2008年のレポートです
2008年8月2日(土)、特定非営利法人ピースコミュニケーション研究所が主催する第三回教師サポートセミナーが東京都品川区の公共施設「きゅりあん」を会場として実施された(後援:神奈川県教育委員会 千葉県教育委員会、埼玉県教育委員会、横浜市教育委員会 協賛:財団法人日本児童教育振興財団、合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ)。 ピースコミュニケーション研究所は、人類の相互理解を深めることを通じ世界平和に貢献することを目的として設立されたNPO法人で、例年、学校の先生方を対象としたスキルアップのための「教師サポートセミナー」を開催している。 第三回目を迎えた今年のテーマは【新指導要領対応、学習塾の実践から学ぶ「ティーチング・コーチング・ラーニング」】。三部構成で開かれた今回は、今年3月に告示された「新指導要領」を意識した内容で、第三講座では文部科学省が作成したテキスト「英語ノート(試作版)」を用いた模擬授業を実施。会場は、夏の暑さにも負けない熱気が立ち込めるものとなった。
学習塾の授業が、学校の授業を変える!?
NPO法人ピースコミュニケーション研究所が催す「教師サポートセミナー」が他と一線を画しているのは、「学習塾の実践から学ぶ‥‥」という一文が、毎年テーマに添えられていることだ。
近年になり、風通しが良くなりつつある公教育と学習塾に代表される民間教育機関の間だが、その間にはまだ大きな壁がある。同研究所の「教師サポートセミナー」がユニークなのは、学習塾で培われた授業方法や児童・生徒とのコミュニケーション術など民間のノウハウを、公教育の最前線を支える学校の教師に積極的に伝え、教育界全体の発展に寄与している点だろう。
今回のセミナーもこうした理念にならい、講師を務めたのは、学習塾で教鞭をとった経験をもつベテラン教師3名であった。
第一講座「授業が変われば、クラスが変わる」で講師を務めたのは、本誌の執筆人の一人でもある同研究所理事長の中土井鉄信氏。
午前10時30分からはじまった第一講座では「教える―学ぶ」という関係から教育が持つ意味が解き明かされ、学習塾型授業と学校型授業の違いが巧みな話術で、軽やかに説明されていった。
「セルフエスティームを高める授業法についてより理解が深まった。『授業力』を高める基本事項の確認ができ、今後の指導に意欲が持てた」(公立学校 小学校教師)
「1時間30分がアッという間に過ぎてしまった。教職30年になろうとしている今、反省すべき点がたくさんあることが分かりました」(公立学校 小学校教師)など、民間出身の中土井氏の授業論が、学校の先生方に非常に好意的に受け止められていたのが印象的であった。
また、国立大学教員養成系4年の学生は、「コミュニケーションにおいて、受信側の力が大きいということに驚いた。新しい視点がたくさん提示される『学びたい授業』であった」と大学の講義では手薄な実践的内容に興味をそそられたようだ。
傾聴スキルをワークショップ
お昼休みを挟み12時40分からはじまった第二講座「コミュニケーションが変われば、生徒の態度が変わる」で講師を務めたのは同研究所主任研究員の井上郁夫氏。
「コミュニケーションとは相手の意欲を引き出すこと!」という定義を解説し、さらに具体的な傾聴スキルであるところの「バックトラッキング」「ミラーリング」などがワークショップ形式で伝えられていった。
「具体的なアクティビティがあったので理解しやすかった」(公立学校 小学校教師)
「なるほど! と思えた。特に保護者との関係作りの手法が興味深かった」(公立学校 小学校教師)
二人一組のワークショップ形式で講義が進められたこともあって、会場は和気藹々。真剣な眼差しと弾けるような笑いが交差する第二講座であった。
歌のリズムの小学校英語
最後の第三講座のテーマは「小学校英語の理想形はコレだ!」。講師を務めたのは現フォーサイト代表で、学習塾や英会話スクールで30年以上にわたり英語・受験指導を勤めたベテラン教師の浅井正美氏だ。
二人一組のワークショップ形式で講義が進められたこともあって、会場は和気藹々。真剣な眼差しと弾けるような笑いが交差する第二講座であった。
指導要領の改訂にともない小学校5・6年生では「外国語の活動(小学校英語)」が週1時限必修となるが、学生時代以来、英語に余りふれる機会がないまま過ごした人も多い小学校の先生方の中には「英語を教えることへの不安」を抱える教員も少なくない。
今回のセミナーで大きな目玉となったのが、この第三講座の受講で、実際、セミナーの申し込みをはじめると、早くから数多くの小学校の先生からの申し込みがあり、予定よりも早く満席になるほどであった。
関心が高い「小学校英語」だが、講座前半には、児童教育ための英語学習の理論的側面が伝えられた。そして、後半にはいよいよ待ちに待った模擬授業である。テキストとして使われたのは、来年度に「小学校英語」を前倒し実施する小学校の多くで使われるであろう文部科学省が作成した「英語ノート」(試作版)。この「英語ノート」を用い、浅井氏から児童を楽しませ、英語を好きになるポイントが次々と伝えられていった。 講義で、浅井氏が特に強調したのが、英語学習における音とリズムの大切さだ。
また、担任の先生がやってはいけないこととして、 ・英語と日本語が混在する発話 ・英語を日本語で直訳することこと などの注意点が挙げられていった。 模擬授業後半には「My name is‥‥‥」といったフレーズを、受講者が皆で歌のようにして語り、それが合唱のように会場全体に響き渡った。文科省が掲げた小学校英語の理念――「外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさ」を伝える方法論を、受講者の先生たちは、肌で実感できたようだ。 家路に帰る先生の一人が会場を後にする前に、こんなうれしい声をかけてくれた。 「公的な機関の主催ものと違い、講師の先生方のやる気と話術に惹きつけられる1日でした。これが塾講師の魅力なのでしょうか」