【オランダ・ドイツ・プラハ】
二年ぶりに10日間のヨーロッパ旅行をしてきた。美術館、コンサートの情報を交えて特に印象に残った事柄について書く。
オランダ ハーグにあるマウリツハイス美術館はフェルメールとレンブラントの名作を所蔵し,貴族の館をそのまま展示室としているこじんまりしたとても魅力ある美術館だ。
アムステルダムから国鉄で40分。中央駅からぶらぶら歩いて15分。10時半頃美術館に着いたのだが(開館は
10時)、びっくりするほどの人が群れている。なんとルーベンスとブリューゲルの特別展を開催中ということらしい。平日とあって年寄りばかり、しかもツ
アー客らしくそこかしこ主な絵の前でガイドが解説している。特別展となると人が押し寄せるのは洋の東西を問わないらしい。
小さな美術館だけにこの状況はなんとも辛い。この波が押し寄せる前にと急いでお目当ての3階のフェルメールの
部屋に上がる。嬉しいことにこの部屋だけは静かだった。僕の大好きな“青いターバンの少女“と”デルフト遠望”に再会できた。ラピズリーブルーという高価
な絵の具で描かれたターバンを巻き、口を半開きにした少女がこちらを振り返って見つめている。4年前にこの絵を見て以来、少女の瞳とターバンの青を僕は時
々思い起こしている。
アムスへの帰り道、ライデンという街に途中下車してみた。レンブラントの生家があり、風車博物館もあって上ることもできるとガイドブックにあったからだ。前回航空機の中で隣り合わせた女性がライデンに住んでいて、静かでいい街ですよ、と話していた事も記憶にあった。
運河が交錯し、落ち着いた街だった。町中に風車?とミスマッチを心配していたのだが、それは杞憂だった。オランダらしい町が歩きたい人にはここはお勧めです。
アムステルダムにはコンセルトヘボウという有名なホールがある。ここでは毎週水曜日の12時半から30分間、
無料のランチコンサートが開かれる。演目は様々でオーケストラコンサートもあれば声楽、室内楽もある。(僕たちが聞いた次週は三味線と琴の演奏会だっ
た!)演目により小ホールが使われるときもある。
12時10分くらいにホールに着いたらすでに長蛇の列。20分すぎに入場開始、入れるのかいなと危惧していた
のだが、何とか入れた。(90%以上の入り。)でもいい席は取れず、オーケストラ奏者のすぐ横の席に座った。僕たちの目の前にはハープが並んでいる。でも
ここは普段は後ろ姿しか眺められない指揮者の顔を見ながら音楽が聴けるという、結構おもしろい席だった。位置が偏っているので、残念ながら定評のあるまろ
やかなホールトーンは堪能できなかったけれど、楽しめた。ホールは国立美術館やゴッホ美術館のすぐそば。運良く水曜日にアムスにいるならば絶対にいくべ
し。
ベルリンではカラヤンサーカスと揶揄される、奇抜なデザインのフィルハーモニーホールでベルリンフィルの演奏
を聴くことが出来た。2時過ぎにチケット売り場に行き今晩の席はありますか?と尋ねたらすんなりと入手できた。一番安い席は6.5ユーロでこれはオーケス
トラのすぐ後ろで、背もたれがないという。次は18ユーロ(約3000円、VISAカードOK。ネットで取ることもできる。手数料は1ないし2ユーロ程
度)で天井に近い席。こちらに決めたのだが本当に高いところだった。楽団員が豆粒のように見える。演奏が始まって驚いた。音の一つ一つがはっきり聞こえ、
といっても勿論ばらばらでなく、まとまりのある豊かなホールトーンとして聞こえてくる。こんなにたっぷりとした、かつ美しい音は初めて聞いた。こんな音はCDでは絶対に再生できない。スタイリッシュで美音にこだわったカラヤンの真骨頂を実感した。彼の最大の遺産は膨大な録音ではなく、このホールではないのかとさえ思う。ここで彼の演奏を聴いてみたかった。
ところで当夜の出し物は魔弾の射手序曲と、ヒンデミット、ブラームスの交響曲第2番。すべてドイツプログラム
なのがうれしい。指揮はコンセルトヘボウの桂冠指揮者ハイティンク。ウエーバーの冒頭深い森の奥から響いてくるようなホルンの音が、前述のようにあいまい
さの全くない明瞭な音で聞こえてくるので、ずいぶん軽い曲になってしまっている。ブラームスも同様、淡々と牧歌的な曲想をのどかに歌う、といった感の演奏
だった。でもこんな素晴らしい響きのホールで、どんなスタイルで演奏されても不満を覚えるはずがない。
ベルリンという都市は、道が広く、車が多く、戦争で徹底的に痛めつけられているので、街歩きをしても楽しくな
い。でも美術館と音楽に関しては超一流の都市だと思う。(僕が心引かれるベックリンとフリードリヒの名品が多数ある。勿論名画はそれにとどまらない。)
帰った直後はここはもういい、と思ったけれど、あの音を聞きにきっと行きたくなると思う。
それにしても寒かった。レストランでビールとドイツ料理を、と思っていたのに、ホテルに早く帰りたくて、夕食をスーパーで買いこんで早々に引き上げてしまった。
次はドレスデン。この街の名はずいぶん前からなぜか、僕の心に特別の響きで記憶されていた。ここも先の大戦で
徹底的に破壊され、町の風情の魅力が薄い。けれど、宮殿や教会など巨大なバロック建築群が徐々に復元され、世界遺産にも登録された。その中に設計者の名を
取って“ゼンパーオパー”と名付けられたオペラハウスがある。
インターネットでチケットを取ることができるのだが(ドイツ語表記のみ)、売り切れで買えなかった。ただ当日
券がありそうなことも書いてあったのでだめもとでいってみた。オペラハウスの前、トラムの線路脇にあるインフォメーションセンター(カフェも同居)にチ
ケットオフィスを発見、簡単に手に入れることができた〔VISAカードOK〕。(チケットオフィスを見つけるのにはずいぶん苦労した)
さてその席は舞台の3分の1は見えないという最上階、サイドの席、13.5ユーロ(約2300円)。
しっかり腰をかけると舞台はほとんど見えず、浅く座るとやっと3分の2が見える。でもでも大満足。何せ出し物
が“ばらの騎士”なのだ。ここで初演され、作曲者自身も指揮を取ったこの劇場で、聞くことができる日が来るとは、夢想だにしたことがなかった。生きてて良
かった。オクタヴィアンが太めのおばさんで、ゾフィーも若いとはいえないソプラノが演じていたが、そんなことはオペラグラスをのぞかなければ気にはならな
い。興奮しっぱなしの4時間半はあっという間に終わった。爛熟の極みのような耽美的なワルツの調べが、今も耳について離れない。(豪華絢爛たるこの劇場の
見学ツアーは6.5ユーロで昼間行われている。)
ドレスデンからプラハへの鉄道は、ずっとエルベ川沿いを走る。低い山が川に迫り、川辺にへばりつくように民家
が点在する。少し増水すればすぐつかりそうなほどすれすれの岸辺に建っている。(事実何年か前に浸水騒ぎがあったらしい)。これまで経験したヨーロッパの
鉄道旅は、緩やかにうねる丘陵地か、ひたすら平らな平原を行くルートばかりだったので、新鮮だった。
プラハは暖かかった。細く曲がりくねった路地に、装飾をこらした建物が並ぶプラハの街歩きは、本当に楽しい。
冬なのに観光客がぞろぞろ歩いている。ただ2年前1コルナ=4.5円だったのに今年は1コルナ=6円になっているのが大変悲しい。ユーロも高くなっている
し、日本経済よ頑張ってほしい。
今回は国民劇場で“椿姫”、国立歌劇場でバレー“シンデレラ”を見た。バレーを観るのは初めて。シンデレラはストーリーがわかっているのでおもしろかった。何よりも舞台が華やかで美しい。耳になじみのない音楽でも楽しめる。歌が付かないのが残念だけれど。
椿姫はネットでチケットを取った。60コルナ(約3600円)で、びっくりするほどいい席。バレーは30コル
ナで2番目に安い席。ボヘミアチケットで入手した。(火薬塔の近くと旧市街広場のそばにオフィスがある。一回につき600円位の手数料がかかる。ネットの
場合も同様。予約と同時にカードで支払う。受け取りはどちらかのオフィスに出向く)どちらの劇場もやや小振りだが内装は豪華。毎晩プログラムが変わり、2
つの劇場が競い合っているので選べてうれしい。どちらも原語上演で、英語の字幕も付く。
4つの都市を巡る旅で、8つの美術館や博物館、5回の演奏会を楽しむことができた。夢のような10日間だった。ゆめの続きを見に来年もまた出かけたいと願っている。 (2月18日 裕)
|