ここではカメラ眼について脊椎動物と無脊椎動物の眼の発生プロセスの違いについて見て見ましょう。無脊椎動物の代表としてイカやタコなどの頭足類について最初に紹介します。
@無脊椎動物:頭足類を例に
頭足類では、まずa)体表上皮が陥没します。次にb)陥没した上皮が袋状になります、c)上皮の下に袋が完全に閉じた眼胞ができ、内面に視細胞を含む網膜ができます。d)続いて眼胞状の上皮が再度陥没し、眼胞を覆います。また眼胞は独立して眼球となります。e)このとき、眼球の上にある上皮は閉じる場合と開いたままの2つのケースが生じます。f)眼球前面と陥入した上皮が融合して膨らみ、水晶体ができます。虹彩は後で陥入した上皮から形成されます。このように、頭足類の眼は体表皮から作られている事、そのために網膜は体表の上皮が表裏そのままの向きでできあがっている事になります。従って網膜下の基底膜側から視神経が出る事ができ、レンズを通った光はそのまま網膜の体表側で受光され、網膜の反対側から視神経が出て視葉に接続できるため盲点はありません。また網膜自体は、上皮細胞からできていますのでここで複雑な視覚情報処理を行うのではなく、眼のすぐ後ろに位置し、脳に由来する視葉と接続する事で、視覚情報処理が開始されます。視葉には双極細胞、水平細胞やアマクリン細胞からなる神経網があり脳神経節に接続されています。
また、e)で上皮の陥入口が閉じると角膜や前房ができ、タコやヤリイカのように閉眼となり、閉じないと水晶体が直接海水に接するスルメイカのような開眼タイプの眼となります。また水晶体が2枚のレンズでできている事もf)から理解できます。なおアワビは上記のb)の袋状の眼ですが、オウムガイでは完全なピンホール眼となります。昆虫の複眼でも成虫原基の一部が陥入して溝(形態形成溝)を作り、細胞が分化してゆきますが、個眼1つ1つが一定距離を置いて作られる事が異なるだけで、上皮細胞、基底膜の関係は変わりません。網膜の下に基底膜が位置しているのです。但し、昆虫の場合、複眼1つに対して視葉が1つ存在し、2つの視葉が前大脳に接続しています。
A無脊椎動物:複眼
複眼の形成についてはモデル生物であるショウジョウバエについてよく調べられています。ここではショウジョウバエを例に、複眼の形成過程を説明します。ショウジョウバエの複眼は約800個の個眼が規則正しく配列しており、この個眼は8つの視細胞から構成されています。
一般に昆虫の複眼は、胚発生中に上皮の一部が陥入して形成される、眼・触角原基から発生します。この原基は1層の上皮細胞からできています。
ショウジョウバエでは3齢幼虫期に、この原基を囲むようにに形態形成溝とよばれる溝が出現し、この溝が眼原基の後端から前方に向かって移動します。形態形成溝の前方では上皮細胞はランダムに配列していますが、この溝が通過するとともに、個眼のもとになるR8と4個の細胞からなる細胞区画(クラスター)が形成されます。 R8の視細胞を形成する遺伝子は形態形成溝の前方では多数の細胞に発現していますが、この溝の2〜3列後ろのクラスターでは将来R8の視細胞となる細胞でのみ発現するようになります。またR8となる細胞は形態形成溝中の多数の細胞の中から一定間隔で分布するように選び出されます。このようにしてまずクラスターの中でR8細胞が作られます。次にこのR8細胞の左右に隣接する細胞がR2,R5細胞として作られます。またこの後、R3,R4が作られてゆきます。この後、このクラスターに接する未分化細胞からR1,R6細胞が誘導され、最後にR8,R1,R6細胞で囲まれた細胞がR7細胞として分化する事で個眼の視細胞が形成されます。
この8つの個眼視細胞が分化した後、4つの晶子体(水晶体)細胞が視細胞を囲むように正方形状に形成され、その後、その外側に色素細胞が形成されます。この色素細胞は身体の皮膚を形成する真皮細胞と相同で濃厚な色素顆粒を含んでいます。また色素細胞は2個の細胞からなる虹彩色素細胞と、昆虫の種類によっても変わりますが、通常は12個の網膜色素細胞からなります(ここを参照)
ショウジョウバエのような正晶子体眼では完全変態類では後胚子発育期間に4個の晶子体細胞から円錐晶体が分泌形成され、その後、角膜レンズも同時期に、晶子体細胞、色素細胞から分泌形成されます。但し完全な角膜レンズが完成するのは羽化後になり、羽化後数日かかる場合もあります。完成した複眼の個眼では、虹彩色素細胞は晶子体を両側から包み、網膜色素細胞は隣接個眼間に配列し、いずれの色素細胞も角膜レンズに一端を接しています。また色素顆粒は数種ある事が知られていますが、オモクロームが最も多く見いだされています。