二人は幼稚園の時に知り合った。いつもヘラヘラと笑い、ニノの後を付いていった相葉ちゃんの第一印象は『なんか変なやつ』。
「潤くんっ!一緒にあそぼー!」
それから顔の広かったニノを通じて仲良くなった。
幼稚園のすぐ近くの小学校に上がる二人と違い、遠くに住んでいたニノは別の小学校に上がった。
小学校に上がってすぐにこれまたニノの紹介で知り合ったやつがいた。
それが櫻井翔。
幼い顔をしていて同じ年かと疑うようなやつだった。
しかも野球が好きな俺たちとは違い、サッカーが好きな爽やか健康男児といったところだろうか。
放課後はいつも三人で集まり日が落ちるまで遊んでいた。
ピョンピョン飛び跳ね好奇心旺盛な雅紀。
他人と協調しながらも自分の意志を貫く潤。
人見知りせず仲良くなっては皆をまとめる翔。
三人とも性格はバラバラだったが入学してからクラス替えが無く、ずっと同じクラスで仲良し三人組としてセットで扱われることも多かった。
小学校五年生の時、学校行事で初夏に海辺の施設へ泊まりに行った。
部屋はもちろんいつもの三人。クラスメイトも寝静まった夜中に潤はふと目を覚ますとベランダに出て海を眺めている雅紀を見つけた。
「相葉ちゃん?なにやってんの?」
ベランダに出て雅紀の隣に並ぶと潤は声をかけた。
「悩み事」
アンニュイな表情で海を眺めながら雅紀は言った。
「俺…翔ちゃん好きかも」
突然で潤は黙り込んだ。
「男が男を好きになるっておかしいよね。俺どうかしてるのかな…」
それは潤の中にもここ最近芽生え始めた気持ちで雅紀も同じ思いなことを薄々気付いてはいた。
しかし同性に恋をするなど普通は有り得ないと思っていた潤は今まで誰にも言えなかった。
「おかしくないんじゃない?」
「え?」
ぽつりと潤が言ったのを聞くと雅紀は聞き返した。
「人間の半分以上は同性も好きになれるんだって。ただそれを気付いている人が少ないだけなんだって聞いた。」
「ふーん…俺気付いちゃったんだ…」
「俺もそうだし」
「え!?ホント!?誰、誰!!」
沈んでいた雅紀の表情は一気に明るくなり興味津々といった感じで潤に聞いた。
「残念ながら相葉ちゃんと同じ人です。」
「…ええぇぇーっ!?」
「馬鹿っ!大声出すなよ!」
潤は驚いて叫ぶ雅紀の口を手で押さえると先生が起きちゃうからと注意した。
「なんだよー松潤ライバルじゃん!」
「そうなるね。」
雅紀は振り返り部屋の中を見た。
そこにはぐっすりと寝ている翔が居た。
「でも翔ちゃん気付いてくれないんだろうね…俺達の思いに…。」
「翔は…そういうのじゃ無さそうだし…。」
二人は前に翔から好きな女の子について相談を受けていたのだ。
それは翔が潤や雅紀と違うという証拠だった。
「ねぇ相葉ちゃん、俺達面倒くさい人に恋しちゃったね。」
「振り向いてもらえないんだもんねー。」
そういうと二人は大海原に向かって溜息を吐いた。
時は流れ二年後の春になった。
街の至る所には桜が咲き乱れ暖かな空気が流れていた。
翔、潤、雅紀の三人は中学へ進学した。
と言っても学校はエスカレーター式なので入学式のメンツは卒業式の時と殆ど変わりなく、あまり新鮮な気持ちにはなれなかった。
「松潤!相葉ちゃん!俺達また同じクラスだね!」
「すっごくね?」
翔と雅紀は手を取りながらまた同じクラスになったことを共に喜んだ。
「これ絶対先生が何か仕組んでない?」
「良いじゃん、喜ぼうよ?また同じクラスなんだからさ。」
そういうと翔は潤の肩を叩いた。
「そうだね。」
そう言い潤は微笑んだ。
中学生になっても相変わらず三人はつるんでいた。
このとき潤はずっと変わらずこのまま三人で五年後も十年後も一緒に居ると思っていた。
高校に進学し、中学に進学したときと変わらない入学式を迎えた。ただ一つ違うのは潤と雅紀は同じクラスだったが翔だけは違った。初めて三人一緒ではなくなったのだ。
「翔ちゃんが同じクラスじゃないとなんかハリがないねー。」
「そうだね、でも今までずっと同じクラスだった方がまぐれだと思うけど。」
「そうだけどーっ。…俺翔ちゃんのクラス行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
雅紀は走りながら翔のクラスへ行くと連れて戻ってきた。
「松潤のために連れて来ちった!」
「松潤!来ちゃった!」
「もう休み時間終わるよ?」
時計を見ると次の授業まではあと五分。
「そうだっ!翔ちゃん松潤!来てっ!」
そう言うと雅紀は教室から出てどこかへ走り出した。
「ちょっ、待てよ!」
「松潤!行こ!」
翔は雅紀に付いて走り出した。
「待ってよ!」
潤が追い付いて来た先は屋上。そこは何カ所かある屋上の中で唯一鍵が掛かっていないところだった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない?ねー相葉ちゃんっ」
「ねーっ」
扉を開けて外に出ると暖かな日差しと共に爽やかな風が吹いてきた。
「ちょっと風強いねー。」
そう言うと翔は風が吹いてくる方向へ向かった。フェンスにもたれ掛かるとガシャンと音がした。
「翔ちゃん飛ばされちゃうよ?」
「大丈夫だって。」
「飛ばされても拾いに行かないから。」
「松潤それひどーい!」
翔が潤に足をかけると床に倒れこんだ。その横に雅紀も寝転がると三人して空を見上げた。
「空綺麗だね…。」
ぽつりと翔は言った。
「日に焼けそ。」
「松潤白いからねー!」
「お前が黒すぎるんだよ!」
潤は雅紀の言葉に反論すると、ふと翔を見た。
「翔さ、かなり色白くなった?」
「かもしれない。勉強に追われてずっとサッカーやって無かったし。」
「じゃあ焼こうか!」
翔の言葉を聞くと、雅紀はそう言いながら立ち上がり着ていたYシャツを脱ぎ始めた。
「ちょっと相葉ちゃん!」
「松潤も翔ちゃんも焼こうよ!」
「…俺も焼くー!」
渋る潤を横目に翔も二人を背にしてYシャツを脱ぎ始めた。
脱いでいる翔の背中を見て、二人の視線は一カ所に釘付けになった。
今まで気付かなかったが翔の白い背中にはうっすらとそれがあった。
背中の左側にある痣。
それはまるで折り畳まれた翼のような形をしていた。
背中に視線を感じ翔は振り返った。
「…何?」
「いや…その…」
潤は言葉を飲み込んだ。なぜか言ってはいけないような気がしたのだ。
「ねぇ…その背中の…何?」
雅紀は潤が聞きたいことわかるかのように言った。
「これ?相葉ちゃんと同じように生まれたときからあるの。薄いから目立ちにくいんだけどね。」
雅紀も肩から二の腕にかけて同じように生まれつきの痣がある。それは色が濃く、見てすぐにわかるものだ。
「まるで翼みたいな形でしょ?両方あったら飛べたかもねーって言ってるの。」
そういった翔は少しはにかみながらグーッと伸びをした。
「ってか気付いてなかったの?」
「だってそんな背中なんてまじまじと見ないし…。」
潤が口を尖らすと翔はうつ伏せに寝転がった。
「でも別に不自由してないし、なんか逆に守られてる感じがするからいいんだけどね。」
「俺も俺もっ!可哀想とか思われるとムカつくよねっ!」
そういうと雅紀は翔のすぐ横に同じように寝転がった。
「そう!ムカつくー!」
「だよねー!」
「ふーん…。」
潤は少し間を空けて翔の横に寝転がり目を閉じた。
そのままウトウトしてると突然目の前が暗くなった。
「松潤ー。」
目を開けると吐息がかかるくらい近くに翔の顔があった。
「うわっ!…なんだよ。」
「相葉ちゃん寝ちゃったから、相手して?」
「やだ。」
「ちぇっ。」
そう言うと翔は潤のお腹を枕にして寝転がった。
「風が気持ちいね…」
「そうだね…」
風が吹く度に翔の前髪が上がり額が見え隠れしている。
すると潤はいきなり寝返りをうったために、翔の頭が床に落ちゴンッと派手な音がした。
「痛ってぇ〜!いきなり動くなよー!」
潤は翔を背に横向きになっていて丸まっていると言えばそうなのだが、変に前傾姿勢だ。
「ちょっと!松潤っ!」
翔に揺すり動かされたが潤は
「おやすみ〜」
とだけ言うと寝たふりをした。
「松潤のバカ…ぜってーコブ出来てるし…」
潤はというと自分の意志通りになってくれない下半身を鎮めるのに精一杯だった。
「…くそっ…」
いくら経っても引いていってはくれない下半身の熱に痺れを切らし、潤は立ち上がると脱いだシャツを掴み屋上を出る扉へと向かった。
「松潤?どこ行くの?」
「ちょっとね…」
翔に行き先を聞かれたが言葉を濁し屋上を出ていった。
シャツを羽織りながら階段を下り、向かった場所はトイレ。幸い授業中なので人は居ない。
個室に入り鍵を閉めるとドアに寄りかかった。
「はぁ…なんでこんなことで…」
溜息を吐くと布越しでも形がわかるほどになってしまったソレをちらりと見た。
「俺も若いな…っ」
布越しに触るだけではもどかしく、ズボンの前を開けると下着の中へ手を入れ直に触った。
「んっ…」
根本から先まで扱くと潤は吐息を漏らした。
目を閉じ、翔を犯していると考える。何度もしてきたことだ。
「っ…はぁ…」
学校という場所が良いのか悪いのか、何度か扱くとすぐにイってしまいそうな感覚に捕らわれる。
「ぁ…翔…っ」
まだ見たことのない翔のイく顔を想像しながら潤は果てた。
「松潤遅ーい!」
潤が屋上に戻ると翔は寝ている雅紀の顔をいじって遊んでいた。「…何やってんの?」
「つまんないから相葉ちゃんの顔で遊んでんの。」
翔は雅紀の頬をグイグイ押して遊んでいる。
「こんな事してんのに起きないの?」
「うん。」
今度は目を無理矢理開かせている。とうの雅紀は白目で爆睡。
「普通起きるでしょ。」
潤はクスクス笑いながら雅紀の額を叩いた。
「う〜ん…」
雅紀は寝返りをうつとむくっと起きあがった。
「相葉ちゃんやっと起きた!」
「お前爆睡しすぎ。」
「んー…ん?」
雅紀はまだ夢の中の住人のようでボーっとしている。
「相葉ちゃんおはよっ!」
「おはよ…」
「もう授業終わるんじゃね?」
潤はそう言うと、並んで建っている隣の校舎の時計を指さした。
「あと5分だね。」
「うん…あと5分寝かせて…」
「駄目だって、相葉ちゃん!」
翔は雅紀の体を揺すって目を覚まさせようとしている。
「良いじゃん、寝かせてそのまま置いてけば。」
潤の言葉を聞くと翔は「アハハっ」っと笑った。
「相葉ちゃん寝て良いよー、置いてくから!」
「お前の弁当早弁してやる。」
すると雅紀はパチッと目を覚ました。
「起きるっ!弁当食べないでよっ!」
雅紀は潤の元へ駆け寄るとガタガタと肩を揺すった。
「食わねぇよ。」
するとチャイムが鳴った。
「さてと、戻ろっか?」
「やだ、翔ちゃんと一緒に居る。」
そう言いながら翔が立ち上がりYシャツを羽織ると雅紀が足にしがみついた。
「相葉ちゃーん…まだ寝ぼけてるのー?」
「起きてるっ。」
「ほら、行くぞ。」
潤は雅紀の腕を掴むと翔から引きはがした。
「松潤も翔ちゃんと一緒に居たいでしょ?」
まだ一緒に居たいのは山々だが、次の授業は確実に出なければ成績にひびく。
「お前留年決定。」
「えぇーっ!?」
「翔、相葉ちゃん置いて行こ。」
「うん、そうだね。」
潤と翔はドアへ向かい、開けると校舎内へ入っていった。
「ちょっと待ってよー!」
あとから走って雅紀が追いかけてくる。
雅紀が二人に追いついてすぐ、運悪く先程まで潤と雅紀のクラスで教鞭を執ってていた教師に出会してしまった。
「相葉!松本!どこに行っていたんだ!」
「いやー…その…」
「おくじょ、むぐっ!!」
スルリと言葉をこぼしそうになった雅紀の口を翔は手で塞いだ。
「僕が調子悪かったので、保健室までついてきてもらったんですよ。二人とも僕と同じクラスではないんですけど…授業の時間丸々二人に看病してもらっていたので。」
「そ、そうか…ならしかたないな…」
そう言うと教師はさっさと去っていってしまった。
「ベーだっ!」
去っていった教師に向かって翔は舌を出した。
「あー!翔ちゃん居て良かった!そうじゃなかったら俺ら今頃殴られてたかもっ!」
「それにしてもよくとっさにそんな嘘が吐けるな?」
それを聞き翔は俯いた。
「ちょっと、ね…それじゃもう教室戻るよ!授業始まるし…」
そう言うと翔は潤と雅紀に背を向けて歩きだした。
「翔ちゃんまた昼休みにねー!」
翔は振り返らずに二人に手を振った。