ある時、今の婚約者でもある彼氏に<私の誕生日のお祝いをしてくれる>とのことで、
BGMにと思って、お気に入りのCDを何枚かと、空のペットボトルに果実酒を詰めて
アパートにおじゃました。
あらかじめ用意してくれていた赤ワインを2人で1本空けたあとでちょっとウソをついてみた。
その時はルビー色だったのをいいことにして、変わったワインが家にあったから
飲んでみないかと言って、あの人の返事も聞かずに、
空になっていたワイングラスにそそいだ。
「んー..............ちょっとクセはあるけど、飲めないことはないかな。
 始めは苦いけど、あとから甘くなって、のどの奥でちょっと熱くなって、
で、最後はスーっとする。
 慣れるまで時間がかかるかもしれないけどね。」
そういいながらも、もう1杯もらえるかなと、空になったワイングラスを軽く振った。
ついさっきまで、深いルビー色だった果実酒が、
いつのまにか
きれいなシャンパン色に変わっていた。

ページ 1-2

ページ 3-4

へえ、色まで変わるの?なんて名前のワインなの?」
「ふふふ、もうすぐ分かるからね、それまで内緒。」
いつのまにか母の口調が乗りうつってしまったらしい。自分で自分に笑ってしまった。

ページ 5-6

ページ 7-8

ちょうどその時、CDチェンジャーが3枚目に移って、1人の女性シンガーが私の記憶を揺さぶって
遠い昔に、どこかで聴いたことがあったメロディーとシンクロ率が上昇して
私の中のふわふわした気持ちを、お腹の中であったかくさせた。

ページ 9-10

ページ 11-12

ページ 13-14

「どうしたの?楽しそうだね。」
「あのね、28歳の今になって気がついたの。今流れているこの曲。ほら、27歳で死んでしまった
ジャニス・ジョプリンていたでしょう?

ページ 15-16

ページ 17-18
-----おしまい-----

私の母親がね、よく鼻歌を歌っていてね、それって、
この<ふたりだけで>っていう曲だったのね。」
やっぱり直球ストレートもストライクが決まると
気持ちがいいものだなと思った私は、
ずいぶんと思いきって言ってしまった。
-16-
「私と結婚しませんか。」
-15-