「たまこちゃーん、たまちゃーん。ちょっと降りてらっしゃーい。」
かーさん、なあに?」
子供のころの私は言葉にうまく力をいれることができなくて、他の多くの子達のように、
上手に『おかあさん』と言えなかった。
読みかけていたマザーグースのパン小僧の話が気になっていたので、
パン小僧のページをつかんだまま、1階の母親の所に向かった。
「あのね、たまちゃん。これからお家の裏の丘に行くから、
たまちゃんの大好きなものを持っていらっしゃい。」
「だいすきなもの?いっぱいあるよ。どんぐりのコマとか、
うさちゃんとか、7色くれよんとか、あとね、あとね、

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この前のどうぶつえんのね、ゾウさんとキリンさんとラスカルといっしょのお写真とかね、まだね、いっぱいあるよ。」

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「うん、そうゆうの。」

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「あとね、てんとうむしの髪の毛
むすぶやつも」

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「じゃあ、それも一緒に持っておいで」

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誰かに自分の大好きなものを見せるのがわくわくするのは、
今も昔も変わらないみたいで 丘に行ってから何をするのかも聞かないまま、
マザーグースをほうり投げて、両手いっぱいに <だいすきなもの> を抱えて、
ひとつひとつ母の足元に並べた。

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「じゃあね、たまちゃんの <だいすきなもの> をみんな、このお母さん特製の
バスケットに入れましょうね。」

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-----おしまい-----

あのころの私の <だいすきなもの> を、バスケットに入れている母の顔が
なんだか楽しそうで私もつられて、一緒に手伝った。
大人が楽し気に何かをたくらんでいる顔は、ちいさな私にちょっとした秘密を
共有させてくれて大好きだった。
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