チョウゲンボウのリハビリ


作成2007年7月26日

このページの最終更新日は2015/09/23です。

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※カラスに襲われてケガをしたチョウゲンボウ(長元坊)を預かる機会が有り、そのリハビリの様子を紹介します。私は決してリハビリの専門家では有りませんが、今までの経験から最良と思われる方法で対応しました。また、リハビリの様子をを紹介する事で、少しは今後リハビリに関る人の役に立つ事も有ると思い、あえてこのページをアップしました。この世界(日本)では、日本ワシタカ研究センター 所長の、中嶋欣也氏が一番の専門家と聞いております。しかし、一般には情報を公開されていない様です。

去年の末頃、インターネットの検索に「日本ワシタカ研究センター」が引っ掛かって来ました。情報公開を始められた様です。リンクは張って有りませんが、ぜひご覧下さい。(2008年6月10日追記)


  ケガをした野生鳥獣を保護をしたからといってそのまま飼育する事は許可されていません。今回のように治療及び放鳥を前提に短期間の飼育行う場合は暫定的な処置として許されるそうですが、一般家庭で怪我をした鳥獣を保護してケガが直った後もそのまま飼い続ける事は法律に抵触しますし、鳥の場合適切な治療を出来るだけ早く行わないと二度と飛べない体になってしまう事も有ります。ケガをした鳥を保護したら、近くの動物園又は鳥獣保護センターへ連絡して下さい。

 なお、一部の考えには野生の鳥獣が天敵に襲われてその餌食(えじき)と成るのは当然の事で、そこに人が介在する事自体自然破壊だと言う声があります。これは正しい意見だと思いますが、ことカラスに関しては数が増えすぎて反対に被害が増えすぎたきらいが有ります。現代でも江戸時代のようにカラスの巣を取り払って数をコントロールする必要が有ると思いますが、現在の法令では不可能な話です。

1.はじめに

 猛禽類のリハビリに関して鷹狩りの技術が有効である事は事実ですが、それは獣医師との連携により達成されます。ケガの治療には物理的、化学的手法が必要ですが、いざ野生に返す段階では鷹狩りの技術が有効になります。ケガが完全に治療されたとしてもただ放したのでは、たとえ野生の鳥でも生きて行くのは大変難しいものです。それは獲物を取るには完全な飛翔力(筋肉)と経験等が必要だからです。特に猛禽類の場合、外見は普通に見えても長い事空を飛んだ事の無い鳥が普通に獲物を狩る事は非常に難しく、場所を確保するのも大変です。

 そこで鷹狩りの技法を用いたリハビリが必要となります。日本でも県や市町村単位で鳥獣保護センターが作られ、傷病鳥獣の保護が行われています。中には鷹狩りの技術を取り入れて野生に返す努力をしている所も有ります。

 出来る事ならば国が専門の研究機関に資金を出してトレーナーを養成し、リハビリと野生に帰れない鳥を繁殖に回して子供を自然に帰す等のリハビリセンター作ってもらいたいと思っています。

 

 さて、地域によっては猛禽類の中で一番多く保護されるチョウゲンボウは人になれ易い性質を持っています。但し、気をつけなくてはいけないのは普通、鷹の仕込みでは始めに餌を抜いて人になれさせますが、 リハビリ中の鳥を仕込むには十分に餌を食べさながら仕込んで行かなくてはなりません。それはケガを直す為に十分な栄養が必要だからです。そして野生に帰す段階では日本野鳥の会創設者の故中西吾道氏の用いた手法を応用して放鳥します。

2.チョウゲンボウの繁殖

 昭和17年長野県の喬木村で日本で初めて繁殖が確認されたチョウゲンボウ。そして昭和26年には長野県中野市十三崖で集団営巣地(コロニー)が確認され、28年には繁殖地が国の天然記念物に指定されました。その後、昭和30年台に入り各地で集団営巣地が発見されましたが、年々繁殖数が減ってついには「幻の鳥」とまで言われました。

 昭和50年代に入ると野生のチョウゲンボウが街中のビルで繁殖したと言うニュースが長野県で初めて報じられました。その後、山梨県でも繁殖が報告されました。これらの場所は元々野生のチョウゲンボウが断崖で繁殖していた地域で、自然の営巣地が失われて新しい繁殖地を求めて環境の似た街中のビルに移り住んだと言う事でした。

 当時、ロンドンのアパートでチョウゲンボウの繁殖が報告されていましたが、それに続く出来事で世界的にもめずらしい事でした。その後、新しい生活環境に馴れたチョウゲンボウ達は新しい営巣地を求め次々に都会に進出して行きました。そこはビルの屋上だったり、鉄塔や橋脚と広範囲に及び最近では東京近郊の町でもかなり高い確率で目撃出来る様になりました。

 さて、チョウゲンボウはハヤブサの仲間なので、自分から巣を作ったりはしません。そこで自然の断崖の岩が抜け落ちて出来る岩穴に営巣したり、カラスの古巣などを流用していました。この為、繁殖場所は限られ、一ヶ所に集中(コロニー)する事になりました。

  チョウゲンボウが自然の断崖で繁殖している頃からカラスはチョウゲンボウの天敵で、卵が食われて繁殖が失敗したなどと言う話も良く聞きました。これがチョウゲンボウが都会に進出していく一つの要因だったかも知れません。今でもカラスはチョウゲンボウの個体数の増減に大きく関っています。反対に営巣地を分散した事により数を増やす事ができたのかも知れません。

自然の繁殖地


  チョウゲンボウの繁殖地の写真です。自然の断崖で、営巣に都合の良い岩孔が所々に開いて、また所々に岩が飛び出して止まるのに丁度良い構造になっています。黒い点が穴で、白く見える点が糞の跡です。

 最近では大規模な集団営巣地は失われましたが、長野県、山梨県、群馬県にはこの様な構造の断崖が今でも多く有り、多くのチョウゲンボウが繁殖しています。特に特別な場所に行かなくても主要な県道を車で走っていると見る事が出来ます。この写真の崖の下はぶどう畑ですが、その横を県道が通っています。現代社会に適応して数を増やしつつ有るようです。

3.チョウゲンボウのリハビリ

  我が家から半径2キロ圏内のビルや鉄塔、橋脚にそれぞれ一番(ひとつがい)づつチョウゲンボウが繁殖しています。私はチョウゲンボウの観察は興味が無いのでしませんが、犬の散歩に良く行く河原の橋脚でも繁殖していて、巣立った若鳥が2、3羽止まって居る所を良く見ます。2004年の春、その内の鉄塔の巣でチョウゲンボウがカラスに襲われる事件が有り ました。襲われたチョウゲンボウは近くの屋根に落ち、カラスに食われかけている所を運良く下に落ちて来て通行人に助けられたそうです。そしてリハビリの為に我が家にやって来ました。※この辺の経緯(いきさつ)は本論から外れるので省略します。カラスは春先の一番餌の少ない時期から、自分の子供が巣立って大量に餌の必要な7月に掛けてドバトやチョウゲンボウを始めとする鳥の成鳥や卵、雛や巣立った子供を襲って餌にします。我が家の周りでも春先はスズメとツバメが良く犠牲になっていますが、最近ではカブトムシまで食い始めて困っています。

保護された直後のチョウゲンボウ


 上の写真では人に対して威嚇行動を見せてますが、カラスに殺されかけ、今度は人間に捕まり極度のストレス下に有ると思います。ただケガをしているので飛ぶ事は出来ません。はいつくばって逃げるだけです。この様な場合、すぐに上着を脱いでかぶせると鳥を落ち付かせて保護出来ます。写真は輸送されて来た車の中で撮影した時の物です。証拠写真として撮影したもので、特に公表する積りも無かったので、あまり多くの写真は残っていません。これからリハビリの様子を紹介するに当り、もっと写真を撮っておけば良かったと今になって後悔しています。


 上の写真の左側の脚に茶色い筋が見えますが、これがカラスにやられた時の痕です。運良くこのチョウゲンボウは骨折して無かったので、特別な治療も必要なく、十分な餌とリハビリを行うだけで回復しました。鳥は新陳代謝が早く、骨折したまましばらく放って置くとすぐに癒着して飛べなくなったりするそうです。

体重測定中のチョウゲンボウ


  「日本の鷹道具」でも紹介しました架秤(ほこばかり)に乗せて体重測定をしている所です。特にリハビリ中の鳥には必需品です。知らない間に体重が落ちている事がない様に毎日決まった時間に測定して健康管理をします。我が家に来た時はやや痩せ気味の190グラム(♂)でした。

仕込み上がったチョウゲンボウ


 放鳥を前提としたリハビリの場合、鳥を人に馴らし過ぎない様にしないといけないと言われますが、チョウゲンボウの場合はどうでしょうか。鷹狩りでは、何物にも驚かないように鷹を仕込みます。この為、仕込む本人以外の人にも馴らして誰の拳にでも乗るように仕込みますが、この時に他人を仕込みに介在させないと、仕込んだ本人が据えている場合、他人が近くに来ても恐れませんが、他人の拳には乗ろうとはしません。ケガの治療及びリハビリを考えると特定の個人に馴させる事は大切ですし、ストレスを与えずにスムーズに治療及びリハビリが行えます。そして放鳥の段階でこの馴れが重要な働きをします。また、放鳥後社会復帰出来なかった場合、再度人に救助される確立が高くなります。

台架の上にて


 フード(遮眼革)をして台架に載っています。フードに付いては別の機会に詳しくご説明しますが、このフードは一寸変わったデザインをしています。パキスタンではもう使われなくなった古いデザインの物を一式買い求めて来た物の一つです。下のアラブスタイルのフードと比べると角張っていまが、この角張っている所に秘密が有ります。この突起のお陰でフードが眼球に当たる事は有りません。日本製の頭巾(日本の鷹道具参照)やアラブスタイルのフードでは、フードを外してみると眼球に当る部分が良く濡れています。原因はフードが眼球に接触しているからです。ヨーロッパやアメリカで売られている1万円近くする高級なフードでもやはり眼球に接触する物が有ります。その点このフードは眼球を傷つける事が全く無く、非常に優れています。またワンタッチで装着できる点も特徴です。ただ、残念な事に日本と同じで古い物はかえりみられない為、最近ではアラブスタイルのフードが主流になってしまっていますし、作る人もいないと思います。

 上の架秤(ほこばかり)に乗っている時に使っているフードはアラブスタイルの改良品で、目の部分が盛り上がっていて、眼球に接触する事は有りません。折角傷の治療をしているのに目を傷めてしまっては放鳥どころでは有りませんので、チョウゲンボウに限らずフードを使う場合はこの点に注意して下さい。

 折角フードの話になったので、もう少し説明しておきます。フードはハヤブサ類に使う目隠しですが、これをすれば視界がさえぎられて大人しくなりますし、全く人になれていない鳥でさえ拳に乗せる事が出来ます。保護されたばかりで人に慣れていない時に強制給餌する場合もフードをして行うと簡単に出来ます。この鳥では翌日には餌を持って行くと自分から食べるようになりました。兎に角、体重を落さないように十分に食べさせる事が大事です。

チョウゲンボウの輸送


 チョウゲンボウの輸送は安全の為、フードを被せ、座席に麻袋を掛けて止まらせます。麻袋を掛けるのは爪が良く刺さるので、運転中の揺れでも安定するからです。決して最近はやっている人工芝は使わないで下さい。脚が浮いて安定せず、鳥にストレスと疲労を与えるだけです。また、フードを被せてしまえば人や物事に慣れていない鳥でも落ち着いて、ストレスを与えずに運ぶ事が出来ます。ハヤブサ類の場合は、肩衣(かたぎぬ)で翼を拘束している時以外はあまり箱などに閉じ込めない方が良いと思います。

台架に繋がれたチョウゲンボウ


  人に馴らすのが目的では有りませんが、野生に返す段階で一応飛行訓練をする必要が有ります。この為、一度人間(トレーナー)に馴らします。

 先にも書きましたが、狭いケージの中で飼われていた鳥が元気になったからと言って急に放されても何処へ飛んで行ったら良いか分かりませんし、生活の基盤が無いのですから、すぐに獲物を取る事も出来ません。それにそんな自信の無い飛び方をしていたらすぐにカラスに狙われてしまいます。長い間ベットに寝ていた人間に、今日からフルマラソンをさせるようなものです。訓練と言っても誰にでも慣らす訳ではなくトレーナー以外の人間には基本的に慣らさないようにします。それに野生に帰して1週間も生き抜ければもう問題は有りませんし、雛から育てたので無ければ2週間もすれば人間の事等忘れて飛んでいます。

 

 さて、無事元気に飛べる様になったとします。次は放鳥方法ですが、大きく分けて3種類有ります。

 一つはハヤブサの人口飼育した個体を野生に返す方法の応用で、野生のチョウゲンボウが繁殖している場所と同じ様な場所(ビル等)に木箱を設置して巣立ち前の雛を入れ、この箱に塩ビ管を繋いで人が介在しないように餌を給仕して十分に外界に慣らします。そして巣立った鳥はしばらくはここに戻り給餌を受けながら野生に帰っていくと言う物です。この場合の欠点は場所の確保と常に人が監視して外敵から守ってやる必要が有ります。大きい鳥ならともかくチョウゲンボウではカラスの餌食になる可能性も有ります。これを成鳥に応用する場合は巣に当る部分を4m四方くらいのネットで囲み、この中で給餌して外界に慣らしてからネットを取り外すと言う物です。やはり雛と同じでしばらくはここを中心に生活圏を広げて行くと言う考えです。

 

 もう一つは日本のトキやコウノトリの様に大きなゲージの中に放して出来るだけ自然に近い状態で生活させてから自然に帰す方法です。この方法はお金が掛るので民間では不可能ですし、それほど貴重でもない鳥に国家予算を当てる訳には行きません。また、いくら野生に近いと言っても所詮カゴの鳥ですからただ放したのではその後生きて行ける確率は低くなります。池のドジョウを啄ばむのとは違い、野生の生き物を狩らなくてはいけないのですからそう簡単では有りません。

 

 最後に鷹狩りを応用した方法ですが、これは個人単位で出来る事と鷹狩に使う訳ではないので、それほど難しい技術が必要(本当は鷹狩りも難しい技術では有りません。ただそう思われているだけです。)な訳ではなく、基礎を学べば誰でも簡単に出来る事が特徴です。そしてこの3種類の中では一番野生に帰る確立が高い方法です。但し、個人が行うので金銭面や時間的な制約を受けます。また、飼育や訓練、放鳥時に際してある程度のスペース(土地)が必要になります。簡単に説明すると放し飼いにし、少しづつ自然に復帰をさせる方法です。鷹狩りを応用しなくても出来ますが、鷹狩りを応用しない場合1年近く掛りますが、鷹狩りを応用すれば2ヶ月程度で自然復帰が可能になります。

 ここでは鷹狩りを応用したリハビリ方法及び、故中西吾道氏の用いた手法を応用した放鳥方法を出来るだけ詳しくご紹介します。なお、ページ数の関係で別ページでご覧下さい。

 

リハビリと放鳥

※一部公開中ですが、こちらからのみ閲覧可能です。

4.海外の状況

 今から十数年前になりますが、仕事でアメリカ滞在中にヨセミテ国立公園に行く機会が有りました。ヨセミテ国立公園へ観光に行った訳ではなく、純粋に国立公園から依頼された仕事に同行したのですが、お陰でこの時期車の乗り入れ禁止になっていた区域にも入れましたし、ロッジもタダで泊めてもらいました。

ヨセミテのシンボルハーフドームをバックに


 

ビジターセンター内の展示

 

 上の写真はヨセミテ国立公園内で行われているハヤブサの保護活動のパネル展示です。DDTの影響等で繁殖数が激減したハヤブサを人工孵化で増やして自然に帰す活動の紹介ですが、詳細はまた別の機会に紹介します。ここで蓄えられた多くのノウハウは民間の保護団体にも受け継がれて行きました。


 民間のボランティア団体が運営する地域の野生動物保護センターの開所式が有り、参加する機会が有りました。開所式と言ってもセンターハウスが新しくなったお祝いで、すでに活動は行われていましたが個人の広い敷地内に幾つもの小屋が建ち主に鳥類が保護されていました。


 アメリカは自然保護活動に対して民間のボランティア団体の活動が非常に活発で、私財を投じて色々な設備を作ったりしています。それも今から20年も前に普通に行われていたのですから、やはり自然保護先進国と言えるでしょう。


 下の写真は猛禽舎で、この中では野生では生きて行けないノスリを使った自然繁殖が試みられていました。この時、メスが巣の上に居ましたが未だ産卵はしていませんでした。


 センターハウス内では小鳥への給餌が行われていました。日本では見られない独特なケースが雛を入れる為に使われていました。





 怪我をして飛べなくなったフクロウも何羽かいましたが、丸太をそのまま入れてある所などアメリカらしく関心させられました。それに土地が広いせいか小屋が大きいのも鳥のためには良いようです。


 鳥ばかりではなく山猫も保護されていましたが、日本と比べると自然の豊かさは比べ物にならず、カナダガンや鹿がその辺に普通に居る国ですから人々の自然保護に関する関心が高いのもうなずけます。


 今回お届けしました「チョウゲンボウのリハビリ」はいかがでしたでしょうか。「リハビリと放鳥」は今回のアップロードには間に合いませんでしたが、チョウゲンボウのリハビリに必要な道具や方法を出来るだけ詳しく紹介できる様現在製作中です。また、実際にチョウゲンボウのリハビリを行っている方で道具類を希望される方には提供出来るように準備しています。

 

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