日本の鷹道具T


作成2006年3月23日

このページの最終更新日は2019/01/28です

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 このページでは四十二種類有ると言う日本の鷹道具をご紹介します。参考に宮内省編「放鷹」を見たらやはり四十二種類紹介されています。しかし、現在では使わなくなった物や市販品で代用されている物も有りますが、「放鷹」で取り上げている順番に合わせてご紹介したいと思います。但し、流派による名前の違いや形状の違いなど有りますので、これはあくまである流派で使われている道具であり、その説明とお考え下さい。決して何処かの流派の道具が違うなどと言うものでは有りません。

なお、新しく鷹道具に加えた物も参考にご紹介します。

.大緒:(オオヲ)


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 左が大緒、右が縒り上がった房の材料、大緒は鷹の種類、オス・メス、年齢、戦歴の違いにより長さ、色が変わってきますし、房の本数にも決まりが有ります。さらにハレとケ(晴れの場所と日常)によっても長さが変化します。特に流派によって違いが出る所です。また、江戸時代には幕府と諸藩により違いが有りました。但し、私自身実際に全てのタイプを持っている訳ではなく、今は1種類で全てをまかなう事も有ります。昭和50年代頃には専門の組紐職人に頼むと1本3万円程度でしたが、今は自分で製作しています。房を含めた組紐の部分を絹で作ると材料費で約1万円、代用の化学繊維でも5千円位掛かりますから、今は本職に頼んだらかなりの金額になる事は間違いないと思います。組紐の部分は 1日も有れば組めますし、それほど難しく有りませんが、房(縒り房)の部分を縒り上げるのは組紐の4倍は時間が掛かります。毎年何本か作っているので今度組紐を組んでいる所をご紹介します。

 用途は鷹を架(ほこ:止まり木)に繋ぐ場合や、据え回す場合いつも足革に付けています。唯一使わないのは狩猟中です。狩猟中はこれから紹介するエガケがそれを代用します。

※「据え回す」鷹を拳に止まらせて歩きまわる事。特に「据え回し」と言う鷹の仕込みの中で最も重要な仕込みです。

2.弽:(エガケ:この漢字の正しい読み方はユガケと読みますがエガケと呼んでいます)


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 エガケといいますが、流派によってはユガケ(弓道と同じ呼び名)とも 呼んでいます。要するに左手にはめる鹿革製の手袋です。上が新品で下が一猟期使用したものです。一猟期使うと血で汚れてしまうので毎年新しいものにしています。この為、ほとんどの人が自分で手作りしています。右はふすべ革(フスベルはイブスの意味で鹿革を燻した物で一般に茶革と呼ばれる)の裏に型を写し取ったものです。 他に白革、紫革が写っています。前は小売店(10センチ四方で160円)より購入していましたが、今は直接製造業者より購入しているのでかなり安く手に入ります。「鹿革と弽」は下記からお進み下さい。


鹿革と弽

※このエガケの手首の所に革紐が見えますが、狩猟中はこの革を一時的に足革に差して大緒の代用にします。 

3.伏衣:(フセギヌ)


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 一番初めに鷹に足革を差し、爪や嘴を削るときに暴れないように固定する為の拘束衣です。使い方は「日本の鷹狩」に鷹を伏せた写真と説明が有りますので、参照下さい。写真の物は一般的な物で、もっと簡易型の物も有ります。また、隼には肩衣(かたぎぬ)と言う赤い布で作られた物を使います。写真では分かりませんが、反対側には鷹の肩を入れる袋が付いています。写真の物は江戸時代でも古い時代に属します。

※「伏せる」鷹が暴れないように布で包み一時的に暴れないようにする意味。

4.足革:(アシカワ:脚革とも書く)


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 鷹の脚に付けて。これを握る事によって鷹を拳に安定させる役目を持つもので、犬の首輪と引き綱に同様な働きをする物です。また、獲物に向かって鷹を投げ付ける時に、この足革の握り部分が重要な役目をします。これは流派により形が違い、大緒と同じく鷹の種類やオス・メス等により形と色が変わります。特にオオタカとハヤブサでは形が違います。また、用途により縫い合わせた物と一枚革の物に分かれます。今はエガケと同じ革で作っていますが、本来はオオタカには紫革と使い、ハヤブサには燻革(フスベガワ)を使います。左の写真はオオタカのメス用で、上の二枚は縫う前の物で、下が出来上がりです。右の写真は古い型です。今は全てをパソコンを使って製図(CAD)し、電子データとして保管しています。足革は受け継がれる段階で木型から弟子が写し取る事が行われて来た為、でどうしても形が変形してしまうので、これを防止する為に電子データ化して実寸ですぐに印刷出来る様にしています。

5.イギリ


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 足革と同じ材質の革で作る細い革紐です。鷹の後ろの指、懸爪(カケヅメ)と足革を繋って足革の動揺を防ぐ為の物ですが、これが無いと鷹が扱いにくくなります。小さな物ですが重要な働きをしていますし、日本独特の物と思いまが、私の知っている範囲では取り付け方法は二種類有ります。上はイギリにウグイス(右側のとがった竹片)を取り付けた所で、懸爪と足革を一緒に縫い合わせる様に使います。もう一つは懸爪にイギリを足革の様に取り付けて、それを足革に縛り付ける方法です。

6.道具袋:

 いちいち写真を載せるのが面倒なので、道具袋の中身をまとめて紹介します。道具袋自身は市販品ですが、数がまとまればオリジナルも作れます。


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 左の写真の左上から反時計回りで、ウグイス、ラジペン、火針(2本)、鏝、ヤスリ、爪嘴小刀(2本)、錐、爪切り(犬用)、爪切り(猫用)。 この他に羽虫取りが有りますが、タバコのニコチン(猛毒)を使う為今は使っていません。鷹に害の少ない薬剤が動物病院で手に入りますのでそれを使っています。

7.ウグイス:

 イギリの項を参照下さい。あの様な形でイギリを挟んでを通すのに使いますが、次に紹介するクジリ共々ラジオペンチの方が早くて簡単なので今はあまり使っていません。革細工で使うレース針と同じ構造になりますが、これは海外で考え出された物です。他には骨又は竹製で針と同じ格好の物も有ります。

※本来ならば伝統の道具を使いたいのですが、私の場合、全てを一人で行う都合から簡単な方法で行っています。

8.クジリ:

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 足革を取り付ける際に足革の穴を広げて足革の通りを良くします。本来は鹿角の先端を使いまが、ラジオペンチの楕円形の断面の方が有利です。 クジリは市販品(鹿の角)で3千円程度で売られています。(主に奈良方面では普通に手に入ります。)左は河馬の牙で出来ていて右は鹿の角製です。最近は山で鹿が増えすぎて鹿の角を山に拾いに行く遊びも有るようですが、こちらでも森林組合等で安く売られていますので、自作しても良いでしょう。上のサイズの角でいうと、上から三番目の角を使うと良いでしょう。但し、上の角は肝心の三番目の先が折れているので使えません。写真の鹿のクジリは先端と断面を茶色に変えています。染色している訳では無く、一寸した加工を加えるとこの色になります。


9.小刀:(爪嘴小刀)

 彫刻刀の切出しと平刃の高級タイプと言った所です。幅も安物と比べると少し有ります。最近は猫や犬の爪切りと甲丸ヤスリの方が使いやすいのでこちらも使っています。用途は爪と嘴を削り、仕込み中に据前が怪我をしない為と、獲物を生かして捕まえるためです。しかし、出猟日数が少ないのと、出会いが少ないので、私の場合爪先を止める程度にして、出来るだけ鷹が獲物を掴みやすい事を優先にしています。犬用の爪切りはオオタカのメス用、猫用はオオタカのオス及びそれ以下の鷹用です。

10.火針:(カシン)

 見た感じピッキングの道具のようですが、昔はこれを焼いてツボにお灸をすえる道具でしたが、今使う人はいないと思います。ここでは2本しか有りませんが、3本セット が基本になっています。1本は行方不明。

11.鏝:(こて:これは「放鷹」には載っていませんが、実際に宮内省では使っていました。)

 小型の焼鏝です。特に鷹匠専用の道具ではなく、クジリ同様一般的な物を流用した物です。これで足革にアイロンを掛けますが、もちろん今は使っていません。 普通の手芸用アイロンを使います。また、爪嘴を行った時血が出たらこれで焼いて止める為に使います。しかし、先にも書きましたが今は血が出るほどまでしませんので使いません。また血が出た場合には犬用の止血剤で焼くのが良いと思います。 (動物病院で購入可能です。)

12.錐:(キリ:これは「放鷹」には載っていませんが、実際には使っています。)

 丈の短い千枚通しです。広範囲に使える道具です。どちらかと言うと道具作りに活躍します。私はやりませんが、鳩や獲物を絞めるのにも使えます。市販品です。

13.爪嘴袋:(ツメハシブクロ)

 本来は火針と小刀と錐を入れて袂に忍ばせていた物です。一閑張りで表に漆を塗った物が普通の様です。今では腰に下げる印籠の様な物に変わっています。これは着物を着なくなった為とおもわれます。主に錐、針、糸、ハサミを入れて仕込みの段階で鳩の目を縫う為の道具を持ち運ぶのに使います。

特に鷹狩り用で形が決まっていると言う事は無いようです。 宮内省時代には革の鞄に道具袋を入れて持ち歩いていました。

14.策:(ブチ:新宿に徳川家康公がこのブチを洗ったと言われる「策(ムチ)の井」と言う井戸の旧跡が有ります。)



藤蔓から作ります。用途は羽根を整えたり、口の回りの汚れを洗い落とすのに使います。詳細は「藤蔓と策」をお読み下さい。

は下記からお進み下さい。

藤蔓と策

15.架木:(ホコギ)

 詳細は「鷹部屋日記」で紹介します。

16.架跨:(ホコマタギ)

 詳細は「鷹部屋日記」で紹介します。

17.架垂:(ホコタレ)

 詳細は「鷹部屋日記」で紹介します。

18.張架:(ハリボコ)

 詳細は「鷹部屋日記」で紹介します。

19.差架:(サシボコ:「放鷹」では野架と紹介されています。野架の一種です。)


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 撞木型の架ですが、まず使いません。これを運搬するには誰かに手伝ってもらわないと駄目だからです。屋外に於いて鷹を休ませる為の携帯型の架です。 架の部分には畳表を巻いて有ります。右はアフリカワシミミズクに使った使用例です。 この差架の変形バージョンが枷架(カセボコ)で釣竿式に繋いで使う物で、こちらは差羽(コチョーゲンボウ)に使います。

20.台架:(ダイボコ)



 屋内用と屋外用が有りますが、これは屋内で鷹を止まらせる為の架です。 但し、普通鷹を飼っている場合、屋外には次に紹介する外架が日向と日陰に一つづつ設置されているので、屋外用は使っていませんと言うより持っていません。写真の撮りかたで、変形して見えてます。



 普段は畳表を掛けてこの様に使います。これを架垂れ(ほこたれ)と言いますが、上の台架の浅黄色(あさぎいろ)の布は架衣(ほこぎぬ)と言って正式な場合に用います。この時の大緒の繋方(つなぎかた)には幾つもの作法が有りますが、その内ご紹介します。

21.外架:(トボコ)


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 鷹部屋の近くに常設して置く架で、架垂れを掛けて置き、鷹を休ませたり、日光浴や水浴び後に体を乾かす為に使います。 先にも書きましたが、日向と日陰のニ個所に設置して置きます。野良猫が居るので標準よりも高くなっています。

22.野架:(ノボコ)


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 屋外用の組み立て式架ですが、まず使う事は有りません。主に初夏のヒバリ(練雲雀)猟の時にハイタカを休ませたり、水浴びをさせた後に乾かす為に使います。今はヒバリを狩る事は出来ませんから、たまに忘れない様に作るだけです。但し、これは仮に組んだ物で実際には倒れないようにしたり、架垂れが動かないようにしたり細工をします。ここでは省略しています。



 上は良く行く狩場に猟期の間だけ、設置する物です。 無論、架垂れを掛けて使います。

23.忍縄:(オキナワ)経緒:(ヘヲ)

 鷹の仕込みの段階で足革に付けて、逃げた時に鷹を止めたり、振り鳩の時に鳩に縛り付けたりと色々役に立ちます。仕込み上がってからも種々の仕込みや鷹の回収にも使います。 材料と縒り方に決まりが有りますが、今は市販のナイロンの紐を使っています。紐の先には虎革と言う革が付き、蛇口と呼ぶ目が切って有ります。忍縄は二十二間、経緒は十一間の物を使っています。 名前の違いはオオタカ用か小鷹用かの違いです。



 しかし、これが結構なくしてしまいます。狩猟中に腰と言うか、お尻の方に付けていて、帰りに車に乗るときに無い事に気付いたりします。無論外れ止めは有るのですが、後ろの為ちゃんと付けて居ないみたいです。だから今、手元に良い忍縄は残っていませんが一応紹介します。



※「振り鳩」鳩の片羽根の生え際をオキナワで縛り、又は輪に通してこれを鉛直方向に円を描いて回転させ鷹を呼び、近くまで来たところで上に放り投げて鷹に掴ます仕込みの一つ。 但し、回収目的の場合には振り方を変えたり。上手に真上に上げるとそのまま下に降りて来るのでほとんど歩かずに回収できます。

 小鷹用の物を特に経緒(へを)と呼びます。

24.忍縄筒:(オキナワヅツ)経緒筒:(ヘヲヅツ)



 竹筒ですが、忍縄の虎革をはさむ為の溝(猪目)が切って有ります。仕上げは拭き漆で、筒を抜きやすくする為に片側に向かってテーパになっています。小鷹用の物は特に経緒筒と呼び、サイズが少し小さくなります。

25.忍縄袋:(オキナワブクロ)


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 左の忍縄袋は初夏のバン猟の時に使う為の物(逸れた鷹の回収等)で、濡れても乾きが早い様に網で出来ています。また、獲れたバンを生かしたまま入れて置くのにも便利です。但し、 初夏のバン猟自体昔のお話です。普通の物は網の部分が布(オリジナル)で作られていますが、使いづらいので鳩袋をヒントに右のものを考案して使っています。

 右は丁度、鳩袋を小さくしたような物で、左の物と比べるとぶらぶらせず、持ち運びに便利ですし、本来の使い方では有りませんが、この状態で筒を抜いても使える等の利点が有り 、非常に便利です。私のオリジナル品です。

26.水縄:(ミズナワ)


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 左が麻紐製、右は忍縄の短い物に柿渋を塗った物です。私の場合、猟期中の土、日のどちらか天気の良い日の昼間、屋外で水浴びをさせる時に足革に付けて 使います。何かに驚いて飛んで行かない為に使いますが、今は忙しいので鷹部屋内に放して勝手に水浴びをさせて、終わったら据え出して日光浴をさせます。この為、今は使っていませんし、 使う時は右側の物を使っています。

27.丸バシ杭:(マルバシクイ)


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 オリジナルは竹製の杭でしたが、今は番線から作った物を使っています。硬い土には有効ですが、やわらかい土だと抜けたりするので注意が必要です。今では市販品で、同じ様な杭がホームセンターで売られています。

※古い鷹匠道具、古文書に付いての情報もお待ちしています。

※続きは日本の日本の鷹道具Uをご覧下さい。
 

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