活動レポート2009

活動レポートです 

2009年のレポートです

学習塾のスキルを学校の先生へ伝える!

オンリーイングリッシュの小学校英語

短期間で生徒の態度変容をもたらす授業術

近年になり、交流が盛んとなった公教育と学習塾だが、その間にはまだ大きな壁がある。NPO法人ピースコミュニケーション研究所の「教師サポートセミナー」がユニークなのは、学習塾で培われた授業方法を、公教育の最前線を支える学校の先生方に伝えることを通して、教育界全体の発展に寄与している点だろう。 今回のセミナーもこうした理念にならい、学習塾で教鞭をとった経験をもつベテラン教師2名が講師として教壇に立った。

 

第一講座(ティーチングスキル講座)「やる気を引き出す授業術」で講師を務めたのは、学校と学習塾の双方で教育コンサルタントを務める中土井鉄信氏(同研究所理事長)。 午前10時30分からはじまった第一講座では、学校と学習塾の指導方法の違いが、学校の先生方には衝撃的であったようだ。 「学習塾では、その授業料(保護者にとっては子どもへの投資)に見合った教育的な成果を、短期間に出さなくてはならなりません。長期的なスパンで子どもの成長を見守ることができる公立学校と違い、学習塾では生徒たちの態度変容を短期間でなさなくては、すぐに退塾へ繋がってしまいます。授業をはじめとした学習塾の指導はすべて、この前提をもとにして構築されています」 中土井氏は、この前提をふまえた上で、短期間で生徒に態度変容をもたらす具体的な方法を次から次へと紹介していった。

 学習塾でならではの学習モチベーションアップ方法や 生徒たちに家庭学習をさせるための方法、授業設計における宿題の位置づけ、 授業ですぐに役立つ板書や話し方などのパフォーマンス…。 そして最後に、子ども達のセルフエスティーム(自己重要感)を高める 「承認」(褒めること)」が学校であれ、学習塾であれ大切で ある点をワークショップを交えて力説。 中土井氏の迫力満点の講演に、小学校の先生方は度肝を抜かれたよう。 「教育委員会主催以外のセミナーをこれまで聞いたことがなかったので大変勉強になりました。民間にはすごい先生方がいらっしゃるのですね。特に『良い点を承認するために教師がいる』という中土井先生の考えには、参りました。初心に戻れました。ありがとうございました」 (栃木県小学校教員) 「多くの学習塾での実践体験を基にテンポのいい語り口、そしてポイントをおさえた指導スキル、とても勉強になりました。いつの間にか凝り固まっていた自分の教育観に気づくことができ、教育者の前に人間的に子どもたちを引きつける指導力を身につけたいと思いました」 (神奈川県小学校教員)」 など、学習塾出身の中土井氏の教育観が、学校の先生方に非常に好意的に受け止められていたのが印象的であった。 

 

オンリー・イングリッシュの授業とは?

お昼休みを挟んで、13時40分からはじまった第二講座(英語指導スキル講座)のテーマは、「小学校英語はこうやって教える!」。  講師を務めたのは現フォーサイト代表で、学習塾や英会話スクールで30年以上にわたって児童英語・受験英語指導に関わった経験をもつベテラン教師・浅井正美氏であった。 第一講座「授業が変われば、クラスが変わる」で講師を務めたのは、本誌の執筆人の一人でもある同研究所理事長の中土井鉄信氏。

指導要領の改訂にともない小学校5・6年生では「外国語の活動(小学校英語)」が週1時限必修となるが、英語に余りふれる機会がないまま過ごした人も多い小学校の先生方の中には「英語を教えることへの不安」を抱えている方も多い。 そんな不安を払拭してもらうのが、第二講座の狙いだ。 第二講座では 普段は教師である受講者の先生方に生徒役になってもらい、模擬授業を体験してもらった。

模擬授業がスタートすると浅井氏は開口一番、 「Hello! Everyone!」 「Hello! Mr.Asai」(受講者) 「How are you today?」 ここから40分、英語だけで模擬授業は続いていった。日本語はまったく聞かれない。 英語での挨拶が終わると、 「Head, Shoulders, Knees and Toes」という英語の歌を踊りながら合唱。 その後は絵カードを示しながら 「Look at this. What`s this? What do you call this in English?」と発問しながら、 「strawberry」「tennis」などの単語を受講者に答えさせていった。 

さらに、クラスを4つのチームに分け、ゲームをしながら絵カード当て。 ゲームで盛り上がった後には、絵本である「ブラウンベア」や「マザーグース」を朗読。 またたく間に時間は過ぎた。 「Good Job, everyone.」、浅井氏による模擬授業は拍手の中、終わった。 正直、驚いた。子ども達に日本語を介さず英語だけでどんな風に授業をするのかと訝しく思っていたのだが、大きな身振りやイラストを使い、浅井氏は英語の語句の意味を子ども達に無理なく伝えていったのだ。 浅井氏が、日本語での説明をはじめる。 この模擬授業は文部科学省が作成した「英語ノート」の第5学年Lesson4に相当しているという。 

そして、模擬授業の各授業要素の意味を説明していった。 英語の歌「Head, Shoulders, Knees and Toes」を合唱したのは、子ども達の集中力を英語に向かわせる配慮があったこと、歌を歌うときにジェスチャーをともなったのは英語を身体で覚え、身体で思い出せるようにするため。また、前のレッスンが身体の部分であったことを思い出し(復習と定着)てもらう目的もあったという。 カード当てゲームは、子ども達にゲーム自体を楽しんでもらうと同時に、単語の定着をはかるため、そして何より、実際に英語で子ども達同士で簡単な会話をしてもらい、英語でのコミュニケーション体験を積み重ねることが狙いであった。

絵本を授業で利用したのは文法的にも文章的にも美しい英語をインプットするためであったという。 このセミナーで、浅井氏が特に強調したのが、音とリズムの大切さでもあった。 英語独特の音とリズムを身につけ、それを使って実際に外国語でコミュニケーションを行う、そんな楽しさを伝えることが小学校英語の本質なのだろう。