童話 シャルル・ペロー/作 (1695、または1697年)
バレエ マリウス・プティパ/作 (1890年)
アニメ映画 ウォルト・ディズニー/作 (1959年)


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 昔々のこと。やっとのことで跡継ぎのお姫さまに恵まれたフロレスタン王は、姫の健やかな成長を見守ってもらおうと、国中の妖精を洗礼式に招待しました。そしてお姫さまはオーロラ姫と名づけられて、お祝いに妖精たちから様々な美徳を贈られました。しかし式典長のミスでもっとも性質の悪い妖精カラボスが招待客のリストからもれていたのです。カラボスはめでたい祝いの場に乱入し、この無礼の仕返しをしてやる、とオーロラ姫に呪いをかけました。美しく成長した姫は糸紡ぎの針に指を刺されて死ぬというのです。しかしまだ贈り物をしていなかったリラの精がカラボスの呪いを薄め、姫は100年の眠りについた後、王子の訪れによって目を覚ますと救いの手を差し伸べました。
 さて、美しく成長し16才の誕生日を迎えたオーロラには求婚者も現れ、城はめでたい雰囲気に包まれました。そこへ老婆に変装したカラボスが現れて姫に花束を渡しましたが、その中に針が隠されており、オーロラ姫は指を刺されて倒れてしまいました。嘆き悲しむ王や王妃の前にリラの精が現れ、王や王妃を始め、人間から動物、調度品に至るまですべてをオーロラ姫とともに眠らせてしまいました。そして城はツタやいばらに覆われ、誰にも邪魔されることなく100年の眠りについたのでした。
 そして100年の時がたちました。狩に来ていたデジレ王子はなかなかよい伴侶に恵まれないことに頭を悩ませていました。そこへ王子の名付け親でもあるリラの精が現れてオーロラ姫の幻影を見せると、デジレ王子はすっかり姫の虜となってしまいました。リラの精がデジレ王子を眠れる城へと連れて行くと、城を覆っていたツタやいばらはデジレ王子のために道を開けました。そしてカラボスとその一味を追い払ったデジレ王子は、眠っている姫を探しだし、100年の眠りを覚ます口づけをしました。すると、オーロラ姫とともに城中のすべてが目を覚ましました。そしてみんなに祝福されてオーロラ姫とデジレ王子は結婚の約束を交わしたのでした。
 結婚式は盛大に行われました。妖精たちのほか、童話の主人公たちも駆けつけ、それぞれ楽しいダンスを披露してくれました。オーロラ姫とデジレ王子も華やかで気品あるダンスを踊りました。そして二人は自分たちを結びつけてくれたリラの精から祝福を与えられたのでした。
(終わり)

※ペローの原作の物語、ディズニーのアニメの物語はMIYU’sコラムにあります。







<プロローグ>



 昔々、ヨーロッパのある国にフロレスタン王という王様がいました。なかなか跡継ぎの子供に恵まれず、子宝祈願をしていましたが、やっとのことで美しいお姫様を授かりました。当時は妖精が人間の運命を左右すると信じられていたため、フロレスタン王は国中の妖精を洗礼式のお祝いに招待して丁重にもてなし、お姫様の名付け親になってもらうことにしました。宮廷行事の責任者であるカタラビュットが調べたところ、この国には6人の妖精がいることがわかりました。そこでその6人の妖精全員に名付け親になってもらうことにしました。お姫様はオーロラ姫と名付けられました。
 さて洗礼式も無事に終わり、その後の祝宴には主賓の妖精たちをはじめ、たくさんの人が招かれていました。カタラビュットは慎重にもう一度招待客のリストを見直し、確認してうなずきました。うん、万事ぬかりなし。



 やがて王宮の広間には大勢の招待客が集まりました。フロレスタン王と王妃様、乳母たちに抱かれてオーロラ姫も姿を現しました。主賓である6人の妖精たちは次々に優しさ、元気、おうよう、のん気、勇気などの美質をオーロラ姫に贈りました。
 5人めの妖精が贈り物をし終わったその時、突然邪悪な空気が立ち込めたかと思うと、ねずみが引く二輪車に乗り、醜悪な小姓たちを連れて、年老いた妖精カラボスが現れました。カタラビュットは真っ青になりました。何たる失態!こともあろうに一番性質の悪い妖精がリストからもれていたのです。カラボスは言いました。
 「まったくなんて礼儀だろうね。敬意を払うべき年長の私を招待もせずに恥じをかかせるなんてさ。ところで式典の責任者は誰だい?」
そして真っ青になっているカタラビュットのところへ行くと、その頭の毛を全部むしりとってしまいました。そして更に恐ろしい調子で続けました。
 「それでもさ、私はこのオーロラ姫にちゃんと贈り物をくれてやるよ。姫はさっき妖精たちから贈られた美質に恵まれて誰も見たことがないぐらい美しく成長することだろうさ。だけど大人になる前に、糸紡ぎの針に指を刺されて死ぬだろうよ。ワッハッハッハ…。」
 カラボスの恐ろしい笑い声が響く中、フロレスタン王も王妃様もみんな真っ青になってしまいました。不吉な空気が立ち込めました。その中でリラの精の凛とした声が響きました。
 「ご安心なさいませ、王様、王妃様。幸い私はまだ姫に贈り物をしておりません。私には年長者であるカラボスの呪いを全部取り消す力はありませんが、薄めることはできます。確かに姫は糸紡ぎの針に指を刺されますが、死にはしません。深い眠りにつくだけです。そして100年たった時、ある王子が現れて姫の眠りを覚ますことでしょう。」
 フロレスタン王も王妃様も、リラの精の贈り物に少なからず安堵しました。カラボスはリラの精の助け舟が気に入らず食ってかかりましたが、他の妖精たちもリラの精に味方してカラボスを非難したため、旗色が悪くなって呪いの言葉をわめきちらしながら二輪車に乗って退散して行きました。
 
フロレスタン王はさっそく『糸紡ぎを使うことも持つことすらもまかりならぬ。背いた者は死刑に処する』というおふれを出して、糸紡ぎを国中から追放しました。


<第一幕>

 

 さて16年の月日がたち、オーロラ姫は16才の誕生日を迎えました。姫は妖精たちの贈り物通り、心優しく誰にでも好かれる美しいお姫様に成長しました。
 
 そのめでたい日に糸紡ぎを使っている娘たちがいました。 そこへ見張りの兵士とともにカタラビュットがやってきて、その場面を目撃してしまいました。糸紡ぎを持っている者は死刑なのです。しかし悪気などかけらもないこの娘たちをカラボスの呪いに脅えて処刑するなど、あまりにむごすぎる…カタラビュットが悩んでいるところへフロレスタン王がやって来ました。
 仕方なく娘たちの糸紡ぎの件を報告すると、王の表情はみるみる険しくなって、娘たちを処刑せよと命令を下しました。娘たちは突然の災難に泣き喚き、あたりにはカラボスの大好きなまがまがしい空気が立ち込めました。 
 そこへ王妃様がやって来てわけを聞き、娘たちを許してくれるようにフロレスタン王にとりなしました。今日はオーロラ姫が大人と認められる大切な日。こんなめでたい日にむごいお仕置きをしては姫の美徳に傷がつくというものです。最初は命令は命令だと頑なだったフロレスタン王だが、次第に王妃様の言葉に心を動かされ、娘たちは無罪放免となりました。



 そして寛大なフロレスタン王のお城はオーロラ姫の誕生祝い一色となりました。庭園にはたくさんの若い男女が集まって、色とりどりの花輪を持って踊り出しました(花のワルツ)。輝くばかりに美しいオーロラ姫も友人に囲まれて姿を現しました。姫の花婿候補である異国の4人の王子たちも到着し、姫の美しさを讃えながら、姫と優雅な踊りを踊りました。(ローズアダージオ)
 
 そこへ見慣れぬ老婆がやって来て、オーロラ姫に小さな花束を差し出したので姫は喜んで受け取り、手に持ったまま踊り出しました。王妃様や侍女たちは素性の知れない老婆の花束を取り上げようとしましたが、素直で疑うことを知らないオーロラ姫は、茶目っ気たっぷりに王妃様たちの間をすり抜けて花束をかかげるように踊りました。 
 と、花束の中の何かがオーロラ姫の白い指を突き刺しました。糸紡ぎの針が入っていたのです。姫はちょっとつついただけ、とみんなを安心させようとしましたが、みるみるしびれが姫の身体を襲いました。。洗礼式の呪いを思い出し、フロレスタン王も王妃様もみんな蒼ざめてしまいました。やがて姫は動かなくなりました。と、その時勝ち誇ったような不気味な笑い声が響き、さきほどの老婆が正体を現しました。カラボスだったのです。
  「礼儀知らずの王と王妃よ、どうだい、私の贈り物は!ワッハッハッハ…」
 激怒したフロレスタン王の命令で、兵士たちがカラボスを取り押さえようとしました。姫の花婿候補の4人の王子たちもカラボスに斬りかかりましたが、カラボスの相手ではありませんでした。そしてカラボスは高笑いを残して去って行きました。フロレスタン王や王妃様たちは嘆き悲しんでオーロラ姫を取り囲みました。



 そこへリラの精が現れて言いましたた。
 「ご心配には及びません。姫はただ眠っているだけなのです。姫の眠りは100年ほど続きます。ある王子様が現れ姫の眠りを覚ますまで…。」
 フロレスタン王は家来たちに命じてオーロラ姫をお城の中で一番美しい部屋の一番美しいベッドに寝かせました。眠っている姫はまるで天使のような美しさでした。リラの精はお城の中のすべてのものに一つ一つその魔法の杖で触れて行きました。フロレスタン王も王妃様もカタラビュットも侍女たちも兵士たちもみんな。そして馬や犬、はてはごちそうやろうそくまでも…。そしてオーロラ姫が目覚めたときに困らないように、お城全体が姫と共に100年の眠りについたのでした。するとまたたく間にお城は大小様々な樹、いばらや棘のある植物に覆われ、誰も近づくことができなくなりました。そして遠くの方から塔の先が見えるだけになってしまいました。


<第二幕>


 そしてオーロラ姫が眠りについてから100年の時が過ぎました。ある時デジレ王子がお供の貴族たちを連れて森へ狩にやって来ました。今日の狩は単なる楽しみというだけでなく、お妃選びという意味合いもあったので、王子は少し憂鬱でした。近隣の王たちには息子しかなく、デジレ王子の相手となるような王女はいませんでした。そこで貴族の娘たちの中からお妃を選ぶように言われているのでした。
 一通り狩を楽しんだ一行は草地でくつろぐことにしました。一行は食事をしながらダンスやゲームを楽しみました。貴族の女性たちはデジレ王子の気を惹こうと愛嬌たっぷりに踊りましたが、あいにく王子は彼女らの誰とも結婚する気はありませんでした
 そのうちまた狩の時間になったのですが、デジレ王子は気疲れしてしまい、自分抜きで狩を続けるように言いつけて一人この草地で心安らかに休むことにしました。



 みんなが行ってしまってホッとしていると、遠くの方に植物に覆われた崖のようなものが見えました。あれは一体なんだろうと思っていると、あたりに何だか不思議な空気が立ち込めてきました。そしてデジレ王子の名付け親でもあるリラの精がお供を連れて現れました。リラの精は自分の前にひざまづいたデジレ王子に言いました。
 「私があなたの憂鬱を晴らしてあげましょう。私は世界で一番美しく魅力的な姫を知っていますよ。」
 王子が驚いてその姫はどこにおられるのです、と訊くとリラの精は答えました。
 「それではその姫の幻影を呼んでみましょう。もし姫があなたの気に入ったのであれば、姫のところへ連れて行ってあげます。」
 そしてリラの精は先ほどデジレ王子が眺めていた植物に覆われた崖に向かって杖を一振りしました。するとオーロラ姫の幻影が現れました。たちまちデジレ王子はオーロラ姫に魅了されてしまいました。王子はオーロラ姫の幻影を追いましたが、手をのばしてもするりとすり抜けてしまいます。そしてオーロラ姫の幻影はある時は物憂げにある時は快活に踊り、王子の心をすっかりとらえてしまうと、あの植物に覆われた崖の方に消えてしまいました。王子はリラの精の足元にひれ伏して言いました。
 「あの方はどこにおられるのです。私をあの姫のところへ連れて行ってください。あの姫こそ私が待ち望んでいた女性です。」
 「それでは私についておいでなさい。」
 リラの精がそう言うと、金や宝石で飾られた真珠貝の船が現れました。そしてデジレ王子はリラの精と共に船に乗り込みました。船は森を抜け、険しい景色の中を進んで行き、やがてツタやいばらで覆われたフロレスタン王の眠れる城へとたどり着きました。
 どこに城門があるのやらわからない状態だったが、リラの精が魔法の杖を一振りするとツタやいばらはひとりでにほどけて門が現れました。すると中から城を見張っていたカラボスとその手下たちが姿を現しました。リラの精に守られたデジレ王子は剣を抜いて勇敢に戦い、カラボスとその手下たちを城から追い払ってしまいました。そして王子は城の中へ入って行きました。



 城の中はぞっとするような静けさでした。死んだようにみえる人間や動物たちがあちらこちらに横たわっています。しかしそのうちいびきなども聞こえ、みんなただ眠っているだけだということがデジレ王子にもわかってきました。そして王子はくもの巣を払いながら城の中を進んで行きました。
 やがてデジレ王子は姫が眠っている部屋へ到着しました。眠っている姫は神々しいばかりの美しさでした。デジレ王子はハッと胸をつかれてしばらく見とれていましたが、やがて姫に近づいてひざまづき、接吻しました。 
 すると姫は目を覚まし、優しく愛らしい眼差しでデジレ王子を見つめました。そしてオーロラ姫と共にフロレスタン王と王妃様、カタラビュット、侍女や家来たち、そして城全体が100年の眠りから目覚めたのでした。デジレ王子はフロレスタン王に姫と結婚したいと申し出ました。王は快諾し、オーロラ姫とデジレ王子の手を結ばせました。

<第三幕>


 そしてデジレ王子とオーロラ姫の婚礼の儀が執り行われ、華やかに祝宴が始まりました。フロレスタン王と王妃様、貴族などの宮廷人が待ち受ける中、正装したデジレ王子がオーロラ姫の手をとって現れました。そして結婚式を祝うために集まって来た様々な童話の主人公たちも入場して来ました。
    ・ 青髭とその奥方たち (ペロー)
    ・ 長靴をはいた猫、カラバ侯爵とその従者たち (ペロー)
    ・ 金髪の美女とアヴェナン王子
    ・ ろばの皮とシャルマン王子 (ペロー)
    ・ 美女と野獣 (ボーモン夫人)
    ・ シンデレラとフォルテュネ王子 (ペロー)
    ・ 青い鳥とフロリナ王女 (オーノワ夫人)
    ・ 白い猫 (オーノワ夫人)
    ・ 赤ずきんと狼 (ペロー)
    ・ 巻き毛のリケとエメ王女 (ペロー)
    ・ 親指小僧とその兄弟たち (ペロー)
    ・ 人食い鬼と人食い女 (ペロー)
    (通常はこの全員ではなく、一部のみが登場)

 



 そしてリラの精も他の妖精たちを連れて駆けつけました。みんなが入場し終わると、お祝いのダンスが始まりました。(ディヴェルティスマン、通常このうちの幾つかのみ)
    ・ ダイヤモンドの精、金の精、銀の精、サファイヤの精の踊り
    ・ 長靴をはいた猫と白い猫の踊り
    ・ 青い鳥とフロリナ王女の踊り 
(ここのみグラン・パ・ド・ドゥ
    ・ シンデレラとフォルテュネ王子の踊り 
    ・ 赤ずきんと狼の踊り
    ・ 親指小僧とその兄弟、そして人食い鬼の踊り
 そして最後にはデジレ王子とオーロラ姫もダンスを披露しました(グラン・パ・ド・ドゥ)。
 すべてのダンスが終わると、デジレ王子とオーロラ姫はリラの精の足元にひざまづきました。カラボスの呪いを打ち砕き二人を結びつけたリラの精はあらためて二人を祝福しました。
(終わり)

 




バレエについて

<眠れる森の美女基本情報>

台本  イワン・アレクサンドロヴィッチ・フセヴォロジスキー
     マリウス・プティパ
振付  マリウス・プティパ
原作  シャルル・ペロー
音楽  ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
初演  於 ペテルブルグ・マリインスキー劇場 1890年1月15日


 眠れる森の美女はチャイコフスキー2番目のバレエ作品です。劇場の支配人フセヴォロジスキーがルイ14時代のフランス宮廷風のバレエを作りたいと思ってプティパに提案し、この提案に喜んだプティパと共同で台本を作成しました。そこにチャイコフスキーの美しい音楽が加わり、このバレエは初演から大好評だったということです。
 そのせいか、チャイコフスキーの他のバレエ作品のように結末が正反対になるなど物語が根本的に改定されることはほとんどないようです。(もちろん他の作品と同じく風変わりな演出もあるにはあるようですが…)
 
 原作がペローのおとぎ話だからか、この作品に関してはドラマがどうのこうのと言う必要はあまりないように思います。まさにストーリーは美しく豪華絢爛なダンスを作るためにある、という感じ。衣装も舞台装置も豪華な事が多く、これぞまさしくバレエの、そしてプティパの理想なのでしょう。 
 とはいえ、初演はものすごく長時間にわたったらしく、そのまま上演し続けるのは不可能で、様々な省略や改定が行われた、と「ロシアバレエの黄金時代」で野崎韶夫氏は書いておられます。原作の面影をもっともよくとどめているのはキーロフ(現マリインスキー)のセルゲイエフ版だそうです。(もっとも最近マリインスキーバレエ団は初演の復刻版を上演し始めたようです。)
 根本的な改定はせずとも、振付家・演出家の方々はいろいろなところで個性を発揮しています。この作品のストーリーは単純とはいえ、善と悪の戦いとそれに翻弄される人間の姿が描かれており、善であるリラの精や悪の象徴カラボスにスポットライトがあてられて芝居を濃くしているものもあります。リラの精やカラボスがマイムのみなのか、それとも踊るのかも個性が出るところです。



  また第三幕の結婚式で誰がお祝いにやって来るのか、そしてまた誰がディヴェルティスマンで踊りを披露するのかも演出家、振付家の個性が出ます。お祝いにやって来るのは主に原作者ペローの童話の主人公ですが、他の作者の童話の主人公も登場します。 
 有名なフロリナ王女や青い鳥はオーノワ夫人の童話の主人公で(童話ではフロリナ姫ではなくロゼット姫?)、お花に姿を変えられて塔に閉じ込められている王女様に恋人である青い鳥が会いに来るという設定らしいです。
 ペローの長靴をはいた猫と戯れる白い猫もオーノワ夫人の童話の主人公で、妖精に猫の姿にされてしまった王女様だということです。
 また宝石の踊りも女性ばかりだったり男性も入ったり、ロイヤル版では「フロレスタン王と姉妹たち」になっていたりして、様々です。
 ディヴェルティスマンがあまり長くなるのも考えものですが、それでもひいきの童話の主人公にはぜひ踊ってもらいたいところですね。 

 なお、この作品については前述の通り結末などの根本的な点について大きな差はないため、「〜版」という形ではなく、森田稔氏「永遠の白鳥の湖」に収録されている初演台本を基に原作を少し織り交ぜながら話をまとめました。




原作について

 「眠れる森の美女」はペローのオリジナルというわけではなく、グリムの「いばら姫」等よく似たお話が幾つかあります。その中でペローのものが選ばれたのは、もともとフセヴォロジスキーがルイ14世時代のフランス宮廷に憧れてバレエを作ろうと思ったこと、フランス人であるプティパが何でもフランスのものが大好きであったことが影響しているのでしょう。
 ペローの童話には教訓がついており、この作品の場合、「良い伴侶を得るためには、女はおとなしくじっと待つことが大切。」というもの。ちょっと古風ですが、ペローはルイ14世に仕えた人ですから、今とは考え方も生き方も異なって当然でしょう。戦争や謀反も多く、王権でさえ万全でなかった時代ですから、女性の立場は弱かったのだと思います。そういう時代だからこそこのようなロマンチックなお話も生まれた、ともいえるのでしょう。
 それとも現在でも(ちょっと違った意味ですが)やっぱり100年は寝て待たないとよき伴侶には恵まれない?…かもしれませんねぇ。



 さて、原作ではありますが、バレエとは相違点も多いです。一番違うのはお姫様と王子様が結婚した後にも物語が続いていることです。
 原作ではお姫様に名前はありません。(オーロラというにはお姫様が産んだ女の子の名前です。)またお姫様が眠りにつく時、父である王様と母である王妃様はお城を離れてしまいます。そしてお姫様はいばらに囲まれたお城で100年眠り続けますが、その間に両親は亡くなり、別の一族が王となってこの国を支配します。デジレ王子にあたる王子とはこの新しい王家の王子です。
 さてこの王子様、お姫様に通い婚しますが、両親にはその事は黙っています。何と王子さまの母親は人食い鬼なのです。しかし王様が亡くなり、王子様はお姫様と二人の間に生まれた二人の子供(オロール姫、ジュール王子)を城へ連れて帰ります。
 やがて王となった王子様は長期遠征に出かけます。王妃である人食い鬼は正体を現し、オロール姫とジュール王子を食べたくなって料理長に「殺しておいしくして食べさせておくれ」と言います。かわいらしい二人を殺すにしのびない料理長は代わりに小山羊を料理して食べさせ、オロール姫とジュール王子を匿います。
 そして人食い王妃は今度はお姫様を食べたくなります。料理長はお姫様をも匿いますが、やがてそれがばれてお姫様と二人の子供は大きなお鍋に沸かしたお湯に放り込まれてゆでられ食べられることに。その直前に予定よりはやく王様が帰って来て、それを知った人食い王妃は進退窮まって自らお湯の中にドボン。そしてお姫様と二人の子供は助かりました、でお話はおしまいです。



 その他、妖精に関しても原作とバレエはかなり違います。カラボスにあたる妖精は別に悪の象徴というわけではなく、洗礼式に招かれなかったことに気を悪くして悪い贈り物をしたにすぎず、カラボスのように派手な立ち回りはありません。洗礼式に呼ばれなかったのも式典長のミスではなく、長く塔にこもったきりで誰もその姿を見た者がなく、死んだと思われたからです。
 もともと妖精とは機嫌をとらなければどんな災いをもたらすかわからないと考えられており、それがためにお姫様の洗礼式にも呼んで名付け親になってもらって丁重にもてなしているのです。だから機嫌を損ねるようなことをすれば呪われるのは当然というわけなんですね。妖精のイメージがよくなり人々が妖精に親しみを持つようになったのは、シェークスピアの「真夏の夜の夢」からだそうです。(詳しくは井村君江氏の本をご参照ください。)
 
 バレエはペローのような旧式の教訓は採用せず、善と悪の間で翻弄される人間の運命をテーマにすえたので、リラが善の象徴、そしてカラボスが悪の象徴になってしまったのですね。カラボスは式典長のミスで招待もされずに無視された上にすっかり悪者にされてしまって、ちょっと気の毒。しかしそのおかげですっきりとわかりやすい素敵なバレエとなったのです。
 それにけっこうカラボスは人気の役なのです。特に男性ダンサーは「シンデレラ」の意地悪なお義姉さんと並んでこの役がお気に入りなようです。



ディズニー映画について

<基本情報>

 監督   クライド・ジェロニミ
 原作   シャルル・ペロー
 音楽   ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
 編曲   ジョージ・ブランズ
 初公開 1959年1月29日 (USA)
       1960年 7月23日 (日本)
 600万ドルの制作費と6年の制作期間をかけた、手書きアニメとしては最後の作品です。またウォルト・ディズニーが関わった童話を原作とする作品としても最後のものだそうです。(但しこのころウォルト・ディズニー本人はディズニーランド立ち上げに没頭しており、あまり本作に関わっていなかったらしいですが…)
 このアニメ版はチャイコフスキーの音楽を編曲して使用しており、バレエを意識したものではありますが、ストーリーはかなり違ったものとなっています。主要な登場人物とあらすじは以下の通り。
   
バレエ版 ディズニー・アニメ版
お姫様 オーロラ姫 オーロラ姫(ブライア・ローズ)
王子様 デジレ王子 フィリップ王子
善の妖精 リラの精 フローラ、フォーナ、メリウェザー
悪の妖精 カラボス マレフィセント
姫の父王 フロレスタン王 ステファン王
王子の父王   −−−− ヒューバート王




<あらすじ>

 14世紀のお話。とある国のステファン王は長い間跡継ぎの子供にめぐまれませんでしたが、ついにお姫様が誕生しました。お姫様はオーロラ姫と名付けられました。めでたい洗礼式は国中が祝賀ムードに包まれ、隣の国のヒューバート王も跡継ぎの幼いフィリップ王子と共にお祝いに駆けつけ、ゆりかごの中のオーロラ姫とフィリップ王子との間には婚約が整いました。
 善の妖精フローラ、フォーナ、メリウェザーも招かれてオーロラ姫に贈り物をする事になりました。フローラの贈り物は輝くばかりの美しさ。フォーナの贈り物は美しい歌声でした。
 そしてメリウェザーが贈り物をしようとした時、不吉な空気が立ち込めたかと思うと、悪の妖精マレフィセントが現れました。自分が招かれなかったことに腹をたてたカラボスは、贈り物の代わりにオーロラ姫に呪いをかけました。姫は16才の誕生日の日没までに指を糸車の針で刺されて死ぬというのです
 みんなが蒼ざめる中、まだ贈り物をしていなかったメリウェザーがマレフィセントの呪いを弱め、姫はただ眠るだけで、真の恋人の口づけによって目を覚ますであろうと予言しました。
 ステファン王は国中の糸車を焼き払わせましたが、まだ安心できませんでした。そこで三人の妖精たちはお姫様をマレフィセントに見つからない森の奥に隠して育てることにしました。三人の妖精は農夫に姿を変え、捨て子を装ったオーロラ姫にブライア・ローズという名をつけて、姫を農民の娘として育てました。そしてブライア・ローズは三人の妖精に見守られ、無事に16才の誕生日を迎えました。
 マレフィセントの呪いが消える今日、オーロラ姫はお城へ戻ることになっていました。しかし何も知らない姫は森の中で一人の若く凛々しい青年に出会い恋に落ちました。妖精たちはブライア・ローズに、本当は彼女はオーロラという名のお姫様である事、父王との約束で今日お城へ返さねばならない事、生まれながらの婚約者がいる事を話しましたが、オーロラ姫の心は先程の青年の事でいっぱいになっており、妖精たちの言う事を受け入れる事はできませんでした。
 それでも王様との約束通り、三人の妖精たちは姫を連れてマレフィセントに見つからないようにお城に戻しました。しかし、ちょっと目を離した隙に姫の存在をかぎつけたマレフィセントが現れ、悲しみのあまり抜け殻のようになった姫に忍び寄り、塔の上に連れて行って糸車の針をさわらせました。呪いは実現し、オーロラ姫は倒れてしまいました。
 しかし実際はメリウェザーの贈り物により、姫はただ眠りについただけだったのです。三人の妖精たちは王様はじめお城全体を姫と共に眠らせました。
 姫の眠りを覚ますためには、真の恋人を探さなければなりません。姫が恋に落ちた青年とは実は生まれながらの婚約者であるフィリップ王子であることを突き止めた妖精たちは、執念深いマレフィセントから王子を守ろうとして、探し回りました。しかしすでに王子はマレフィセントに捕まっていました。
 普段は良いことしかできない三人の妖精たちでしたが、王子救出のために戦い、救い出して盾と剣を与えました。王子は盾と剣を持ってマレフィセントと戦いました。幾度も窮地に陥った王子でしたが、三人の妖精の加護を得て、最後はドラゴンに変身したマレフィセントを無事に倒しました。そして王子は姫の所へ行き、その口づけで姫の眠りを覚ましました。
 すると、姫とともに王様はじめお城全体が眠りから覚めました。そして喜びに包まれるお城の中でオーロラ姫とフィリップ王子は愛を確かめ合いました。

 

 

 原作やバレエと違ってオーロラ姫は100年間は眠りません。姫と王子の間柄も眠っている人と眠りを覚ましてくれた人というただの救済関係ではなく、生まれながらの婚約者であり、しかもそうとは知らずに恋に落ちる、というロマンチックな設定になっています。しかもその王子さまが命がけでマレフィセントと戦って姫を助けてくれるのですから、かなりロマンスがグレードアップされています。
 また、どこか滑稽なカラボスと違ってマレフィセントはどこまでも恐ろしいです。王子との戦いもすごくてドキドキ、マレフィセントが滅びていく様も怖くてドッキリ。本当に色彩も含めて絵がきれいで迫力があります。
 音楽の使い方はバレエから離れて自由自在。ブライア・ローズが森で歌うのはフロリナ王女のテーマです。その声にフィリップ王子が聞き惚れ、恋が始まります。花のワルツや妖精のテーマもドラマを盛り上げます。(ただ、三幕の猫のテーマをマレフィセントのテーマに使うのにはちょっとびっくりしましたが。)
 ディズニーアニメは子供向け、というイメージがありますが、この眠れる森の美女はもう少し上の年齢層にも受けそうな気がします。バレエとはまた違った豪華な中世の夢とロマンスの世界です。





 

永遠の「白鳥の湖」  森田稔/著   新書館
     〜初演台本を収録〜
眠れる森の美女  シャルル・ペロー/著  巖谷國士/訳 筑摩書房
    〜完訳ペロー昔話集〜
DVD 眠れる森の美女
    キーロフバレエ
    振付    コンスタンチン・セルゲイエフ
    音楽    ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
    キャスト  オーロラ姫 → ラリッサ・レジュニナ
           デジレ王子 → ファルフ・ルジマートフ
DVD 眠れる森の美女
    パリ・オペラ座バレエ
    振付    ルドルフ・ヌレエフ
    音楽    ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
    キャスト  オーロラ姫 → オーレリ・デュポン
           デジレ王子 →  マニェル・ルグリ
眠れる森の美女・アニメ映画(1959年 米国)
    ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホームエンターティンメント
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