、拡張後症状がかなり改善したりする。

(2)中等症・・・・膀胱痛がはっきりしてくる。頻尿も1日15〜20回以上、排尿量は1回100〜150ml、水圧拡張で点状出血がみられる。

(3)重症・・・・膀胱痛が強く、日常生活にも大きな支障がある。1回の排尿量 最大100ml未満
        麻酔なしの膀胱鏡が不可。麻酔下の水圧拡張でも300mlしか注入できない。
       粘膜に広範囲の出血、潰瘍が見られる。
4.間質性膀胱炎の痛みの機序
膀胱からの知覚神経はAδおよびC線維の2種類である。膀胱の伸展に伴う尿意はAδ線維を介して伝達され、正常の排尿反射は骨盤神経を経由するAδ線維によって引き起こされる。一方C線維は通常の膀胱伸展に反応せず、痛みなどの強い侵害刺激のみに反応する。つまり正常の状態では膀胱に由来するC線維は活動していないことになる。しかし、頻尿、膀胱痛を主訴とする間質性膀胱炎では慢性炎症に伴うC線維の過敏状態が起こり、慢性的な痛みを引き起こす大きな要因となっている。その刺激は慢性炎症に伴って局所で分泌される炎症性物質や各種成長因子が引き起こすと考えられている。これらの物質が知覚神経を刺激し、C線維の状態を過敏状態に変化させることにより、痛みを感じる状態になることがわかってきた。
5.現代医学的治療
間質性膀胱炎は頻尿、尿意切迫感、下腹部や会陰部の疼痛を主訴に感染や特異な病理所見を伴わない膀胱の疼痛と定義されているが、明確な病因は明らかにされていない。従って治療は対症的、経験的なものになり、現在も決定的治療法は確立されていない。

(1)水圧拡張・・・第一選択である。診断と治療を兼ねている手技でもある。作用機序としては第一に繰り返された炎症によって線維化し硬直、委縮した膀胱を機械的に伸展させることにあると考えられる。それによって膀胱容量の回復を目指す。第二に組織に固着しているさまざまな増殖因子を過伸展させ解き放ち創傷治癒基点を一旦終了させることにある。終了後1〜3週間は症状が悪化することがある。しかしその後50〜60%のこの症例で症状の緩解をみる。4〜12ヶ月で再発することがあるが、この場合再び水圧拡張をおこなうことを考慮にいれる。
(2)内服薬
・抗うつ剤・・・慢性的な痛みや頻尿、それに伴う睡眠不足、治療によって改善が見られない不安により患者さんはしばしば精神的に抑鬱された気分になっている。抗うつ剤は痛みの閾値を高め、睡眠導入を助ける働きがあり、それらの症状を改善させることがある。軽症では単独で硬化がみられる重症ではなかなか難しいと思われる。他の治療と併用しながら少量内服させると副作用もなく、有用な治療法である。

・抗ヒスタミン剤・・・間質性膀胱炎の症状発現には肥満細胞がかかわっていることがしばしば報告されている。ヒスタミンは血管の拡張などの作用がある。そのことを考えるとある程度間質性膀胱炎の症状緩和に有効と考えられる。実際は水圧拡張後併用薬内服維持療法として使用することが多い、他の治療法との併用薬、維持薬として位置づけられている。

・ステロイド剤・・・比較的多くの患者さんに使用されている。抗炎症効果に期待することと、間質性という名に自己免疫疾患を思い起こさせるためである。しかしながら至適投与量や期間が明確でない上、その効果も疑問視されている。

・エルミロン・・・GAG(防御因子の一つ)は膀胱粘膜の表面に存在し、細菌の付着や有害な結晶、タンパク、イオンなどから膀胱粘膜を保護する役割をしている物質である。間質性膀胱炎の患者さんにおいてこのGAG層がなんらかの要因で欠損、変性しておりそのために膀胱粘膜の透過性が増し、さまざまな物質が膀胱壁に入りこみ炎症を起こすといわれている。エルミロンは服用すると尿中に排出され、膀胱粘膜の非特異的防御機構であるGAGを補い膀胱粘膜を守るといわれている。従ってGAGを補うためエルミロンを投与すると有効ではないかという理論であるが、本邦では使用できる見込みは立っていない。

・トシル酸スプラタスト(アイ・ピー・ティー)・・・抗アレルギー剤である。有効性が確認されて下健在も臨床試験がおこなわれている。ヘルパー細胞のIL-4、IL-5の産出を阻害し、IgE産出、抗酸球性炎症を抑える。承認が待たれる。
(3)膀胱内注入療法
・DMSO・・・DMSOは炎症抑制、鎮痛、筋弛緩、肥満細胞の刺激、コラーゲンの分解などの作用があるといわれている。しかし本邦では薬剤としては承認されていない点に注意が必要である

・ヘパリン・・・膀胱粘膜の非特異的防御機構であるGAG欠損や変性を補う働きがある。また抗炎症作用、線維芽細胞の増殖刺激作用、血管新生作用、平滑筋の増殖を抑える作用がある。
このような作用から効果があると考えられている。
(4)電気刺激療法
間質性膀胱炎の成り立ちにおいて、排尿筋活動や骨盤痛症候群などの神経系の機能不全がかかわっているという考え方は以前からある。経皮的電気刺激(TENS)は感覚神経のシグナルに影響を与えていることによりさまざまな痛みに対する除痛のための治療して広くおこなわれている。抹消神経に対する電気刺激の意図は一定領域内における神経の阻害回路を活性化させるために求心性神経を刺激することにある。そこで間質性膀胱炎に対して膀胱や尿道、骨盤底を電気刺激する治療の有効性は以前からいわれていた。症状の程度による効果発現まで時間のかかることもある。特に重篤な副作用もないので他の治療法で治療困難で痛みの強い患者さんに対しては、試みていいのではないか思われる。
(5)外科的療法
間質性膀胱炎が進行し委縮膀胱となってしまった例に対して、膀胱拡張術や膀胱摘出術ずおこなわれる。しかし膀胱拡張術後も切迫感や疼痛は続いたとの報告もある。適応は慎重に検討すべきである。
(6)膀胱訓練
膀胱部の痛みや尿意切迫感が治療により改善した後も、頻尿は続くことがしばしばある。少しでも解消するように、膀胱容量を増す、治療によって回復させた容量を低下させないためトレーニングし続ける必要がある。医師あるいは看護師の指導の元、排尿を少しずつ我慢させるようにする。あせらずゆっくりと根気よくおこなうことが大切で、少なくても3〜4ヶ月続けさせるようにしたい、膀胱痛や排尿切迫感がなくなったら症状の再燃を防ぐ手段と考えられる。
(7)その他の治療法
・カプサイシン/レジニフェラトキシン
カプサイシンはVanilloid受容体と結合、神経伝達物質を遊離させて疼痛を引き起こす。間質性膀胱炎においてカプサイシンは感受性の高い神経伝達物質であるサブスタンスPともリンクし、肥満細胞を脱顆粒させヒスタミンを遊離させる。このため間質性膀胱炎の治療中、または緩解している時はカプサイシンを含有している食品を多量に摂取すると、症状の悪化につながることがあるためできる限り摂取をさける指導が必要となる。
 一方でカプサイシンは膀胱のC知覚線維の神経毒であり、疼痛を惹起した後、受容体の脱感作を起こし、結果として麻酔がかかったような状態にする。つまり逆に疼痛のコントロールとして使用できる可能性があるということである。カプサイシンを膀胱内に注入すると間質性膀胱炎の疼痛、尿意切迫感が改善したという報告がある。

レジニフェラトキシンとはカプサイシンの類似物質でより強い作用を持つ物質である。カプサイシンは膀胱内注入すると尿道や膀胱の灼熱感を起こすという問題点があるが、レジニフェラトキシンはカプサイシンよりも速く受容体の脱感作を起こすので、10nMの注入で膀胱部の灼熱感等なく排尿筋ま過活動に対して有効であるという報告がある。

頻尿、尿意切迫感が強い症例に対して、今後期待ができる治療法である。
しかし対象症例が水圧拡張を施行していないなど、間質性膀胱炎に限られているとは断言できないなどの問題もある。投与方法もさらに明確にして検討をする必要がある。

・BCG膀胱内注入療法
膀胱上皮内癌、表在性膀胱癌に対して有効な治療法として用いられている。1994年に膀胱上皮内癌の疑われ後に間質性膀胱炎と診断された症例に対して、確定診断がでるまでBCG注入療法を行い症状が改善した報告がある。これをきっかけに間質性膀胱炎の患者に対してBCG膀胱内を施行した。BCG50mgを50mlの生理的食塩水に溶解させ、5例に週1回、合計6回投与を行い、膀胱容量、頻尿、疼痛、不快感が有意義に改善したと報告されている。また、作用機序はIL-6を低下させることにあると報告されている。
しかしながらBCG注入療法に有効性認められない、またIL-6の低下も疑問があるとの報告もされている。いずれにしても作用機序が明確ではなく、有効性も明らかではない。副作用が強い薬であるため現時点での投与は慎重にすべきである。

・ヒアルロン酸膀胱内注入法
GAGは膀胱粘膜の表面に存在していて、細菌の付着、有害な結晶、タンパク、イオンなどから膀胱粘膜の保護をおこなっている。GAGの一種であるヒアルロン酸は膀胱粘膜やさまざまな結合組織で重要な役割を担っている。ヒアルロン酸を膀胱内に注入することによって間質性膀胱炎に一定の効果を得たとの報告がある。さまざまな治療に抵抗をしめした症例25例にヒアルロン酸40mgを生理食塩水50mlに溶解させ、週1回4週間投与、その後月一回にて投与を継続した。投与開始4週で56%、12週で71%の有効率で20週まで効果が持続した。しかし24週で有効率の減少がみられた。ヒアルロン酸膀胱内注入療法は間質性膀胱炎の有効な治療法になりうる可能性をもっていると思われるが、さらなる検討が必要であると思われる。
(8)心理的サポート
多くの間質性膀胱炎の患者さんは診断されるまでかなりの時間が経っており、かつ満足な効果の得られる治療を受けていることが少なく、医療側に不信感をいだいている場合がある。このためまず、医療側が患者との関係を築きなおす作業が必要となる。
まず患者さんの話をよく聞くことから始めなければならない。さまざまな治療法があること説明し、希望をもって積極的に治療に協力する方向へもっていくことである。また自分は「医療人としてこの疾患のつらさを理解しており、患者さんとともに考え、この疾患を治療していくという気持ちがある。」ということを理解してもらう作業が必要である。また家族や周辺の人達にこの疾患について理解してもらうことも大切である。これらのことが患者の気持ちが安定した方向へと向かう。そうすることが信頼関係を作り、治療にも良い影響があると思われる。
間質性膀胱炎の治療は医師、看護師、患者がよく連係して治療していくことが最も大切なことである。

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