君が居なくなってからどれ位経っただろう。
あの日、あの時に戻れるなら…
「…ん…ゅん…」
体の上にずしっと重いもの。
「うーん…」
頬を叩かれる感触。
「潤っ!起きてっ!」
目を開けると目の前には目覚まし時計を持ったショウ。
「今何時?」
「もう十時まわったよ!」
「ヤバッ!」
勢い良く飛び起きると体の上に乗っていたショウがコロンと落ちる。
「痛っ!突然起き上がることないじゃん〜」
「相葉ちゃん来ちゃうよっ!」
急いでクローゼットを漁り秋物の茶色いジャケットを取り出す。
「ねえっ無視?」
ジーパンを穿き白いロンTを着る。
「ねえっ!」
コンタクトを入れるために洗面所へ向かう。
「潤っ!ねえってば!」
「うるさいなぁっ!」
そう叫ぶと急にショウはシンとした。
「…潤ここ最近冷たいよね…俺のこと邪魔なんでしょ…」
「は?なに言ってんの?」
コンタクトを入れ終わり部屋に戻るとショウはベッドの上で体育座りをし小さくなっていた。
「俺が居ると友達呼べないもんね…相葉ちゃんと喧嘩したのだって俺のせいでしょ?」
「そんなショウのせいじゃないって」
「嘘でしょ…俺はどこへ行ったって厄介者扱い。邪魔な存在。潤だってそう思ってるんでしょ?」
そう言ったショウの目には涙が溢れていた。
「…ショウ?」
「俺はずっとそうだったんだ!お父さんもお母さんもっ、叔父さんや叔母さんだってそうだった!体弱いからって…みんな俺のこと邪魔だったんだ!!」
今まで潤の家に来てずっとため込んでいた気持ちをショウは一気に爆発させた。
「潤だってそうでしょ!?そう思ってるんでしょ!?」
そう言うとショウは潤に枕を投げつけてきた。
「そんなこと思ってるわけ無いじゃん」
「嘘だ!」
「嘘じゃない」
潤は暴れるショウを力強く抱き締めた。
「…絶対…嘘だ…っ」
ショウは潤の腕の中で歯を食いしばり涙がこぼれるのを必死に堪えた。
「そんな嘘ついたって意味無いじゃん」
「っ…」
「気紛れなんかでショウを家に連れてきたわけじゃない」
潤はショウの頭を優しく撫でると言い聞かせるように言った。
「ショウが必要なんだよ…俺には…」
「ん…」
すると突然インターホンが鳴った。
「チッ…誰だよ…」
潤はショウから離れると玄関へ向かいドアを開けた。
「松潤!翔ちゃん所行こっ!」
「あっ!やっべ!ちょっと待ってて!」
「松潤遅刻〜?」
急いで室内へ戻ると鞄とジャケットをつかんだ。
「ちょっと出掛けてくる!帰るの遅くなると思うけどパソコン使って良いから!」
「ん?松潤誰か来てるの?」
「あ、うん。帰ってきたら紹介するよ。行ってきます」
靴を履き相葉ちゃんを押し出すような形で家を出る。
「誰誰?同じ大学?それとも恋人ぉー!?」
「残念ながらどちらでもないよ」
そう言いながら先頭をきって階段を降り駐車場へと向かっていく。
「誰〜!?」
「ほら、置いてくぞ」
「あっ、待って待って!」
まだ玄関の前に居た相葉ちゃんは階段を転げ落ちるかのように降りると小走りで追いかけてくる。
「転ぶよ」
「うるさいなぁー」
相葉ちゃんは走って俺に追いつく。
「しょーちゃんに会いに行くの久しぶりだなっ」
「全然行ってなかったからね」
「淋しかったかな?」
「どうだろね」
駐車場に着くまでいつもと変わらない会話。
「あ、どっち先運転してく?」
「松潤帰りね!」
「なに、強制?」
「当たり前じゃんっ!」
相葉ちゃんは潤を追い越し走って先に駐車場に着く。
「松潤よろしくー!」
さっさと車の鍵を開けると助手席に乗り込む。強制的に潤は運転しなければならない。
「なんだよ…」
溜息をつきながら運転席に乗り込むとエンジンをかけ車を出す。
「お花どこで買おっか!」
「いつもの所で良いんじゃない?」
「オッケーオッケー!」
「今日もまたスターチスとストックで良い?」
「良いよっ」
「じゃあ急ぐか!」
そう言うと潤はアクセルを強く踏んだ。
車を軽快に走らせて行くと道端に大量に色とりどりの花を出している花屋を見つけ、潤は車を止めた。
「ほら、相葉ちゃん行ってきな。」
「え!松潤は?」
「ここ駐禁。」
そう言うと赤と青の看板を指さした。
「いつものと適当に。わかるでしょ?」
「あーうんっその位わかるよ!」
「はいはい」
相葉ちゃんはガチャッと音を立ててドアを開けると小走りで店の中へ入っていった。
少ししたら何も持たずに車へ戻ってくる。
「どうしたの?」
「財布忘れちった!」
そそっかしいやつである。
「ほらっ」
俺の財布を投げるとキャッチした相葉ちゃんが目をパチクリさせ見てくる。
「早く金払ってきな」
「あ、うん」
パタパタと走って店に戻っていくと大きな花束を持って帰ってきた。
「お待たせ!行こっ!早く行こ!」
車に乗り込むと有り得ない程に急かしてくる。
「はいはい」
すぐにエンジンをかけるとアクセルを強く踏み込み車を出した。
「しょーちゃん待ってるよっ!」
「わかってるって」
平日の昼間の空いた道に車を走らせ東京の外れにある静かな街へ入ってきた。
緑の多いこの街。特に常に青い葉を茂らしている木が多い所、目的地の霊園だ。
駐車場に車を止め花束を持って降りるとそこは芝生が広がっていた。
「松潤!早く!」
跳ねるように走っていく相葉ちゃんに聞こえないように溜息を吐くと付いていく。
「転ぶぞ」
言ったそばから何かにつまづいてバランスを崩している。
「言わんこっちゃない…」
つまづいた地点で待っていた相葉ちゃんに追いつくと二人並んで歩き出す。
広く手入れの行き届いている墓地は規則正しく並んでいる色も形もとりどりな墓石がなければまるで公園のようだ。
目的の場所へ到着した。灰色の洋式墓石に彫ってある言葉、『櫻井』。枯れかけた花が供えてある。
「しょーちゃんお待たせっ」
「遅くなってごめん」
墓石の前に途中で買ってきた花束を置くと二人してその前に座り込む。
「絶対遅すぎっ!って怒るでしょー」
ごめんねーと笑いながら相葉ちゃんは愛おしそうに墓石を撫でる。
後ろに彫ってあるのはたった一人だけの名前。享年17歳。
櫻井翔
二人が愛した人の名前。