夜据日記


作成2009年11月3日

このページの最終更新日は2015年10月17日です。

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 さて、「夜据日記」をこれから書き始めます。江戸時代には「夜据物語」と言う有名な著書も有りますし、故花見薫氏も「夜据日記」を書いておられます。三番煎じになりますが、このページでは鷹の仕込み方を中心にご紹介して行き たいと思います。実際に言葉だけで全てを伝え るのは難しいので、ここでは簡単な説明に留めますが、実際には見たり体験して頂くしか有りません。そんな意味で、間違った事が伝わらない様に一部は省略します。その代わり、基本と成る事に付いては詳 しく書きたいと思います。

  なお、現在の日本に伝わっている鷹狩りは、色々な生い立ちを持って今に至っております。この為、ある人から見れば邪道と映るものや、有名な流派を名乗っていてもその実態は中身の無い者も 居ます。また、運良く立派な指導者に出会えるかどうかは運命でしか有りませんし、 それを生かすも殺すも本人次第です。私は偉そうな事を言える程修行を積んだ訳では有りませんし、未だ研鑽が必要ですが、少しでも多くの初心者の方の参考になればと思っております。 なお、時々訳の分からない言葉が出て来るかも知れませんが、その時は質問して下されば、ページの内容を修正します。

1.これから始める方へ

 当然ですが、鷹狩をするには鷹が必要になります。ではどの様な種類を選んだら良いかと言う点ですが、本当に獲物の捕獲を考えるならば、メスのオオタカが一番です。そして、必ず網掛け (アガケ)の若(ワカ)と呼ばれる其年生まれの野生の鷹を捕獲したものを選ぶべきです。よく初心者には巣鷹(スダカ:雛から人が育てたもの)が良いと言われますが、これは冗談です。「巣鷹は鷹にして鷹にあらず」と言う様に一筋縄では行きません。人に 慣れる点では初心者向きですが、狩に使うにはそれなりの扱いを理解しないと無駄な時間を浪費するだけになってしまいます。吉田流では「巣鷹を仕込まずば、鷹匠に有らず」と言うほど最高位に挙げるほど難しい相手ですから、狩を目的にする初心者は止めた方が良いでしょう。 巣鷹はペットにするにはいいかも知れません。但し、うるさいです。


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 ここで余談にになりますが、かつて日本で流通していた巣鷹(オオタカ)の多くは密猟されていたものです。巣鷹を育てる飼い立てには悪い癖を出さない為の育て方が有りますが、密猟者にはその知識が無く、その中でも感性に優れた数人が手探りの中で仕込み方を編み出して有名になり、テレビに出ていたようです。 そのお影で多くの鷹が犠牲になっていたのも事実ですし、鷹狩そのものが密猟の原因で有るかのような捉られ方をされていました。

 さて、網掛け(アガケ:網等の罠で捕獲したもの)には個体差は有るものの基本通りに仕込めばそれなりに仕上がります。いま、雑誌や宮内省編「放鷹」のなかで紹介されている鷹の仕込み方は網掛けのものです。しかもほとんど人の手を介さずに 捕獲され、鷹部屋に繋がれた鷹の仕込み方になります。これは、江戸時代に御鷹場や取飼場等で捕獲されて鷹部屋に繋がれる野鷹(ノダカ:地元産)という物が有りましたが、この野生の野鷹の仕込み方に近いものです。 

 しかし、現在我々が仕込む事の出来る網掛けは海外から輸入され、しかも日本に来る前に人が与えた死肉を食べる事を教えらています。 これは江戸時代に各藩で捕獲され、一通り人に馴らしてから幕府に献上される献上鷹に近いものです。これにより網掛けの仕込みの最大の難関である食付かせ(クイツカセ:初めて人の手から餌を貰う事) は終わっているので、この部分は簡単に済ませて次の仕込みに入れます。これが所謂献上鷹に近いと言える所です。また、かなり人に慣れている固体が多いのでその点でも初心者向きです。

 これを読んでいるほとんどの人は鷹をペットショップから買われると思いますが、最近では残念ながら網掛けの入手が難しくなっています。猛禽類を専門に扱うペットショップのほとんどが専門の知識を持った お店ですから、良く相談して自分に有った鷹を手に入れて下さい。

 献上鷹の仕込みに付いては後ほど書きたいと思います。


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2.据拳(スエコブシ)

  鷹狩の基本中の基本と言うべき据えの基本になるのがこの据拳です。この据拳ですが、普通は拳を作ると言いまして、単純に言えば拳の握り方やその高さ、形が決められています。 形は上の写真を参照下さい。また、「日本の鷹狩」の一番最後の写真を参照下さい。

  今、一般に知られている吉田流も諏訪流もかつては拳の作り方は同じでしたが、吉田流の方は一般に流れた時点で新しい据拳が生まれ、二つに分かれてしまいました。 これは多分、・・・・・・・・の結果と思いますが、これに付いて言及するつもりは有りません。


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 次に、この据拳はハイタカ以下の小鷹では据拳の作り方が違います。小鷹の場合、上の写真の様に親指を持ち上げる様にして下さい。 また、「チョウゲンボウのリハビリ」に据えた写真が掲載されておりますので参照下さい。つまりは、親指に留めます。

 では、次に高さですが、鷹の頭が肩に掛かる位にします。ですから、鷹のサイズにより拳を上下します。この高さにしなくてはならない理由は省略します。 肩に掛かると言っても肘は直角以下には下げません。昔、アフリカクマタカを仕込んだ事が有りますが、身体の大きなものを肩の上に頭が乗る高さにすると肘から先が下がってしまいますが、 人体構造上それでは体力が持ちませんし、直角以下に下げる必要は有りません。それに据形が 良く有りませんし、日本では見た目も重要な要素ですから、据形を良くして下さい。据形が良いと言う事は、無理をせず自然な据え方が出来ていると言う事です。ちなみにアフリカクマタカはかなり据下 (スエシタ:体重)が有り、始めの内は10分も据えると片手では持ち切れなくなりましたが、一ヶ月も据えれば一日中据えても問題なくなりました。 なぜ、こんな事を書くかと言うと無理なく据える事が出来て初めて仕込みになれます。最初から拳が乱れていたのでは鷹に変な癖が付きますし、仕込みも遅れます。人によっては鷹が来る前に筋トレも必要かも知れません。


 2. 据廻し(スエマワシ) 

 据拳が静ならば、据廻しは動の据拳になります。日本の鷹狩りの基本中の基本です。

 この時に注意しなくてはならないのは拳の動かし方です。初心者が、吉田流の神輿据えの様に上下に無理に動かす必要は有りません。普通に据えれば問題有りません。何でもそうですが、この普通と言うのが難しいのですが、初心者の中には拳を微動ださせまいと必死で構えている人が居ます。、これでは本人は緊張で鷹の様子を見る事は出来ないし、鷹もその緊張を感じ取って安心して乗ってくれません。今、乗ると書きましたが、据えは鷹に拳を掴ませるものでは有りません。乗せものです。この言葉が理解出来る様になれば、あなたの据廻しもかなり良くなっているでしょう。  「据え転ばす」と言う言葉が有りますが、これは据え方が悪くて鷹をダメにしてしまう意味ですが、この言葉に現れる様に乗っている鷹を転ばさない様に据えて下さい。

 話を元に戻しましょう。普通に据えると言う事は、人の歩みに合わせて身体が緩やかに上下する動きに合わせ て拳も緩やかに上下します。決して無理に動かしてはダメです。自然の動きにまかせて下さい。

 さて、拳の動かし方が分かったら、次は歩き方です。先程話した様に拳を自然に動かすには、歩きも普通にしなくてはいけませんが、鷹の仕込みの段階で歩き方を変えます。仕込み始めはゆっくり歩きますが、いよいよ軒離れをして町の暗闇を訪ねて歩くにはゆっくり歩いていたのでは鷹を驚かしてしまいます。 現在、一般の人の飼育環境で仕込に適した場所に住んでいる人は少ないと思います。近くに適した場所が有ってもそこまで行く間に街灯の明かりで鷹を驚かしてしまいます。例えば、 暗い家の敷地から外に出る時に街灯の明かりや車が突然来るかも知れません。そんな時にゆっくり歩いていたのでは驚かして仕舞います。そこは鷹がぶら下る前に拳も揺らさず早足ですり抜けます。鷹も最初の内は周りの風景に怯えてますから、そう簡単に飛んだりしませんが、必要に応じて口餌をかじらせます。かじっている間に足早にすり抜けます。 (実際には鷹にかじる程の余裕は無いと思いますが)

 そんな訳で、始めの内(夜据)は鷹の様子を良く見ながら、歩き方を変えます。ここが一番重要で、私もこの「鷹の様子を良く見なさいと」教えられました。据廻しだけでも書ききれない量なのでこの位にしましょう。後一つだけ追加して置くと鷹を据えたら常に左側通行にします。左側から鷹を驚かす様な者が現れたら、 すぐにかわす事が出来なければ拳を高く上げてかわします。時間が有れば、右側に逃げる等の対応をします。 良く鷹狩の本に、後ろから来た人を大きく右側に回って正面から受け流す方法が紹介されていますが、こんなのは最後の最後の手でその前に何らかの方法で回避すべきです。 例えば、突然目の前を歩く人がぐるっと回ってすれ違って来たらどうしますか?貴方だったら怪しい人間と思ってじろじろ見ませんか。しかも何かを隠そうとしている様子は只者では有りません。これは鷹にも据前にもストレスになります。こんな事になる前に事前に回避して置きましょう。 この辺に据えの上手下手が表れます。先を読んで行動して下さい。


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 折角雨が降っているので、雨にまつわる据え方をご紹介します。(2009.11.11)

3.傘仕込み 

 今日の様に雨の降る日は人も鷹もやる気が出ません。仕込み上がった鷹ならば、軒下に据え出してしばらくしてから、定餌(定量)から少し減らして飼えば良いでしょうが、仕込み中の鷹では無理してでも据え出したい所です。雨の中で注意する事は鷹を濡らさない事です。特に仕込み中に濡らすのは良く有りません。 その理由は、体力的にかなり絞っている状態で雨に当てるのは故障の原因になるからです。野生の鷹ですからそう簡単に病気にはなりませんが、気を付けて下さい。


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 ここで助けになるのが傘据えです。ただ傘を差して歩くだけですが、まずは傘仕込みをしなくてはいけませんが、傘仕込みは後程紹介します。さて、傘になれたら早速傘を差して夜の町へ出かけましょう。傘の使い方ですが、始めの内は高めに持ち、慣れてきたら普段の位置にします。また、傘の色は黒か紺がいいでしょう。しかし、夜ですから交通事故には十分気を付けて下さい。傘の良い所は、据え廻し中に見せたくない物を隠せると言う所です。車のヘッドライトも防げますし、人も見せなくて済みます。もちろん傘は前方に倒して下さい。 但し、始めの内はゆっくり動かして下さい。早い時期に仕込んで置くと猟期中に雨や雪が降った時に役立ちますから、使わなくても傘事仕込みは一通りして置いた方がいざと言う時に役に立ちます。


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 さて、傘の変わった使い方を紹介しましょう。これは先に書いた内容に近いのですが、鷹を驚かさない為に目隠しに使う方法です。しかし、雨も降っていないのに傘を差して歩くのは恥ずかしいし、変な人に思われるので 余り使いませんが、本当に効果的です。ジャンプ傘だと便利ですが、急に開くと鷹を驚かして仕舞うので良く慣らしてから使うと良いでしょう。

 傘に馴らすには昔ながらの方法を取ります。それは、傘を開いて地面に置いて置きます。くれぐれも風で動いたりしない様にして下さい。そしてその傘の縁に餌を二切ればかり置いておきます。 後はこれを落とさない様に食べさせてあげればそれで十分です。本当は手明き (テアキ:助手)に準備して貰うのがいいでしょう。繰り返して慣れてきたら、手明きに傘を差させて又も同じ様に繰り返します。こうして慣れて来たら傘を開いたまま地面に置いて置きます。この時は今までと違い取っ手を上に向けて置きます。後はゆっくり 持ち上げて差して見て下さい。騒がしい自宅周辺から静かな場所までの移動に使うと大変便利です。(2010.10.28完)


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4.若大鷹馴ヶ之事(2010.10.28始)

 さて、お待たせしました。初めに紹介した献上鷹の仕込み方を紹介しましょう。

 これは、森覚之丞殿が著した鷹術四季書法儀(以下四季書)の冬の巻上に書かれている内の一つです。私が現代風にアレンジして書き直すよりもそのもを紹介した方が良いと思いますので出来るだけ原文に近い形で紹介したいと思います。なお、森覚之丞殿は多くの著書を著していますが、この四季書に付属した何冊の本が有ります 。それが「鷹術四季書付録」で、その最後にこの様に書かれています。 「右吉田流鷹術・・・・・・子孫へ傳へ候也然レ共猥ニ他見ヲ宥ササル者也」    弘化五戌申年春二月   森覚之丞正幸 

 ちょっと要約すると、「みぎよしだりゅうたかじゅつ・・・・・・しそんへつたえそうろうなりしかれどもみだりにたけんをゆるさざるものなり」となりますが、ここで言う子孫は直系の血族の事ですが、私が中身を紹介しても森覚之丞殿にお叱りを受ける事は無いと思います。

  若大鷹馴ヶ之事

一 若鷹は十一月下旬迄に献上鷹相揃馴ヶに懸り候事也肉十分に候ハバ初晩ハ丸鳩をしめ持茶碗に水をも用意仕戸を明ヶて鷹部屋に入直にたて鼠鳴しながら拳に据取又鼠鳴しながら鳩を鷹の足本に出し足上をそろそろなで廻して見候也其時拳へしがみ候ハバ足上に鳩を置折々少しづつうごめく様に仕毛引出し候ハバ持添居て鳩の胸の方十分に引て身に嘴を懸候ハバ 鳩を引据前口にて胸の皮をむきて足本に出し喰せ又鳩を引て様子を見都合片胸も飼て茶碗の水足本に出し水すくわせ其夜は其侭置て宜し

 さて、ここまでが初日の仕込み方です。文章の中に句読点が無く、漢字で書くべき所がひらがなだったりですが、馴れれば読み下すのは簡単です。この「若大鷹馴ヶ之事 」ですが、この後に注記が続きます。本来は一段下がって書かれていますが、それも面倒なので、注記と書いて記述します。

  注記

但若鷹ハ移し取より此頃迄夜飼昼餌飼又はこみ餌杯にて養ひ所々国風に仍て鳥餌計りに非ず獣杯をも餌飼候由承り及候也右ニ付格別肉不募分ハ餌付ケ至て心安き物也然れ共扱方手荒く仕置候ニ付訓馴ケに懸りてハ障り候事も有之候物也右馴ケは寒強時節ニ付若し肉不足時ハ肉を肥し置て馴ケ候方宜し又格別肉肥居候ハバ初晩不餌付事も御座候也然る時ハ永いぢりに不成様扱候方宜し又買鷹地移り杯にて寒に不成内馴ケ候ハバ格別宜敷捉飼も心安く出来仕候物也

 以上が一日目の馴けです。これが三十日目迄、毎日の仕込み方が記載されています。但し、このまま現代に変えて扱っても初心者の方では鷹を驚かしてしまうでしょう。特にこの中で注意するのは丸鳩です。丸鳩とは丸のままの鳩と言う意味ですが、絞めたものです。絞め方、作り方等色々作法が有りますが、とりあえず鳩の羽を大雑把に抜いて置きます。特に胸側の羽はしっかり抜いて置きます。しかし、ここで使っているのはキジバトですから、今のレース鳩や土鳩では大き過ぎます。鷹によっては驚いて暴れてしまいます。鶉か鳩の羽ずるを使えば良いと思います。


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 同二日目夜前夜之通り拳へ据取丸鳩折々喰せながら拳を架に宿し水をも飼五ッ過頃迄据片胸飼繋仕舞

 注記

但前夜より

 ここで一つ問題が発生しました。四季書をコピーする際にこの内容を公開する場合には許可が必要でした。ただコピーを載せるわけでは無いので問題は無いと思いますが、安全の為に現代語訳で記載する事にしました。これならば著作権は私の物になるので全く問題ありません。なお、公開は森覚之丞のページの鷹術四季書法儀に移動します。


5.肉合

 鷹の仕込みで一番重要な部分が一番後になって仕舞いました。肉合(シシアイ)ですが、鷹の健康状態や空腹状態、体力等を見る為に鷹の胸に触って太っているか痩せているかを見る方法とでも言うものです。此れに対して太らせたり痩せさせたりとする為に餌飼いの量を調整する事を肉当(シシアテ)又は肉当ると言います。肉当ては体重調整をする為のものではなく、獲物に向かって行き取り逃がさない為の鷹のコンデション作りと言った方が良いでしょう。この為鷹の仕込み状況や狩での獲物の種類や地形でも微妙に調整する必要が有ります。現在ではそこまで厳密に考える必要は有りませんが。

つづく

 

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