「ぼくの勝ちだね、北風くん」
 太陽はいかにも自慢そうに北風に言った。
 どちらが旅人のコートを脱がせることができるか競った勝負は、太陽の勝ちだった。

「負けたよ。確かに君が旅人の着ていたコートを脱がせたからね」
 北風はさも悔しそうに答えた。
「でも……」
 北風が言葉を続けた。
「あの旅人はまだ帽子をかぶっているじゃないか」
 確かにその旅人は暑くなったのでコートは脱いだが、日差しが強いので帽子はまだかぶったままだった。
「あきらめが悪いな、北風くんは」
 太陽は憮然とした。すると、
「いやっそうじゃないよ。いくら太陽さんでもあの帽子は脱がせられないんだなと思っただけさ」
 いく分皮肉めいた口調で北風は言った。
「じゃあ、君は脱がすことができるのかい?」
 太陽は、ちょっと怒って北風に言い返した。
「いや、ぼくにもできないよ」
 さっき、強い風で吹き飛ばそうとしたが、旅人がしっかりと手で帽子を押さえ込んだのを思い出し、北風は残念そうに答えた。
「そうだろう、ならもう負け惜しみは言わないことだね」
 太陽は勝ち誇ったように北風に言った。
 北風はあきらめかけたが、あることを思い出し太陽に言った。
「でも、いつかこんなことがあったよね」
「えっ?」
 太陽は聞き返した。
「ほら、君が雲で隠れてしまった時、ぼくが雲を吹き払ったおかげで出てこられたこともあったことさ」
 そういえばそうだった。太陽が厚い雲に覆われてしまったところを北風が吹き払ってくれたことがあったのだ。
 太陽は北風に少し言いすぎたなと思い、
「そうだね。自慢したぼくが悪かったよ。これからもなかよくしようね」
「うん、ぼくも強がりだったよ。なかよくしようね」
 北風もちょっぴり反省した。そして太陽が雲に少し隠れたので、北風はそっと吹いてあげた。
 薄日の中にさわやかなそよ風が心地よく吹いた。
 
 その時だった。
 旅人はかぶっていた帽子を思わず脱ぎ、そっとつぶやいた。
「ああ、いい気持ちだ……」



             あとがき

         そよ風は優しさの贈り物
         北風と太陽と雲と
         どれもちがって、どれもいい……。


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北風と太陽と