鷹部屋日記T

作成2007年9月17日

このページの最終更新日は2012/06/25です。

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 さて、「鷹部屋日記T」の始まりです。このページでは伝統的な鷹部屋の構造と夏季の鷹の飼育方法をご紹介します。鷹部屋は春から秋に掛けて塒を飼う(トヤヲカウ:鷹に換羽を行わせる事)為の機能と、秋から始まる仕込みとそれから続く猟期間中は中を暗くして鷹を繋いで置く為の機能を持った小屋です。

 これから紹介する鷹部屋は、日本の伝統的な物で、この鷹部屋の原型になった物は大正時代に作られた現存する三棟の鷹部屋の一つで、戦前に発行されたある 有名な鷹狩りの本に写真が掲載されています。また、堀内讃位氏の「写真記録日本伝統狩猟法」と言う本に出て来る鷹部屋と同じ物です。ただ全てを同じにした訳では有りませんが、図面が有るので同じ物を作る事も可能です。※下記の説明の中でオリジナルと表現しているのは、この鷹部屋を指します。

 現在ではこの様な鷹部屋を使っている人は少なくなり、コンパネで作られた物や海外のそれを真似たものが主流になって来ている様です。ただ日本古来の鷹の仕込み方をすると鷹部屋の構造が仕込みと連動した構造になっている事に気付かされます。また、鷹部屋は本来この様に開けた場所に設置する物では無く、 屋敷林の中に設置されていました。この為、夏の暑さ対策の為に現在では構造を変えています。この鷹部屋の左側に架場が設けて有り、鷹が繋がれているのが見えます。

1.軒先(ノキサキ)


 鷹部屋の中で意外と注目されないのがこの軒先です。大きく張り出して鷹部屋の形を大きく特徴付けています。また鷹の仕込みの中にはこの軒先を使った 軒先仕込みが有ります。

 鷹部屋内で行う架据(ホコズエ)が終わるといよいよ鷹部屋の外に出て行く訳ですが、突然外に出て行ったのでは鷹は驚いてぶら下ってしまいます。この為、架据えが始まると戸を少しずつ開いていきます。今日が1センチなら明日は3センチと架据えをしながら少しずつ戸を開いて外の光を入れていきます。無論これまでの仕込みは全て真っ暗闇の中で行われます。

 そしてこの軒先に初めて出る頃を新月に合わせます。鷹部屋の戸が丁度人が通れる位に開いた所で、鷹に外をみせます。これで大丈夫なら口餌を掛けながら軒先に出ます。そしてすぐに戻り、出入りを何回か繰り返すともう口餌は不要になります。夜の軒先は昼間の日陰のように月光が遮られて鷹部屋と外界を繋ぐ緩衝地帯の役目をします。最低でも2日はこの軒先で鷹を据える軒据えを行こないます。軒据えを行っている最中でも何かに驚いたりするとすぐに鷹部屋に逃げ込みます。この軒先は鷹部屋の延長で、軒先を離れる軒離れ(ノキバナレ)をしたとたんに鷹の態度が変わります。この為、軒離れをしても鷹部屋の前の芝生で鷹を据えて何か鷹に変化が有ればすぐに軒先に戻ります。

 軒離れをした後の軒先は鷹にとって休憩所の役目をはたしてくれます。最近では軒据えの出来る鷹部屋が少なくなって来ています。 

2.無双窓(ムソウマド) 


 昔はこれが一般的な窓だったようです。古い民家には今も残っていますが、窓と雨戸が一体になった様な物で、均等に開口部が出来るので、今の窓の様に半分開いて半分閉じているような換気効率の悪さは有りません。オリジナルは中央に一つ付くだけで、小屋根も有りませんが、3連にして換気能力を高めています。また、鷹を仕込む為に鷹部屋内部を暗くする時にはこの窓も閉めます。この窓を閉めると廊下は真っ暗になってしまいます。

 余談ですが、架据えの最中に鷹部屋から抜け出して廊下で据える事も有ります。

3.廊下(ロウカ)


 普通鷹部屋に入る時に一番最初に入るのがこの廊下です。鷹部屋にとってはバックヤードにあたります。塒を飼う時に鷹の世話をする為の通路で、この廊下に面して餌窓、餌差口、水差口、臆病口があります。

4.嵐戸(アラシド)


 単純に鷹部屋の正面の出入り口です。猟期及び仕込みの時だけ使います。一本引きの板戸で、普通の戸は上に持ち上げると簡単に外せますが、この戸は外せません。

5.嵐窓(アラシマド)


 今で言うトップライト(天窓)です。オリジナルは鉄格子に金網が張ってありますが、今はステンレスの丸棒を入れ、金属製のネットを張っています。文字通り雨風を入れる為ですが、水はけを考えないと夏場は鷹が蒸れてしまいます。換羽期には開けて、仕込の時には蓋をして鷹部屋を暗くします。

6.格子戸(コウシド)


 猟期が終わると嵐窓を開き、架、隅架、餌棚、休棚を取り付け、水舟の蓋を外し水を張って鷹を放します。鷹の状態によりより設置する時期を変えたりしますが、最終的には全てを設置します。その後、格子戸をはめた鷹部屋の嵐戸を開きます。これで塒の準備が出来あがりです。 但し、オリジナルには有りません。

7.塗札(ヌリフダ)


 鷹の名札です。書き方にも決まりが有りますが、今は省略して墨で鷹の名前と朱で鷹の種類を書いています。朱で書かれた鷹の種類はこの写真では見にくくなっていますが、「弟」と書いてあります。オリジナルは、据前の名前(○○鷹匠)と書きます。

8.臆病口(オクビョウグチ)


 廊下から鷹部屋内に入る為の出入り口です。腰をかがめて出入りしますが、使うのは塒の間だけです。

8.水差口(ミズサシグチ)


 塒の最中に鷹部屋内で水浴びをさせる為に設置している水舟に水を入れる為の口です。但し、水舟の蓋を取り出す為に水舟と同じ幅が有ります。昔は水差を使って水を入れていましたが、今はほとんどが水道配管が繋がって蛇口をひねると水が供給されるようになっています。

9.水舟(ミズブネ)


 塒の間は常に水を張って何時でも水浴びが出来るようにして置きます。オリジナルはモルタルで出来ていますが、これは木製です。また、オリジナルよりも大きさを一尺小さくして二尺四方にしていますが、これで十分です。また、このサイズですとウチ(糞)が入る事はほとんど有りません。小鷹で有れば一尺五寸四方とします。写真の上に見える板は水舟の蓋ですが、普通は水差口から抜いて使います。 左側に水差し口が見えています。

 排水管に繋がっていて、使わない時は水を抜き、蓋をして置きます。今はセメントと御影石に変更しています。

10.横架(ヨコボコ)


 鷹部屋の中心を貫く架です。隅架に対して中心になる架で、横架と呼びます。さてこの横架は隅架と同じく特殊な断面をしています。多分これは中途半端な広さの鷹部屋で鷹を飼うと足の裏に魚の目の様な物が出来る鷹の病気対策に考え出された物だと思います。これに付いては別に「鷹部屋考」で触れたいと思います。

11.隅架(スミボコ)


 隅に有るから隅架と言うのでしょうが、鷹部屋の中で鷹が雨に打たれたり日光浴をする為に考え出された物で嵐窓の下に置かれています。後ろの壁は鷹のウチ(糞)で汚れています。

12.架受(ホコウケ)


 架や隅架を受ける台です。

13.張架(ハリボコ)


 「日本の鷹狩」の中でも紹介していますが、この上に鷹を留め、詰め(絶食)を行います。この状態を張架と呼びます。張架と言う物が別に有るのではなく、あくまで架に架垂れ(畳表)を掛けて山形に張った状態を表します。無論架の高さは常の高さより一段下の架受けに掛けます。仕込みが進めば元の高さに戻し、張架も止めて普通の架垂の状態にします。

14.休棚(ヤスミダナ)


 休棚と言うのでここで鷹が夜寝たりするかと思いますが、鷹によっては余り利用されていない棚です。しかし、中には隅架よりこの休棚を好む鷹もいます。この休棚は取り外し式で、外して洗う事が出来ます。特に隼類を飼う場合にウチで汚れるので外せる様にしています。オリジナルは折り畳み式です。

15.霞天井(カスミテンジョウ)


 茶室にもこの様な天井を張ったものが有りますが、古い塒などでは屋根を掛けないで霞天井だけの物も有りますから、その流れで今も付けられているのかも知れません。嵐窓から鷹が逃げ出す事が出来ないので有れば、必要無い設備かも知れません。霞天井は塒を一回飼うと竹が雨で濡れてかなり傷んでしまいます。この為必要に応じて張り替える必要が有ります。最近ではホームセンターでも同じ様な竹の棒が売られていますが、何故か霞天井に使うサイズのものだけが売られていません。最近では塩ビ管で代用する人も増えています。

16.餌差口(エサシグチ)


 ここにドロ板を差込み、次に餌差板を差し込みます。つまり鷹に餌を飼う為の餌の投入口です。オリジナルには取っ手は有りません。別の物が付いています。

17.餌窓(エマド)


 餌差口の上に有る覗き窓です。縦に入っている棒は本来竹を使いますが、サイズを一分太くして木の棒に変更しました。餌窓と餌差口との間には一定のスペースを置きます。

18.餌棚(エダナ)


 餌差口に続く台で、この台でドロ板を受けます。これは取り外し式ですが、オリジナルは折りたたみ式です。折畳式の場合は餌差口の部分の構造が少し違います。取り外し式にするのは汚れた時に取り外して洗う為です。

19.ドロ板


 まず、餌差口にこのドロ板を差し込みます。ドロ板の目的は餌棚の汚れ防止の為です。作餌なので、餌を何処かに持って行って食べる事は出来ませんが、やはり肉片が回りに散らかる事が有ります。この時にドロ板がこの肉片を受け止めて、鷹部屋内の汚れ防止をしてくれます。餌の作り方から給餌方法までを考えると、人間の管理化に於いて効率良くバランスの取れた食事をさせて、しかも内部を清潔に保つ工夫の結果と思います。下の餌差板共に写真撮影の前に水で洗ったのでニスを塗った様に光っています。

20.餌差板(エサシイタ)


 作餌を乗せ、ドロ板に差し込んで給餌する為の物です。小餌板に対して大餌板と呼ぶ場合も有ります。

21.小餌板(コエイタ)


 もっぱら鷹の仕込みや巣鷹の飼立て(成育)に使います。餌差板もこの小餌板も略して餌板と呼びます。

22.長餌板(ナガエイタ)


 小餌板(コエイタ)に四尺の竹の柄を付けた様な物で、切飼い鷹に餌を飼う時に使います。切飼い鷹とは癖の付いた鷹を鷹部屋の中に一ヶ月位繋いで置 く方法で、その間に餌を飼う為に使います。しかし、現在ではこの様な飼い方は必要ないでしょう。

 なお、切飼い鷹にはもう一つの意味が有り、仕込みを中断しなくてはならなくなった鷹を繋いだまま鷹部屋内で餌を飼う場合や、入手してからすぐに仕込みには入れ無い鷹で、ある程度人に馴れている場合に、繋いだまま餌を与える時に使います。つまり、昼間拳の上で餌を食べる程馴れていないが、鷹部屋の外からならこの餌差し板の餌を食べる事を許容する鷹の場合に、状態を維持しながら飼って置く為の方法です。

 また、仕込みの途中に餌を追加で与える場合にも使います。

 これはオオタカ用です。ハイタカ用はもっと細身になります。

23.エスケ台


 鷹部屋の設備の中で意外と知られていないのがこのエスケ台です。鷹に水を飲ます為のエスケを置く為の台です。しかし、ちゃんと高さも決まっています。昔ならば、エスケ台の下に手桶と柄杓が置かれる事になります。オリジナルは鷹部屋の間に付いてもっと簡単なものです。鷹部屋で使うならば昔の様に茶碗(写真の様な昔の浅いご飯茶碗)がいいでしょう。

24.温度計


 室温の管理も今では重要な要素です。鷹部屋毎に デジタル式の温湿度計を設置して、温度と湿度を管理をしています。

25.塵取り


 塒の間でも毎日鷹部屋内に入って落羽(オチバ:羽)を拾ったりウチを片付けたりと作業をします。

26.篩い


 床には特別な砂を敷き、この砂を篩ってウチなどの汚れを取り除きます。市販品です。


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