揚り屋


作成2005年8月7日

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主題:「御鷹匠同心片山家日常襍記抄」に見る御鷹匠同心の生活と野先

文政十一年(1828年)


 副題:揚り屋(あがりや)

 「揚り屋」は今で言うところの牢屋で、御目見え以下の御家人が処分が決定するまで入れられて居る所です。

 さて、文政十一年正月十二日の日記では雑司ヶ谷部屋の御鷹匠同心、三名が去年十二月より揚り屋に行っていたが、病気で組に預けられたと有る。この三名は、柏木茂兵衛、岩下惣助、立野丈助である。この日記の良いところは登場人物の名前がフルネームで出て来る所である。その後、二月十一日の日記にもう少し詳しく書かれていて、去年(文政十年)十二月九日取調べが有り、そのまま揚り屋へ入れられ病気の為、正月二日に組に預けられたと有る。これにより役所(この呼び方は片山勇八が使っている呼び名である)の中でも「宅番」(監視役)を出したり、困窮した家族をどう救済するか話し合いが持たれたりと、大変だった様である。

 なぜ三人も処分されなくては行けなかったのか。横暴を極めた鷹匠への処罰と考えると中々面白いのだが、この辺は江戸時代の判例から探ると面白いと思う。

 その後、この三人はそのままお預けとなり、六月四日には「餌作当番」、「鷹部屋泊り番」の他に「宅番」が昼夜の別無く回って来て、さらには六月三日には最初の「巣鷹」(巣から獲ってきた子鷹)の献上が有り、その「飼立」(飼育の意)の当番も忙しく、仕事が重ならない様に仕事の割り振りとかで、かなり困った状況になってきた。

 その次に日記に現れるのは十一月十八日で、「先だってお仕置きになる」と有り、もうすでに刑が執行された後で、江戸から追放された様である。さらに闕所(けっしょ)と言う事で家は没収され、先ごろ取り壊されたと有る。つまり所払いの上、闕所と言う裁きが下った様である。

 但し、この時お仕置きになった三名は山本五朗八、岩下惣助、柏木茂兵衛、であり立野丈助の名前は出て来ない、いったいどうしたと言う事だろうか。そして山本五朗八はずーっと揚り屋に居たのであろうか。※多分書き間違えか?

 この時御鷹匠同心三人の他、御鷹匠も一人処分されている。水上楠蔵と言う人物で文化六年の職員名簿では御鷹匠見習で、水上と言う苗字と名前の「楠」から判断して御鷹匠組頭水上楠右衛門の実子ではないかと想像出来る。

 さて、この水上楠蔵が日記に出て来るのは九月十一日で、「楠蔵殿このたび無産となり候」(無産:原文のママ)と有り、片山勇八は楠蔵から家財を売りたいので世話を頼まれて世話をしている。この中には印籠、燭台、銚子、さらに武士の命である大小も売っている。この楠蔵がその後どうなったかは書かれていないが、上の三人の事と合わせるとどうしても横暴を極めた鷹匠のイメージが沸いて来るのは私だけではないと思う。

 その後、十二月十二日の日記では欠員の生じた雑司ヶ谷部屋に、御鷹匠同心として藤沢左吉、長新九朗の二名が新たに配属になっている。多分この二人は閑職の小普請組から派遣された未経験者で、藤沢の方はかの有名な御鷹匠同心、中山善太夫(二代目)の弟子になったと言うから羨ましい話しである。さらに暮れの二十九日の日記では御鷹匠として稲生七左衛門が楠蔵の代わりに新たに加わり、欠員の補充は終了した様である。

 さらに十二月二十九日の日記では処分になった御鷹匠同心三人の妻子に対し、扶持米を願え出ていた所、「下し置かれ候」と有るから、処罰は本人の所払いと家屋の没収で済んだ様である。


※この一文を書き終わった後、資料を探してみると「続徳川実記」に「文政十一年九月十八日鷹匠水上楠蔵罪有りて禄放たる」と有り、又同じ日に山本五朗八(この人物は少々不明)の記事も見える。お互いにこの事実を証明している事になる。十八日は勇八が最後に残った燭台を取りに行った日で、燭台だけは最後まで残して置いたのだろう。また、楠蔵が楠右門の実子と解る。 この楠蔵は売り払った金を懐に江戸を離れて行ったのであろう。

※これにより、又新しい疑問が浮上してしまった。文化六年の職員名簿で鷹匠だった水上岩之助だが、その後楠右門の後を継ぐが、名前からして実は養子だと思われる。養子を貰った後に楠蔵が生まれたのではないか。

※もう一つ不思議な事が有る。それは実子が処分されたのに、その父親と兄に対しては何のお咎めがなかった事である。しかし、 水上家は岩之助の代になって、代々世襲してきた「御鷹匠組頭」の職には付けなかった様である。


参考文献:「続徳川実記」、「文化六年雑司ヶ谷職員名簿」、「御鷹匠同心片山家日常襍記抄」


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