31.ツィーターの寿命
右チャンネルの音がまたおかしくなった。やはりフォルテシモで、シャリシャリというノイズが出る。前回とほぼ同じ症状。ノイズのレベルはやや低い。ツィーターから出る。接続や配線を調べたが異常なし。ツィーターをはずすと収まる。
どうやら、ツィーターの内部で、接触不良が起こったらしい。
1975年ごろ購入したPT−150。もう37年も昔のことだ。それを3.7μFで鳴らして、鳴らして、ついに寿命が来たか。ご苦労様。お疲れ様。よく鳴ってくれました。
交換用ツィーターはいろいろ考えたが、T90Aがいいだろうな。能率は高すぎるけど、0.47μFでつなげば大丈夫だろう。
しかし、購入までの間はどうするか。左のPT−150はまだオーケーだ。
とりあえず、つなぎのつもりで、しまってあったFT-25Dを右側スピーカーのキャビネットに載せ、同じネットワークにつないだ。
ちゃんと音が出る。
しかし、左のPT−150とはだいぶ違う音だ。PT−150が「散乱するサウンド」だとすれば、静かな高音。音は出ているが、おとなしい。柔らかい。
まあ、これもいいかも。特に古くて録音の悪いソースを聴くときには。
そこで、悪い癖というか、よこしまな考えというか、T90AとFT-25Dを切り替えて使えるようにしたらどうだ?と考えるようになった。純粋に音質を追求するなら、切り替えなどないほうが良いが、そこはそれ、楽しみ方が多様になるではないか。
長岡鉄男も自作例で、「〜の切り替えで2種類の音が楽しめる」というシステムをけっこう発表している。
しかし、左右が違うツィーターで、しかも右だけはキャビネットの上に載せているというのは、視覚的にも音的にも具合が悪かった。キャビの上に載せると、フルレンジ〜ツィータの距離が遠くなるので、右と左で音場感(?)が変わる。離れる事のよさもあるかもしれないが、自分の好みでは、近いほうが良い。
これはやはり、早いとこT90Aを導入して左右をそろえたほうが良い。
出来るだけ急いで準備にかかる事にした。
F56Vへ
ツィーター交換といっても、そのためにはFE168EΣを一度前面バッフルからはずさねばならない。
FE168EΣのでかいフレームが邪魔をして、PT−150を取り外せないからだ。
どうせ取り外すのなら、前面ユニットもFE168EΣからFE163En−sに換えてしまおうと思った。
購入してから1年寝かせておいたFE163En−sを天板ユニットに、1年間天板でエージングしたFE163En−sをフロントバッフルに取り付けるのだ。
そこで、12月の3連休に工事をするため、急いでT90Aを入手し、3連休を利用して入れ替えを済ませた。巨大なマグネットを背負ったFE163En−sを前面バッフルに取り付けるため、ツィーター用の内部キャビティの角を切削加工するのに手間がかかった。しかし、苦労の甲斐あって、前面のFE163En−sも木ねじ8本で取り付けることが出来るようになった。
最初の印象(音出しテスト)
<前面ユニットをFE168EΣからFE163En−sに変えたら、音ががらっと変わった。渋い音。天井ユニットを換えたときと同じ違和感もある。まだ変わるだろうが、音色が違う。質は、”桁違い”の予感がする。>
正直、あまり音が変わるとは思っていなかったのだ。既に天板ユニットはFE163En−sにしてあるのだし。
しかし、実際には音質は大きく変化した。最初に書いたのは取り付けてすぐ、の音出し時の印象だ。その後2週間くらいエージングをした上で聴いてみると、はっきりわかってきた。
FE168EΣの音とFE163En−sの音はまったくの別物だ。
FE163En−sの方が透明でくせがない。繊細感も高い(透明感、繊細感という表現は長岡鉄男が常用する用語だが、今回、初めて実感としてわかった)質も高い。FE168EΣの持つ華やかさは後退するが、細かい音が実によく聴こえる。いろいろな「違い」がわかる。
ただし、今はツィーターがT90Aに変わっているので、その違いもあるかもしれない。しかし、0.47μFでつないだT90Aからは、ごく控えめにしか音は出ていない。能率差からして、もっとでしゃばるかと思ったが、これも意外だった。
今のところ、PT−150とT90Aの違いよりも、FE168EΣとFE163En−sの違いではないかという印象だ。
FE163En−sを眺めていると、無化粧・素顔のまま、という感じがする。長岡鉄男も「FEシリーズはコーン紙は素材の色のまま、無添加・無着色、それが良いのである」と書いていたっけ。本当にそうかも知れない。
いずれにしろ、もはやFE168EΣもPT−150も退場してしまった。これからはFE163En−sとT90Aによる、今までとは別のスピーカーシステムとなったわけだ。これは、ゴードンF56の3代目、という意味において、F−56MK3と命名することにしよう。F−56Vの誕生である。これで、カートリッジは205CMK3、DL−103、V15Type3と、3が揃ってしまった。次はSL−1200MK3あたりだろうか?
なお、T90Aは下にゴムシートを敷いてツィーター用サブキャビネットに収めている。
PT−150のときは寸法がぎりぎりでサブキャビネットと固着している状態だった。
今度はサブキャビネット自体も切削加工のおかげでFE163En−sのフレームと非接触になった(いままでは窮屈に接触していた)ので、今までよりはツィーターがFE163En−sの振動を受けずに済むだろう。T90Aの開口部の周りにはナイロン製のスキマテープを張り巡らしてある。
邪道?のごちゃ配線になってしまった。左上のターミナルにFT25Dを3.7μFで接続できる。下のスイッチでT90AのON−OFFを切り替え。この結果、FE163En−s2発・ツィーターなし、FE163En−s2発+T90Aの2ウェイ、FE163En−s2発+FT25Dの2ウェイの3種類の音を楽しめる事になったわけだ。
P.S
T90Aを取り付けて試聴した後で、軽井沢の「スピーカー修理工房」を知った。PT−150も修理してくれるらしい。結構安く出来るようだ。T90A購入は早まったか〜?しかし、いずれ消費税も上がるし、他の部分が故障する事だってあり得るし、潮時だったかもなあ。FOSTEXが値上げする前だったらなお良かったか。値上げ前ならFT−96Hにしてた可能性高いな。
P.S2 エージングについては、生理学的な原因もある。
なぜならば、人間の聴覚は変わった音、初めて聴く音には敏感に反応するが、その音が反復されると次第に慣れていき、初めのときほど反応しなくなるそうだ。
何かの本で読んだ。これは、自然界で音にも警戒しながら暮らすのに向いている性質なのだろう・・・という事だ。(ここでは、初めて聴く音に敏感に反応する状態を「初期違和感」と呼ぶことにする)
だとすると、エージングには2つの側面がある。機器自体の音が使用するにしたがって変化していくエージングと、自分の耳が新しく導入した装置の音に慣れていくエージングだ。
この2つが重なるとやっかいだ。対策として、装置を入れ替えた直後はアイドリングのつもりで音だしをして、真剣に聞かない。または、まったく聴かないでおく。
つまり、最低のエージング、まあ1週間くらいが限度よね?これが終わってから、ほんきで聴く。
まあ、装置によっては1週間くらいではエージングが終わらない(終わるという定義もあいまいだが、ある程度進む、という程度の意味ですね)場合もあるだろうし、1日で終わる場合もあるだろうけど、ものには限度があるので、ほどほどでよいではないか。ついでに言えば、長岡鉄男の方針も徹底的にやるように見えて、「ものごとはほどほどで良い。ほどほどが良い」という感じがしますけど。
このように「初期エージング中は音を聞かない」方法をとれば、装置の初期の音の変化と自分の耳の初期違和感が重なるのをある程度防げるだろう、ということになる。
そう思って、「聴かないエージング」をある程度する事にしている。
で、今回も2週間くらいエージングしてから本格的に聴き始めたのだ。しかし自作派の人は、たぶん感じていることと思うが、ユニットをキャビネットに取り付けて配線し、音出しをすると、ユニット自体のエージングとは別に、ユニットがキャビネットや配線になじむ前の音と、なじんでからの音、というものがあるような気がする。
ユニットを取り付けた直後は、「まだ、なじんでいない違和感」のようなものを感じる。
(2013/1)
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