17.メイン・スピーカシステムの製作
秋葉原展示品3000円のキャビネットにFE−168Eを取り付けた2ウェイシステムを2年くらい使ってきた。これは「とりあえずスピーカー」だった。
今、いよいよオリジナル設計のメインシステムを製作するときが来た。掛けられる時間は1日しかない。がんばれ!
シューベルトのザ・グレイトを天国的な音で聞く事が第1優先の狙いである。
また、FEシリーズのハイスピードユニットを生かして使う事が第2の狙いというか、条件だ。
耐久性からウレタンエッジは使いたくない。最初に買ったのはFE−166Eだが、少々おとなしい感じであった。
後からFE−168EΣがあるのを知ってこれに替えたが、これはウレタンエッジじゃないか!あ〜あ、やんなっちゃった。(いずれは、FE−168SS限定版が発売されるのを待とうじゃないか。)
でも、音は悪くないようだ。ツィーターが無いと、少々ザラザラした音になる。
天国的な音を聞くためには、音場型!できれば360度無指向性だが、ユニットをいっぱい使うのはコストがかかりすぎ、工作も大変なので難しい。部屋も狭いし。
そこで、フルレンジのツインドライブにして、1本を正面、1本を天板につければ、天板のユニットからは音を上に放射して天井や壁からのエコーが天国的な音を奏でてくれるはず。
ユニット2本のデメリットである、中高域の干渉も緩和できる。
ツインドライブにより低音も増強できる!1石3鳥!
しかし、この方式にもしも致命的な欠点があるとまずい。
そう思って念のため長岡著作集を当たってみたら、あった、あった!F−56ゴードンだ!「天板のサブウーファーでバーチカルツイン」というのがあった。特に注意すべき欠点の記述は無い。これで長岡先生のお墨付き(?)設計となったわけだあ〜!
さらに調べると168E伯nを使った「モアイ」というシステムもあった。なるほど、ツィーターにはFT96Hを使えば良いのだな・・・。
設計
部屋と設置場所の関係でキャビネット外形寸法・幅(22cm)、奥行き(30cm)、高さ(1メートルくらい)が、ほぼ決められているので、これを上限いっぱい使うことにする。
キャビネットの幅からして、ユニットは16センチが適当であろう。前述のとおり、天板にユニットを配置するダブル・ウーファーのツインドライブとする。
ツインドライブは長年の夢でもあったから。
しかし、構想段階では、モアイの記事などを参考に、キャビネットを上下に独立させ、下の1発は専用ウーファーを使おうかとか、天板にFW168Nをつければハイカットフィルターが要らないかもしれないとか、いっそのこと1本は20センチウーファーを使おうとか、いろいろ図面を書いたが、ある日、天から(?)「シンプル・イズ・ベスト、ライト(軽量コーン)・イズ・ベスト」という声が聞こえてきたのでやめた。
ツインドライブは本来、同じユニットにすべきだろうが、同じFEシリーズで大きくは違わないし、もう持っているので、もったいない。E狽フエッジがボロになったらそろえましょう! (こういう意見もある。)
ツィーターはモアイをお手本にしてFT96Hがいいだろう。長年憧れていた、ホーンツィーターである。
たまに行く渋谷・ライオンのツィーターもホーンである・・・。
あと、低音だが、リスニングルームは半地下室で4方がコンクリの壁(もちろんその内側に内装の壁がある)、その外は土であり、低音のロスが少ない。
おかげでFE168E狽P本の「とりあえずバスレフ」でもちゃんと低いほうまで伸びた低音が聞けるという恵まれた環境である。
ただし、今のシステムでは、中低域の厚みが不足しているらしく、ピッチが上がった音になってしまう。明るく、華やかで、情報量も多いが、ピッチが高い感じ。
これをぜひツインドライブで解消したいものだ。で、バスレフの設計は、「低域ダラ下がりの半端なバスレフ」が狙いだ。
バスレフでむりに低音を出そうとすると中低域が下がるらしい。無理をさせないことだ。シンプル・イズ・ベスト・・・。
ツィーターの変更
ある日、渋谷ライオンのリクエストタイムで、珍しく録音の良い音源の「シェエラザード」がかかった。
ライオンの音響では高域がつぶれて伸びないと思っていたが、ちゃんと高域も伸びて聞こえた。古い音源のせいだったのか・・・。
たまたまかもしれないがフルトヴェングラーやワルターなど、古い録音のものが多くかかっていたので・・。
あまり古いものばかり聞いて、「古色蒼然だなあ」と思ったが、あらためて古色蒼然を辞書で引くと「古めかしく趣のあるさま」だ。これはいい。今度作るスピーカーのコンセプトは「古色蒼然」にしよう。天国的+古色蒼然だあ!
なぜ古色蒼然が良いかというと、今の、最新のオーディオ界はなんとなく信用できない面を感じるからだ。
何とは無しに、お金をかければかけるほど良いという雰囲気がにおう。
お金の無い分、自分の耳を信じ、手間と工夫で音を追求していたあのころのオーディオ・ホビーはどこへ行った?
そこで、ツィーターは新品のFT96Hを買うのはやめて、手持ちのパイオニアPT−150(ベリリウムダイアフラムのドームツィーター)を使うことにした。これも長岡鉄男のレビューで「レンジは上下とも特に広く、高能率・大入力、見かけは安っぽいが中身は一級品である」と言われた品物だ。古いが音もちゃんと出てるし、自分の耳を信じよう。使わなければもったいない。
図面は画像のとおりだが、問題はツィーターの扱いだ。PT−150は奥行きが7センチくらいあるし、バッフル取り付け用の”壷”も無くなっているので、けっこう大きなバックキャビティを作る必要がある。そうなると天板に付けるフルレンジをやや後ろよりにつけなければならない。
これはフルレンジユニット同士の位置が離れてしまい、良くないと思う。試行錯誤した設計では、ツィーターを前面用フルレンジの下に配置しようかとか、いろいろ検討したが、どうも座りが悪いのであきらめた。
まあ、長岡著書には「最近の録音は音源に近すぎる傾向があるので、再生時に距離をとる必要がある。所詮にせものだが・・」とあるが、この「距離をとる」意味では多少、後ろ寄りに配置するのも1つの効果があるかも知れん。
そのかわり、PT−150の表面積が狭いのを利用して、出来るだけ前面ユニットは近接配置をすることにした。これで前面ユニットに関しては点音源に近くなる。
近接配置音源を生かすために、前面からは余計な音を出したくない。バスレフポートは後ろに配置するリアダクト方式にしよう。
もうひとつ、ツィーターとフルレンジのボイスコイル位置をそろえるリニアフェイズ配置だが、今回は面倒なのでやめた。
代わりにツィーターを中心線ではなく、外側に配置し、わずかだがボイスコイル位置を遠ざける事で我慢する。
なに、その気になれば後から前面に追加バッフルをつけることでいくらでもリニアフェイズ配置は可能になる。それより、今回は前面バッフルをフラットにする方を取る事にした。
制作
前回、本格的なシステムを製作したのは大学2年の頃だ。(UP−203SとPT−150のバスレフ・2ウェイで、ツィーターをバッフルより後退させ、裏板を傾斜させたり、三菱2S−305をまねてバッフル両サイドにテーバーをつけた凝ったものだった。)
その頃の私は、体力とヒマと行動力だけは十分あった。夏休みに自宅からかなり離れた公園で製作した。
子供にからかわれたり、近所に住む元大工さんのご隠居に手伝ってもらったりして、ようやく完成したのだ。
しかし、もはやわたしも中年まっしぐら。体力・根気・自分の時間は限られている。
新潟のストーリオさんに木材カットを発注、早く納品されたので、自宅でそれぞれの板に寸法線をひいたり、ツィーター用のキャビティを作ったりの下ごしらえをして当日(連休の中の1日)に臨んだ。
←バッフルは”1枚”なので、端材でも補強しました。バッフルリングを買うお金は無いので、開口部周辺は裏側から硬化型接着剤で補強。
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当日は「製作所」に車で材料を運び、午前9時から始めた。
久しぶりの工作で合板の切断面はボンドをよく吸い込むことがわかったので、ボンドは2度塗りだ。
なるべく釘を使わずに製作し、午後1時には左右とも組立てが終わり、重石をのせて固定する工程へ入った。
本来、24時間固定したいが、1日で塗装まで終わらせるため、固定時間は4時間しか取らない予定。
その間に昼食を取り、塗料を購入し、床屋へ行ったりしたが、疲労を異常に強く感じた。あらためてスピーカー工作が肉体労働だったのを思い出した。
ずっと車で移動したため準備運動不足でもあったと思ったが後の祭り。翌日から激しい筋肉痛に悩まされることになる。
午後5時に作業を再開し、ハコを叩いてみたが、良い響きだった。
これで十分いけそうだ。補強していない下部のリアバッフルは後日、外側から補強する予定である。
カンナで余分なでこぼこを削り、各コーナーの面取りをする。
仕上げの塗装前に木工用パテを木口に薄く塗ったのは効果的だった。紙やすりをわずかに掛けただけで、合板表面のケバケバが取れたのも良かった。
塗料はドイトで購入した水性つや消しブラックだ。できれば前面だけでも2度塗りしたかったが、時間切れとなってしまった。
水性塗料とはいえ、乾くまではニオイが強いので、自宅に持ち込むのは3日後の予定だ・・・。“家庭円満の事情”により、こんなところには時間を掛けざるを得ない。
だいぶ出来てきた状態。ガランドーになる下半分は補強が少なかったか?補強しすぎると、容積が減るのでね・・。底板は下にもう1枚貼るので。2重になる。(2011年5月)