付録@:MIYUのストレッチ奮戦記

付録A:楽しいレッスンウェア講座



バレエを始めよう! 

 一般的にバレエは女の子の(しかもお金持ちの)お稽古事であり、小さい時からやっていないとできない、というイメージがあります。しかしそれはもう過去のこと。今バレエはどんどんと広く門戸を広げ、中高年であろうと、男性であろうと、そんなにお金や暇がなかろうと、好きでやりたいと思う人なら誰でもいつでも始められるようになっています。
 何才まで生きるかだけでなく、元気で長生きすることが目標となっている今日この頃。バレエはそんな現代人にぴったりなのです。なぜならばバレエは適度に楽しめば、身体にとってのみならず心にとってもいいものだからです。
 運動は何であれ、正しい方法で行えば身体にとってプラスに働きますが、バレエが特に優れているのは、身体のコアが鍛えられ、姿勢がよくなることです。また柔軟性も徐々にではありますが、身についてきます。余計な脂肪がとれて筋力が鍛えられればスタイルもよくなりますね。そういった身体にいいことがいっぱい起こってくると、、血液等の循環もよくなって、新陳代謝の活発なバランスのとれた体になっていきます。成人病予防・寝たきり予防としても実に素晴らしいものです。
 またバレエはそういったエクササイズとしての優れた面だけでなく、精神面でももよい刺激を与えてくれます。バレエは総合芸術であり、ドラマや美術や音楽とも深い関係があるのです。
 
 レッスン中はたいてい美しい音楽が流され、スタジオによってはピアニストが伴奏をしてくれるところもあります。音楽もみんながよく知っているポピュラー音楽からバレエ作品の中の曲まで様々ですが、音楽を聴けばその曲が表現しているドラマが思い出されることもありますね。もし知らない曲だとしても、何かしら人の情緒を揺さぶるようなきれいな曲が多いのです。
 
 また、バレエではレッスンウェアも素敵なものがいっぱいです。美しい音楽にのって、素敵なレッスンウェアを着て、素敵なドラマや光景を思い浮かべながら楽しくレッスンすれば、身も心もすっかりリフレッシュします。
 やってみたいな、と少しでも思った方は、迷わず始めましょう!


具体的にはどうやって?

バレエをする場所 

@ 個人のバレエ教室
 まず思い浮かぶのは、個人が開いている町のバレエ教室です。個人の教室ではたいてい子供たちのレッスンがメインですが、朝やお昼など子供たちが通えない時間帯に大人のクラスを設けているところが多いです。

 比較的少人数であることが多いので、丁寧に指導してもらえるというメリットがあります。但し、個人経営のところは良くも悪くも先生の個性が出ます。ただ近いとか安いとかいう条件面だけでなく、自分と先生の相性、どういう人たちが通っているのか(本当の初心者ばかりとか、上級者ばかりという事もあります)なども考えて、気持ち良く通えるところを選ぶとよいと思います。
A カルチャーセンター 
 三ヶ月、または六ヶ月を一単位として受け付けています。場所的には個人の教室よりも少し遠めになることがほとんどでしょうが、カルチャーならでのメリットもたくさんあります。
 
 まず、講師が一流であることが多いです。教え方が上手な先生、お手本を見ているだけでため息が出るほど美しい先生等、カルチャーセンターの規模や実力によっても違いますが、一般的に人材がそろっています。定員になったら締め切るので、人数が多すぎて困る、という事にもなりません。但し定員があるため、空きがでるまで待たなければならない場合もあります。
B スポーツクラブ
 一番のメリットは気軽に始められる事です。プログラムの一つとしてレッスンがあり、会費さえ払っていれば、思い立った時にいつでも、そして何度レッスンを受けてもOKということが多いです。(但し時々、有料クラスあり)
 その気軽さのゆえに人数が多くなりすぎることも多々あります。そうなると先生の目が行き届かないことも。但し、楽しく雰囲気を味わいたいだけという人も多く、そういう人にとっては個々に注意を受けずに気楽にレッスンできるのはかえって好都合なようですが。
 
 スポーツクラブではバレエも数多いプログラムのうちの一つですから、ちゃんと習いたいという人には物足りないとも言えます。クラブ側もほんの入り口としてお使いください、という姿勢をはっきりと打ち出していたりします。もっとやりたいという会員のために有料教室を開いている場合もありますが、やはりその場合でも、レッスンを積み重ねて基礎をきちんと身につけるというよりは、楽しくやりましょう、という趣旨である事が多いと思います。
 
 またスポーツクラブのレッスンはたいていの場合他のプログラムと同じく60分です。60分だとバーレッスンで時間を使ってしまい、センターの時間が短くなってしまいますから、そういう意味でもしっかりやりたい人には物足りないと言えます。
 
 先生方はカルチャーセンターに比べて若手の方が多く、中にはプロのダンサーの方もいらっしゃいますが、バレエの他にピラティスやヨガも教える器用なインストラクター型の方が多いです。
C オープンクラス系
 各バレエ団が一般の大人のために設けているクラスはほとんどがオープンクラスです。一回毎に払ったり、またはチケットを買って都合のよい時にレッスンを受けることができます。(チケットは六週間とか三ヶ月とかの有効期限があります。)

 こういうスタジオは賑やかな場所にあることが多く、人がたくさん集まるので、細かくレベル分けがされており、自分に合ったクラスを選んで受講することができるというメリットがあります。
 
 また、バレエ団系などはそのバレエ団の現役ダンサーが教えていたりします。外から講師を呼んでいる場合も、バレエ団のプリマやソリストなど、名の知れた方が多いです。そういう先生方の素晴らしいお手本を見ながらレッスンできるのは本当に幸せな事です。
 
 ただ人気のある先生のクラスは人がたくさん集まってしまいますので、よほど広いスタジオでもなければ混雑するのは避けられません。また、チケット制なのは気軽なのですが、トータルすると他に比べてやや高いようにも思います。もちろん、先生の質や生ピアノの伴奏があったりする事も考えると、それでもリーズナブルな事がほどんどだと思いますが。

レッスン費用

 個人のスタジオだと、お月謝制が多く、週1回で5,000円〜、週2回で8,000〜ぐらいです。チケット制のところもあり、一回が1,500〜ぐらいでしょうか。
 オープンクラス系だと一回2,000円〜ぐらい(それより高い事の方が多い)で、チケットを買えば若干安くなります。しかしそれもスタジオによってまちまちですから、行こうと思うところがあれば、ホームページや電話での問い合わせで個々に確認して下さい。(その他、たいていのところは5000円〜5,0000円ぐらいの入会金が必要となります。)

服装

 一般的には大人のクラスには服装の指定はありません。スポーツクラブなどでは、エアロビクスやヨガと同じかっこうでレッスンに出ている人がたくさんいます。もちろんそれでもかまわないのですが、余裕のあるTシャツやパンツでは身体のラインが隠れてしまい、正しい体の使い方をしているかどうか、先生からも確認できませんし、自分でもわかりません。
 上手になろうと思ったら、やはりタイツにレオタード+バレエシューズといったバレエウェアを着るのがいいと思います。(男性はトレパンとTシャツで十分です。)
 
 それにバレエウェアは素敵なものが多く、選ぶのがとても楽しいです。タイツにレオタードだけではちょっと(かなり…)恥ずかしくても、その上からショートパンツやスカート類をはけば何とかかっこうもつきます。いや、それどころかそれらを選び、身につける楽しさにはまってしまうのです。だって、中高年がショートパンツやひらひらのミニスカートをはく場所など普通はありませんものね。
 
 スタジオは妖精、またはプリンセス気分で踊る場所。服装だってそれらを思わせるきれいな可愛いものを着てOKです。(但しそのまま公道へは出ないようにしましょう。)
※ 「どんなものを着ればいいの?」「どこで買えばいいの?」と迷っている方も多いかと思いますので、「レッスンウェアだけ一人前」の私MIYUが初心者向けガイドを作りました。楽しいレッスンウェア講座です。皆様の参考になれば幸いです。


レッスンの流れ

 まずは簡単なストレッチをして、身体を温めます。それからバーレッスンに入ります。レッスンの順番はだいたい決まっており、身体を暖めながらより大きな動きへと移っていきます。このバーレッスンの間に、日常の動きからバレエの動きへと自分の身体をしっかり適応させていきます。
 
 そして一通りバーレッスンが終わったら、もう一度ストレッチの時間を少しとって、センターレッスンへと移ります。センターレッスンではバーは片付けてしまいますから、自分の身体だけが頼りです。
 このセンターレッスンもだいたい順番は決まっています。やはり段々と身体を慣らしながら、より速く大きな動きへと移っていきます。そして最後にレヴェランス(ごあいさつ)をして終了です。
 バーでもセンターでもまず先生がお手本を見せてくれます。その時に「ドゥヴァンへタンデュ、外どり1回、中2回」とか、「トンベ・パ・ドブレ、ピルエット。バランセ、バランセ、トンベ、パ・ドブレ、グリッサード、グラン・ジュテ」と一見チンプンカンプンな事を説明してくれます。実はバレエ用語はフランス語なのです。
 
 でも心配はご無用。何もレッスン全体がフランス語というわけではありません。バレエにはパという決まった動きがあり、先生はパの名前で指示を出すのです。別にパの名前を知らなくてもバレエができないわけではないですが、知っておいた方があわてなくていいかもしれません。バレエ用語を写真付きで解説した本も出ていますから、それらで予習しておくのもいいですね。もちろん、やっていればそのうち覚えていくのですが。あと、足にも手にも決まったポジションがあります。それらもバレエ用語集に出ています。

太って硬い身体、衰え鈍った運動神経

 何だかさえないタイトルですが、大人(特に中高年)のバレエを語る場合、避けては通れないテーマです。まだ身体が柔らかく、可愛らしい子供たちとは違い、これらの要素が大人がバレエを始めるに際して躊躇してしまう要因であると思います。
 まずは太っている、ということ。いいんです、太っていても。だって趣味でやるんだから。お金をいただいて人様に見ていただくわけではないんだから。それに太っているといっても、いろんな太り方がありますからね。もともと骨が大きい人もいれば、筋肉がモリモリついている人もいます。そういう人は全く問題はないです。
 脂肪が多くてぶよぶよしているのはバレエにも健康にも良くないですが、バレエをやっているうちに脂肪は段々と落ちていき、スリムになっていきます。つまりバレエを続けているうちにスリム化していくので、最初は太っていても問題はないのです。服装だってTシャツとトレパンでいいんですから。
 
 確かに体重が重いとバランスもとりにくいし、ジャンプも大変だけど、自分でそれを意識すればダイエットにも真剣になれるというもの。簡単にはカロリーの高いものには手が出なくなるはずです。但しこれが守れないとやっぱりやせるところまではいきません。それでもバレエをしていれば、より一層太るのは避けられます。
 私はバレエを始めた頃はひどい中年太りでしたが、半年ほどでやせ始め、3年ほどで体重が12、3キロほど減りました。本人の意識としてはなかなか脂肪が減らない事にいつも欲求不満状態でしたが、頑固に思われた脂肪も着実に少しずつ減り続けてきたのです。レッスンを続けてきて本当によかった。これからもダンサー体型目指してがんばろう、と思います。(例え長い道のりであろうとも…)
 次は身体が硬いです。これも本当に困ったもの。だって高く上がった足、柔らかい優雅な上体の動きがバレエの魅力ですものね。中年になると、誰でも身体がさびついてきますから、あせらずストレッチをして少しでも柔らかくしていきましょう。 
※ 一般的にバレエは身体が柔らかい方がいいと言われていますが、柔らかい人にもそれなりに悩みがあります。軸が見つかりにくく、グニャグニャしてしまうのです。そういう方はピラティスなどでインナーマッスルを鍛えて、体をコントロールできるようになるといいですね。
 とはいえ、身体がカチンカチンの人にとってはストレッチそのものが予想外に大変なのです。どこもここも硬ければ、身体も緊張しやすく、上手に少しずつ緩めていかないと、緊張が緊張を呼び、ますますカチンカチンと固まってストレッチ自体ができなくなってしまうのです。それでもなお根性でがんばると、プツン…と音がして肉離れになることもあります。軽い肉離れでも3〜6ヶ月はストレッチができなくなります。そしてこれを繰り返すうちにますます身体は硬くなっていくのです。(恐怖のBadスパイラル) 
 身体の硬い人ほどストレッチやマッサージなどのケアが必要となります。その際、専門家の助けを借りて、自分のどこが硬いのか(硬い場所は人それぞれです)、どういう風に硬いのか(硬さの原因もいろいろです。)どうやってケアすればいいのかを助言してもらうと、無駄に身体をいためる事もなく前へ進んでいけると思います。
 というのも、もともと柔軟性のある人は指導を受けてストレッチに励むだけでもよいのですが、身体が固まってしまっている人(特に筋肉がこぶのように短縮している人)にとってはストレッチの指導だけでは十分ではなく、治療+ストレッチの指導+筋肉の使い方の指導が必要なのです。バレエに詳しい治療の専門家の先生に全部まとめて診ていただき、指導を受ける事ができれば一番よいですね。
 ※ 身体の硬さに悩んでおられる方の参考になれば、とMIYUのストレッチ奮戦記をまとめました。正しいストレッチで少しでも柔らかい身体を手にいれましょう!


 そして最後は衰え鈍った運動神経です。年がいけば運動神経だって衰えて当然です。バレエのレッスンもやる内容はだいたい決まっているのですが、先生方は生徒たちを鍛えるためにか、毎回のように少しずつ内容を変えてきます。

 年配者はこれについていけないことが多いのです。バーレッスンだと何とか前の上手な人のをカンニングして乗り切ることもできるのですが、センターになったならもうどうにもならない事もしばしばです。先生が説明している時は「ふん、ふん、あれね。」とわかっているつもりであっても、実際やり始めると、「何だったっけ?」と突然頭が真っ白になってしまい、どんどんと動きが遅れて、最後はフリーズしてしまうのです。
 それがイヤでセンターが嫌いになる人も多いのですが、要は慣れの問題。大丈夫です、少しずつですが、慣れていきます。人の邪魔になるようなことさえなければ、問題はありませんから、上手な人を参考にしながら根気よくがんばりましょう。別に特に運動神経がよくなくても大丈夫です。むしろ必要なのは自分の無様さに神経質にならないずぶとさかもしれません。努力していればそのうち何とかなります。
 
 私の経験ではとても簡単な動きの組み合わせ(アンシェヌマンといいます)ですら、センターでやっと少しできるようになったのは、一年半ぐらい経った頃だったと思います。レッスンの最後を飾るグラン・ワルツの類に至っては、3年近く経ってやっと反応できるようになりました。(できるようになるまでは、みんながちゃんと踊っているのに、その横で私だけ斜めに走るのみ、という事がよくありました。恥ずかしかったけど、耐えました。人間には鈍さ、しぶとさも必要なのです。)



憧れのトゥシューズ

 バレエと言えばトゥシューズを思い浮かべますが、実はバレエシューズが基本です。トゥシューズが使われるようになったのは19世紀ぐらいからであり、妖精の軽やかな動きを表現する必要性から考案されたもののようです。今も男性はトゥシューズは使いません。(但し例外はあり)
 さて、人にもよりますが、小さい頃から習っている子供たちは10才ぐらいからはき始めることが多いようです。しかし大人から始めた人は基本的にはトゥシューズは使いません。ちょっとがっかりのような気もしますが、実際トゥシューズという靴はかなり足に負担になるので、小さい頃から訓練を積み重ねてでもいなければはきこなす事は難しいらしいです。(但し、中・上級者クラスでは、センターはトウシューズを使用する所もあります。)
 しかし、失望することはありません。そんな大人たちにもチャンスは与えられているのです。普通のクラスはバレエシューズですが、大人のためのポワントクラスを設けているスタジオもあるのです。(どうもバレエ界ではトゥシューズの事をポワントというらしいです。)いくら初心者向けのクラスでも最低限の身体の引き上げ等は必要とされるので、早いところでも2年の経験を最低条件としています。平均で3年、多く要求するところだと5、6年以上です。
 2年程度ではかせてくれるところは多分トゥシューズをはいて立つだけ、もしくは簡単な動きを少しするだけなのだと思います。
 しかしそれですらもなかなかうまくいかないものです。いくら品質のよいトゥパッドができているとはいえ、爪立ちするのは大変な負担です。また、柔軟性と筋力、特に足首が柔らかく甲がのびるようでないと、なかなかきちんとポワントにのる事はできません。
 また自分にあうトゥシューズを見つけるのも至難の技です。合わないトゥシューズで無理に立とうとすると、身体をいためてしまいます。
 はいて立つだけの訓練であっても、実際にはいてみると、トゥシューズで踊るのがいかに大変な事かがわかります。現実がわかれば無理な事は自然に望まなくなるはず。それに自分のトゥシューズを持つ事ができ、実際にそれをはいてスタジオで指導を受ければ、それなりに雰囲気も味わえます。
 もちろん、そこから先へ進んでトゥシューズでヴァリエーション(ヒロインなどのソロの踊りのことです)を踊る人も出てくるでしょうが、それにはかなり個人差があると思います。
 足首の柔軟性など物理的な条件が整っていないのに無理をすると、姿勢が崩れてコケてしまったり、足が曲がったまま踊るくせがついてしまいます。実際のところ、柔軟性+筋力という条件が整わない限り、大人から始めた人にとっては、やはりトゥシューズは高いハードルです。
 ポワントにのれない人はまず足首を柔らかくしてきちんと甲を伸ばせるようにする必要があります。足首のケアのみでポワントにのれるようになる人はまだいいのですが、背中や腰が硬く、それが脚や足首まで伝わってきている人は、背中や腰のケアをする必要がありますので、きちんと立てるようになるまでかなり時間がかかります。道は遠いですが、焦らず無理をせず、根気よくやりましょう。
※ 身体が柔らかい人の場合、ポワントにのるのは何の苦労もないようです。ところがそれをキープするのが至難の業になってしまいます。足首も腰や背中もグニャグニャ、グラグラになってしまうのです。こういう方は筋力をつけてそれをコントロールするトレーニングが必要になります。
 身体の硬い人間からすれば柔らかければ柔らかいほどよいようにも思えますが、柔らかすぎる方もそれなりに苦労しておられます。やっぱりしなやかで強靭が一番ですね。
 なお、トゥシューズをはくには、いくら身長があっても体重は50キロ以下であることが望ましく、60キロを超えたらアウト、と聞いたことがあります。絶対的な数字ではないと思いますが、これを聞くとダイエットに真剣になれるかもしれませんね。
 有名なロシアのワガノワ・バレエ・アカデミーでは、身長が168センチあっても体重が50キロを超えたら退学なのだそうです。ちなみに日本の大人ポワント・クラスでは体重をきかれる事はありません。ご心配なく。
 前述の通り、ポワントが普及したのは19世紀半ば以降です。より一層の美をめざすための道具であって、バレエにとって必須のものではないのです。はきこなすのはプロでも難しいようで、ましてや大人から始めた場合はあきらめる必要もないけれど、絶対に無理はやめましょう。トゥシューズをはかなくたって、バレエシューズで十分美しく踊ることができるのですから。



発表会
 個人の教室ならばたいていの所は1年または2年に一回ぐらいの割合で発表会を行っているようです。しかし、これらの教室ではやはり子供たちが中心となります。大人は民族舞踊を踊ることが多く、きれいなチュチュを着て妖精を夢見ているとあてがはずれたりします。
 大人のためのスタジオはオープンスタジオが多く、発表会があるところは少ないです。それでも中にはホールを借りてやる所、スタジオの中で衣装だけつけてやるところなどがあったりします。
 大人の場合、いずれのスタジオでも発表会の参加は強制ではなく、希望者のみがほとんどです。費用はスタジオによって違うと思いますが、衣装代も込みで6、7万円なら安いほうのようです。大きなホールを借りて衣装を新調する場合は、○十万円と金額がどんどんはねあがっていくようです。(豪華な衣装を作ればそれだけ高くなります。)もし男性とパ・ド・ドゥ(二人で踊る舞踏形式です。)を踊るような事があれば、別途男性への謝礼が必要です。

 発表会に参加した事がある人に聞くと、大変ではあったけれど、充実しており、本当に良い経験だった、と皆さんおっしゃいます。そして発表会を通じてバレエも上手になるらしいです。やっぱりどこかで本気になる事が上達の秘訣なんですね。機会があったなら、ぜひ参加してみましょう。


注意点

 身体にも心にもよく、素晴らしい趣味であるバレエ。しかしながら、薬も量を間違えると身体に害をなすのと同様、やり過ぎは禁物です。もともとバレエとは美しく優雅なポーズを競う貴族の遊びだったようですが、自分を優雅に美しく見せたいいう要求は人類普遍の要求ですね。
 バレエは極限まで人間の動きの美しさを追及したものでもありますから、はまり出したら徹底的にはまります。しかし真剣になると、非情な面も見えてきます。バレエという芸術は実に多くを要求する上に人を選ぶのです。
 バレエのパ(動き)は股関節が180度開くことを前提として作られています。ですから、厳密に言えば180度開かなければバレエにはならない、という事になります。しかし、実際問題として、股関節が180度開くなどということはあまりないらしいです。可動域が多い人でも片側70度ぐらいという事がほとんどで、残りは膝や足を捻って180度開くようにしているらしいです。
 
 そんな風ですから、普通の人間にとっては180度の開脚なんてとても無理。しかも日本人は内脚が多いらしく、足を180度外側へ開く(外旋=アンデオール)なんて至難の業。そんな事にこだわって無理をしてしまうと、歩くために大事な場所である股関節の靭帯をのばしたりして、高齢になった時、歩行が困難になりかねません。
 
 このアンデオールだけでなく、バレエは様々な条件を要求します。細く長い首、手足。小さな顔。柔軟性、美貌、音楽性、表現力。「そんなの、あるわけないじゃん。」と笑ってられる間はいいのですが、熱心にやればやるほど、真剣にそれらが気になり、ひどい場合は拒食症、うつ病になったりしてしまう事もあるようです。
 そういう時には、自分が何のためにバレエをやっているのか、考え直すといいですね。自分の身体のために、自分の精神をいい状態に保つためにやっているはずです。それなのに、一体何を悩んでいるのか。
 
 バレエは奥が深く、底知れぬ魅力を備えた芸術です。プロのバレリーナたちは自分をギリギリまで追い込みながらバレエという終わりのない道を歩いて行きます。しかし趣味でやるならば、完璧なんて必要ないのです。内脚であろうが、ペンギン体系であろうが、カチンカチンの身体を持っていようが、「それがどうした!」です。自分なりに少しでも進歩があればいいではないですか。好きなバレエの道を歩いているだけで幸せではないですか。素晴らしい芸術は自分に期待しないで、プロの舞台を観に行きましょう。
 素晴らしく魅力的だけれども、人に多くを要求する過酷な怪物、バレエ。たとえどんなに熱心になっても、引っ張り回されるのではなく、うまくこの怪物を自分のためになるように操縦してください。そうすればバレエはきっと愛情に応えて素晴らしい贈り物をしてくれることでしょう。



バレエの裾野が広がると…

 2002年には日本と韓国の共催でサッカーのワールドカップが開かれました。この頃には中田英寿氏という大スターも出現し、イタリアのセリエA で活躍して、日本には大サッカーブームがやって来ました。しかし2006年のドイツ・ワールドカップで日本代表は言い訳のしようもない大惨敗をし、あえなくブームは終わってしまいました。
 サッカー強国として有名なブラジルではたとえセレソン(ブラジルのサッカー代表の名称)が大惨敗することがあっても、決してサッカーが下火になったりはしません。そうなったらなったで、代表選手に卵やトマトをぶつけるなど、人々は大興奮するのです。そして代表の方もやがて不死鳥のように甦り、素晴らしいプレーで人々を魅了します。何があっても、サッカーは人々の中心です。彼らにとって、サッカーは文化であり、宗教ですらあるのです。そしてブラジルからは尽きることもなく、素晴らしい天賦の才を備えた人材が次々と出現します。
 やはり広い裾野があって、文化と言えるところまでいかないと、人材も出ず、本当の意味での発展は望めないのです。日本において、バレエはまだとうていそこまでは至っていません。それでも私が子供だった頃に比べると、信じられないぐらい門戸は広く開放されています。当時は大人がバレエを始めるなんて、お笑いどころか、誰も考えもしなかったのです。それなのに、中高年となった私は今このようなものを書いているんですから、時代が変わったんだなぁ、と感無量です。
 そして悪条件の人間も含めてみんなが気軽に参加できると言う事は、とても大切な事なのです。それであってこそ裾野は広がっていくからです。自分自身はたいした事はできなくても、素晴らしい芸術であるバレエを観に喜んで劇場へ行きますし、子供や孫を連れても行くでしょうし、彼らにバレエを勧めたりもするでしょう。また家の中にバレエグッズがあれば、子供や孫も自然にそれらに触れて育ちます。こうして裾野はじわじわと広がって行くのです。
 そして裾野が広がり、文化と言えるレベルになったなら、すぐれた人材も今とは比較にならないぐらい出て来るでしょう。熊川哲也氏のように、たくさんの人を巻き込む力を持つ優れた人材がコンスタントに出れば、バレエも産業としても成り立つようになり、男子が一生の仕事として選ぶのにも躊躇がなくなります。そうなれば、フランス、ロシアに引き続き、今度は日本でバレエが大きく発展するなんて素晴らしい事が起きるかもしれない…。
 段々と妄想がふくらんでしまいましたが、これを単なる妄想で終わらせるか実現するかは我々次第。そう、実現に向けて、少しでもバレエが好きな人はどんどんと劇場へ行きましょう。やってみてもいいな、と思う人はたとえバレエ向きの条件が整わなくても、気にせずレッスンに参加してみましょう。そうなって初めて文化と呼べるものに近づいて行くのです。
 そしてやがては天才振付家が誕生して、素晴らしいダンサーたちが拍手喝采の新作を上演し、それが世界中にどんどんと広がって行く…想像するだけで楽しいではありませんか。
MIYU (2009年3月)




   このページの素敵なイラストは、YAKOさんのHPからいただいてきました。(閉鎖されました。)

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